第710話 『高級』住宅地には理由があった
「なんかこう、変な感じに敷地外から微妙に力を感じない?」
敷地を一応歩き回り、怪しげな石碑も墓の跡も骨が埋めてある跡も見当たらなかったが・・・何か違和感を感じ、足を止めて碧に聞く。
こう、露骨な悪霊の気配とかは無いんだけど、ゆっくりと穢れが流れて来ている様な感じ?
穢れって普通はそうそう動かないんだけどね。
穢れと言うのは怨みや怒りや死が瘴気と言う存在にゆっくりと変質しながら自然発生的に滲み出てくる結果なので、基本的に発生したところに留まる。
どこぞの茶畑の様にそこで育った植物に染み込んで収穫と一緒に動くことはあっても、それは人間が物理的に染み込んだ存在を動かしたからで、多少は埃とかに染み込んだ瘴気が風で動くと言う事はあっても、大々的にコンスタントに動く事は基本的に無い・・・筈。
第一、今日は風も殆ど無いし。
悪霊が居たりしたら滲み出てくるから、悪霊の存在に引き寄せられているかの様に見えると言えなくも無いが、悪霊が居ない普通の住宅地に集まるなんて言う現象は見た覚えがない。
「確かに。
瘴気が滲み出ていると言うよりも、少しずつ流れ込んできてるよね?」
碧も周りを見回しながら言った。
『壊れ掛けた瘴気祓いの術じゃの。
あちらとあそこの坂の上あたりの武家屋敷があった地域の穢れを祓う結界が中途半端に残って、祓わずに押しのけてこちらに寄越しているようじゃ』
白龍さまが突然現れて教えてくれた。
ええ??
「瘴気祓いの結界、ですか?」
浄化結界とどう違うんだろ?
『人の暮らしで自然に出てくる恨みや嫉みから生じる穢れを自然の気を使って徐々に清めつつ排除する結界があった様じゃが・・・核となる神木が伐られたり、寺が世代交代の時に知識を失ったりで祓う機能が損なわれた様じゃの。
それでも結界の機能が穢れを排除する働きをしていたのか、住んでいる人間から生じた穢れが結界から押し出され・・・こちらの方に来た様じゃ。
後ろに寺があるせいでそのまま流れ去らずに、ここら辺に滞留したのじゃろ。
ちゃんと建築時に瘴気払いをしなかったか、やった人間の腕が悪かったのかも知れんの』
白龍さまが更に解説してくれた。
へぇぇ。
そんな結界があったんだ。
まあ、確かに人から自然発生する穢れって無い方が気持ちよく過ごせるもんねぇ。
他者からの怨みや嫉みからくる穢れが家に溜まらないように武家屋敷に住む大名なり家老なりの金持ちが江戸時代とかに退魔師に結界を設置させたんだろうね。
それが200年前後経ってもまだ不完全とは言え一部でも機能していたと言うのは驚きだ。
武家屋敷の敷地跡だったら武家が居なくなった後でも金持ちが住んでいたんだろうから、戦前ぐらいまではちゃんとその結界をメンテしていたのかも?
戦後に色々知識が失われただろうし、古い屋敷跡もかなりの部分が分譲住宅やマンションになったようだし、いつの間にか結界の事を覚えている人が居なくなったんだろうね。
もしくは、居たとしても自分の土地じゃ無いから退魔師を雇ってメンテする理由が無くなったか。
「そっか、お墓が目につくけど、お墓があるって事はお寺もあるよね」
背伸びして敷地の裏を見ながら碧が言った。
そうなんだよねぇ。
このマンション、裏が墓地なの。
お陰で日当たりは良いらしいが・・・ますます印象は悪いと言うか、穢れがあっても不思議はないと言うイメージで。
墓地の方はちゃんとお寺の一部として清められていたから、一般的なイメージは悪くても現実としては穢れの原因じゃあ無いんだけど・・・ある意味、押しやられてきた穢れをお寺の敷地外に留めちゃったから、原因の一つと言えなくもないね。
「ええ・・・っと?
つまり?」
青木氏が混乱した表情で私たちの顔を見回した。
「あっちとあっちに、大きな浄化結界モドキの残骸があって、それがそこでの日常生活で徐々に発生する穢れをこっちの方向に押し出しているの。
そしてこちらに押しやられた穢れがそのまま通り過ぎずに、マンションの後ろのお寺に流れ込めなくて足止めを喰らってこのマンション近辺に溜まってしまっているって感じ?」
碧が大雑把に説明した。
「つまり、誰かにその結界を完全に撤去させるか、ここに浄化結界を設置するかしないと問題は暫く解決しないですね〜。
あと数十年もすれば浄化結界モドキの残骸も完全に機能を失って穢れを押しやる事も無くなるとは思いますが」
流石にお寺は数十年経っても残るだろう。
多分。
跡取りがいない寺ってどうなるのか知らないけど、ここならまだ都会だから檀家とかも居るだろうし、お寺ならなんとか食っていけるんじゃないかね?
「ちなみに、その浄化結界モドキの残骸とやらを今すぐ撤去させたらどんな影響が出ますか?」
青木氏が聞いてきた。
「多分、その結界があるお陰であちらとあちらの丘の上の住宅地は過ごしやすいと言うか、気分が良いというか、何とはなく高級住宅地に相応しい雰囲気があるんじゃないかと思うんですよね。
それがなくなるので、今までだったら何もしないでもキープ出来た高級感を意識して維持するようにしないと、住宅地のブランド価値が下がるかも?」
穢れと言うのは普通の人の目には見えないが、ある程度は無意識に感じ取れる。
無ければ印象が良いし、あれば汚いって感じるので清潔な清々しい高級住宅地っぽい印象だった場所が、普通にそこら辺の街中と同じになるので高級感は褪せるだろうし、誰かが何かをすれば瘴気が漂って汚れる可能性だってある。
今まで何もしなくても高級住宅地としてキープ出来ていた地域が、浄化結界モドキの残骸を撤去した後は手を抜くと落ちぶれた雰囲気になりかねないので、ある意味要注意だろうね〜。
まあ、丘の上って言うのは見晴らしが良いし、二つの丘に挟まれた谷っぽい低地って日照が劣る上に大雨とか降ったら冠水しかねないから、坂の上と谷間の土地の格差は無くならないだろうけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます