第706話 練習したな?

「管理人が犯人って・・・夜中に共有部を徘徊してパイプとかを叩いて回っているの?」

取り敢えずあの管理人の勤務年数は置いておいて、どうやっているのかをクルミに聞き返す。


「夜中に異音がしたら、霊障だと信じ込んでいるならまだしも他の部屋から音がしていると思った住民ならそのうち管理人の所に文句を言いに来るんじゃない?

その時に留守だったら怪しまれると思うんだけど」

碧が口を挟んだ。


『管理人は帰宅前の人がいない部屋に入って、マッサージ器が床や壁にゴンゴンと当たる様に置いてスイッチを入れていくらしいにゃ。

暫くしたら止まるから、住民が帰ってくる頃には止まっていることが多いし、止まっていなかったらそれはそれで怖がっているのを楽しんでいるらしいにゃ』

クルミが言った。


え?

「共用部からじゃなくて、住民が居る部屋の中に入ってやってるの??

ええ?!

ここって管理人に部屋の鍵を預けているの??」


確かに海外ドラマなんかでは管理人が殺された被害者の部屋の鍵を警官の為に開けてあげる事が多いけど、日本でも住み込み管理人が部屋の鍵を持っているの??

それって変な人が管理人になったらマジでストーカーし放題じゃん!

ストーカーじゃなくても下着を盗んだりとか、カード情報を盗んだりとか、へそくりを盗んだりとか悪事をやり放題だよ?!


ウチらのマンションはオーナーが上に住んでいる。多分あちらは私達の部屋の鍵も持っているだろうけど、金持ちな老人夫婦だから変な事はしないだろうと思っているし、なんと言ってもシロちゃんだけでなく炎華もほぼ常時家で寝ているから、侵入者は知らせてもらえるし必要に応じて撃退も期待できる。


だけど普通の人にとっては自分の部屋の鍵が同じマンション内に住んでいる管理人に自由にできると知ったら、安心して眠れないんじゃない??

まあ、寝ている間はチェーンを掛けるから良いかもだけど。代わりに会社に出社する際の心理的葛藤ががっつりと増えそうだ。


「いや、流石にそれは無いんじゃない??

最低でも鍵が掛かった引き出しにでも入っていて、不動産屋か管理会社の本社側で引き出しの鍵を管理していると思うよ」

碧が指摘してきた。


まあ、そうだよね。


『鍵を使う時もあるし、そうじゃない時はなんかこう、クイクイっと道具を使って開けるって。

昔は時間を掛けてたけど、最近は手早くなったって言ってたにゃ〜』

クルミが教えてくれた。


「道具を使ってるって事は、ピッキングの練習でもしたのかな?

確かに古い型の鍵っぽいよね、これ」

青木氏に渡された鍵を手の上に取り出して良く見る。

テレビで『一瞬で開く』って言われていた古いやつよりはマシだけど、安心できるって言われた向きがどっちでも同じ様な穴がポコポコ凹んでいるタイプじゃ無いから、これも比較的簡単にピッキング出来るんだろうなぁ。


道具を入手して練習しないと、『楽』と言われるタイプでも一般人には開けられないだろうけど。

そうなると、確信犯だよね。

まあ、人の家に勝手に入っている時点でアウトだけどさ。

合鍵を作っている部屋もあるっぽいし。


「管理人として頼られたいから異音を立ててるのか、何か腹が立つことを言われた住民への報復なのか、それとも単に自分を認めない社会への嫌がらせなのか。

何を考えているのか分からないけど、迷惑な野郎だね。

問題はどうやって止めさせるか、かな?」


何を考えてこんな事をしているのかは、後で管理人を見つけて碧が話しかけている間にでもクルミを背中に付けて記憶を読めば分かると思う。


が、流石に本人の記憶からの情報ですと青木氏に言う訳にはいかない。

クルミが情報収集した相手の霊から聞いたと伝えることぐらいはまだ良いとして、それで言えるのは管理人がやったって事実だけで『何故』かは普通だったら分からないし、やったって事実が分かったにしても青木氏だって『猫の霊に聴きました』と言う理由で管理人を厳重注意したり、もしくは懲戒免職したりと言った事は出来ないだろう。


管理人の住んでいる部屋にピッキングの道具があるにしても、家探ししてそれを見つけるのも無理じゃ無い?


会社のPCを使った私的メールの確認ですら違法なプライバシーの侵害って言われかねないのだ。

仕事の一環として提供している場所だとしても、雇用主でも理由もなく住んでいる部屋を探せるとは思えない。


「う〜ん、まあそこら辺は青木さんが何か手を考えるんじゃない?

あの親父は中々の狸だから、何とかするでしょ。

私らは管理人と話して情報を確認した上で青木さんに報告すれば良いと思うよ」

碧があっさり言った。


そう?

まあ、確かに青木氏はちょっと想定外な知り合いとかも居るみたいだし、犯人が分かれば何とか出来るのかな?


そんじゃあ、取り敢えずあの管理人を探しに行きますか。







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