第709話 久しぶりに濃厚な

「3件目はこちらになります」

青木氏に送ってもらった最後の推定事故物件は・・・外から見てもなんか全体が暗い感じがするマンションだった。


「あれ?

これは露骨に穢れているから、悪霊がいるのでは?」

私と同じ感想を持ったのか、碧が首を傾げながら青木氏に尋ねる。


「それが何故か退魔協会の調査員に依頼しても、穢れはあるものの悪霊は見つからずって結果になるんですよ。

あまりにも住民の体調不良の苦情が多いのでダメ元で穢れだけでも祓って貰ったんですが、数ヶ月でこの様子に戻ってしまって」

困った様に眉を下げながら青木氏が答えた。


「これってどこか一部屋と言うよりも、マンション全体って感じですよね。

今日はどの部屋を見る予定だったんですか?」

なんかこう、マンション全体が穢れているとなったら共用部とか敷地に何か埋まっているとか?

もしくは以前のヤバい大規模再開発の案件みたいに、半端ない密度でマンション内の各部屋に恨みや悪霊が溜まりまくっているか。


「一応、どの部屋でも入れる様に全ての住民から事態が改善しても更新時にインフレ率以上は家賃を上げない約束をする事で委任状を貰って合鍵を持ってきています。

事故物件として格安とは言え、あまり居心地は良くないらしいのでお祓いが成功するならそれはそれで歓迎すると皆さんお考えの様で」

にこやかに青木氏が言った。


マジか〜。

自分の留守宅に入って良いなんて委任状を出すって凄すぎない??

それとも賃貸ってそんなもんなの?

もしかしたら事故物件特有の事情だったり??


まあ、ヤバい事故物件だったらいつか自分が呪われて身動き取れなくなって餓死するかもと言う恐怖があるかもだから、多少のプライバシーの侵害ぐらいは許容範囲内なのかね?


そこまで覚悟している(かもな)人の部屋なんて、見たい様な、見たくない様な・・・。

願わくは、個人宅に入らなくても原因解明が出来る事を期待しておこう。


『クルミ、まずは居住部分にいる霊とかに聞いて回って何が原因なのか誰か知らないか探してきてくれる?

もしも悪霊がいたら近付かずに教えて』

青木氏が居るので、念話でクルミにお願いをして多めに魔力を渡しておく。

一応本体のストラップの方はカバンに付けているから、隠密型のピンバッジに憑いている分体が悪霊にやられてもちょっと痛い程度でクルミ自身は大丈夫な筈だけど、襲われても魔力の力技で逃げ切れるなら逃げた方がいいからね。


まあ、大抵の悪霊は猫の霊にはあまり興味を示さないんで襲われない可能性は高いと思うけど。

それでもいじめっ子が猫を虐待して遊ぶ様に、猫の霊に襲い掛かる悪霊が居ないとも限らない。


「じゃあ、まずは敷地と共有部をしっかり確認していきましょうか。

ちなみに、水のタンクとかに異常がないのは調べてあるんですよね?」

裏の自転車置き場の方へ足を進めながら青木氏に尋ねる。


流石に水タンクに死体が入っていたら水が変色したり悪臭がしたりで分かるだろうが、悪霊がそこに憑いていた場合は水への影響が目には見えない形になる可能性の方が高い。


「・・・少なくとも定期清掃で問題があると言う報告は上がってきてませんね」

青木氏が答えた。


「退魔協会の調査員は屋上とか共有設備とかは調べていないんですか?」

碧が突っ込みを入れる。


「プロなので、お任せしてしまいましたから・・・。どこを調べるのか見られるのを嫌がって、下で待っているよう言われたので分かりません」

困った様に青木氏が言った。


プロって言ってもねぇ。

以前の立川少年がある程度現場で教わったら調査員になるかもと思うと、どの程度の専門知識を身に付けているのかは微妙な気もするんだけど。

まあ、退魔協会の方でそれなりにしっかり訓練プログラムを組んでいるかも知れないが。

退魔師向けのオリエンテーション研修がダメダメだったからって、退魔協会自体の職員の研修は流石に同レベルで駄目ではない可能性が高い。


元々、オリエンテーション研修はちゃんとしたプロの退魔師の元に弟子入りして一人前と認定された退魔師が受ける研修で、退魔協会との関係に関する知識の提供な様だったからね。


退魔師としての知識を増やしてくれるものだと期待していた私が間違っていたんだろうと今では思っている。


まあ、それはさておき。

敷地をしっかり確認しましょうか。


でも、敷地よりも建物の方が穢れが濃い気がするから、建物の内部に原因がありそうだなぁ・・・。












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