第708話 色々面倒そうな気がする
「犯人は管理人でした。
マンションにいた猫の霊によると、賃借人が出ていった際に不動産屋が部屋を見せる為に管理人が鍵を預かった部屋の合鍵を作っている上に、鍵をピッキングでも開けられるようです。最近は何か気に入らないことがある度に帰宅が遅い住民の部屋や空き部屋に侵入して音を立て、他の部屋の住民を脅かして鬱憤ばらしをしているようですね。
管理人の寝室の下着が入っている引き出しに合鍵やピッキングの道具が隠してあるようです」
帰宅後、青木氏に電話して判明した事実を伝えた。
流石に私が直接情報を本人の記憶から読み取ったと言うのは色々不味いので、現場の猫霊から情報を貰ったと言うことにした。
まあ、管理人の記憶を読むことになったきっかけはクルミがマンション内にいた動物霊から集めた情報が元なんだから、ほぼ事実だよね。
『住民がいる部屋にまで入って居るんですか・・・。
盗難の話は出ていなかったので、もしかしたら住民が出ていった後の空室に入り込んで音を立てているのかもと思ってはいたのですが。
分かりました、確認できて助かります。
明日も残りの一件をお願いして大丈夫ですか?』
ちょっとショックを受けていた様だったが、青木氏は比較的あっさり私の言葉を受け入れて明日の予定のことを聞いてきた。
「最後の3件目ですよね。
大丈夫ですよ」
考えてみたら、今日の午後のは成功って扱いなのかな?
10万円の成功報酬は貰えるなら欲しいけど。
まあ、青木氏なら裏が取れたらこっちがせっつかなくてもちゃんと報酬を払ってくれるだろう。
カビ物件の方は微妙だが。
あっちはカビが本当に原因だったか証明しにくいし・・・何と言っても構造的な問題なのだ。
単にカビ落としをしたり救いようなくカビに侵蝕された素材を交換したところで、断熱効果が足りなくて結露が大量に発生するからカビているならそれこそ大々的に補修工事でもしなきゃまたカビるだろう。
あっちはある意味、建てたのが間違いだったって感じだよねぇ。
解決策がほぼ存在しないから、成功報酬も難しそう。
前世だったらそれなりに腕がいい元素系魔術師を使ってカビを焼き払った後に換気の魔法陣を設置したら定期的に動力源となる魔石を取り替えるだけででカビを撃退できたんだが、現代日本でカビを撃退するのはもっとずっと大掛かりになるだろう。
でもまあ、建て直すよりは安上がりだろうから何とかするんだろうが。
多分。
売っちゃう方が楽っちゃあ楽だろうけどね。
明日の待ち合わせ場所を話し合い、電話を切って碧が作った料理を運んで食卓につく。
今日は碧が夕食当番だったから、電話中にほぼ準備が終わっていたんだよね。
やっぱ誰かが食事の準備をしてくれるって良いよね〜。
世の中の男性陣が結婚したくなる気持ちが分かるわ〜。
職場で働きたくない女性が結婚して専業主婦になるならまだしも、共働きがほぼ標準になってきた現代で女性側が何故わざわざ結婚して1人分どころか自分と夫プラス子供の分まで家事をする羽目になるリスクを取りたがるのかは微妙に不明だが。
色んなニュースや記事を見る限り、日本では共働きでも家事や育児の負担は圧倒的に女性の方が重くなるって言うのは統計的事実だ。
自分が結婚する相手は違うと思っても、会社や友人からの同調圧力っていうのは強いぞ〜。
しかも『奥さんがいるんでしょ?もっと頼れば良いじゃん』と言う楽な方に唆す方向の力だからねぇ。
それこそ、自分が同期と同じ様に残業や出張をして出世する方が将来的に家族の為になるとか言い訳もしやすいし。
負担を押し付けられて出世に差し支える女性はどうなるんだって感じだけど。
ここで五分五分な負担で女性も出張や残業をしていたら子供が可哀想とか周囲に陰口を叩かれ、下手をしたら夫には浮気をされるんだから、日本社会の構造ってつくづく女性に不公平だよねぇ。
まあ、ガッツリ働きたくない女性にはお得かもだけど。
女性が実質働けなかった過去ならまだしも、今なら自分一人で生きていく分ぐらいは問題なく稼げる。
下手に結婚して妊娠したからって退職する方が将来的に再就職が難しいし、夫が碌でなしで離婚したり、事故で死んだりした場合の経済的リスクとかを考えると危険性は高い。
それなのに残業が当然で女性が負担を甘んじる事を強要する社会構造を変えずに『異次元な少子化対策をやっていきます』って政治家のおっさんが言ったところで『異次元な無駄遣いの言い間違いじゃない?』と言いたくなる。
ふんぞり返って女性に家のことを押し付けるのが当然と思っている男の政治家たちが考える対策なんて、せいぜい自分の利権を増やすための見た目だけの無駄遣いでしょうに。
なんかそんな事を考えるせいか、私は結婚したいとかって思えないんだよねぇ。
そのうち、『子供を産みたい!』って本能が芽生えてくるのかなぁ?
寒村時代は若い娘は結婚するのが当然な社会だった。
前世の記憶が覚醒した時点で結婚の儀が終わっていたし、狩りで生きていくのに役立つ様な魔力も無かったし外の世界の情報も無かった。それに普通の妻と母として生きる生活って言うのにあこがれもあったんだよねぇ。
だから普通にそのまま他の女性と同じ様に村で生きて死んだ。
だけど今の日本だったら結婚する必要はないからね。
態々負担が増えると分かっている行動を取る気はイマイチ起きない。
もしかしたら、友人や知人が結婚し始めると寂しさに一緒にいる相手を求めて結婚するのかも?
・・・碧の将来設計はどうなんだろ?
食事を作ってもらえる幸せと日本的結婚生活について考えていたら、碧が麦茶のジャグを持って台所から出てきた。
「どうだった?」
碧がお茶を注ぎながら聞いてきた。
「もしかしたらって疑ってはいたみたいね〜。
ただ、何か盗まれたって話が出てきてなかったから人が住んでる部屋にまで侵入して嫌がらせをしているとは思っていなかったみたい」
ある意味、あの管理人もやっている事は酷いけど自制心はそこそこあったよね。
誰もいない部屋に入り込んだらちょっと位なら何かを貰ってもバレないだろうって都合の良い事を考えたくなるだろうに、何も盗まなかったんだから。
お陰で青木氏も状況的に管理人を疑っていたものの半信半疑だったんだろうな。
「盗んだものをバレずに売り払うだけの伝手が無かったんだろうね。
まあ、それでもそのうち嫌がらせだけで無くもっと堕ちていっただろうけど」
碧が肩を竦めながら言った。
確かに。
悪事って慣れてくるとハードルが下がるからね。
「少なくとも、何か腹が立つ様な事を言ってきた住民に対してそのうち何かしたでしょうね。
なんかこう、ウチらは部屋に炎華やシロちゃんが居てくれて良かった〜って思ったわ」
考えてみたら、大抵の鍵は3分ぐらいあれば腕のいい泥棒なら鍵を開けられると言う話なのだ。
不動産屋経由で鍵が流出しなくても、変な人間に目をつけられたら家の中って安全じゃないんだなぁと実感しちゃってちょっとモヤっとしたわ。
「賃貸って実は危ういものなんだってちょっと実感しちゃった。
それこそ、ここに前に住んでいた住人が合鍵を持っていないのかとか、青木氏や大家さん自身は信頼できるにしても会社の従業員とか掃除の業者とかに鍵を知らぬ間に複製されないのかとか、悪い事は考えれば色々と可能そうで嫌だよね〜」
碧が頷きながら言った。
そう考えると、家っていつかは買った方が良いのかも。
いつまでも賃貸に住んでいるとそのうちリスク管理が微妙な大家や不動産屋に当たる可能性はあるよねぇ。
家を買うなんて面倒そうと言う気もするけど。
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