第703話 黴くさ!
「まずはここですね!」
青木氏に車で連れて来られたのはこれまたデザイナーズ・マンションっぽいちょっと奇抜な形のマンションだった。
・・・デザイナーズ・マンションって構造に問題がありまくりで事故物件化しやすいの??
それとも単なる偶然なのか。
私が大学に入る時にデザイナーズ・マンションに入居するのを止めてくれた母親に感謝だね!
全部が全部問題ありって事では無いんだろうけど、ハズレ率が高そうだ。
つうか、なんで態々高くつく(と思われる)デザイナーを雇ってこんな問題満載なマンションを建てるんだろ?
金の無駄だと思うんだが。
それとも、見た目の斬新さで不動産素人な購入者層を引き込んで新築を高く売りつけられれば良いって事で、デザイン性だけあるけど腕はイマイチなある意味二流な建築家を使っているんだろうか?
つうか、このデザイナーズ・マンションのデザイナー自体が、どんな職歴の人間なのだろうか。
美術館とか商業施設とかだったら見た目重視でも客を呼び込めれば評価されるって事で、デザイン性だけで建築家の評価って上がるのかな?
アホすぎる実用性の低い建物を設計しても、使用者が割を食うだけで作って売れちゃえれば建設会社側は構わないのかもだし。
クレームが来ても、設計の段階で相談しましたがって言い抜けるんだろうしなぁ。
とは言え、買う方は建物に関しては素人なんだから、結露とか使い勝手とか、メンテのし易さとかはデザインする側がプロとしてしっかり責任を持って設計に組み込んで欲しいもんだけどね。
それはさておき。
マンションの中に入る。
微妙にかび臭い気がする。
マンションのロビー(って程でも無いけど正面の入って直ぐの共用スペース)がかび臭いって初めての経験な気がする。
でも、共用部でも水漏れしているとか結露が起きまくるとかだったらカビが生えそうだよね。
以前、お隣さんの娘さんが結婚して夫の会社の寮に入ったら、断熱材が足りないのか北側の部屋はびっくりするほど結露が出て冬はそこに物を置くとカビだらけになって大変だったと言う話を回覧板を受け取った時の雑談で聞いたことがある。
共用部に断熱材なんぞ必要ないとか思って設計したのに、お洒落度に合わせてエアコンを設置したりしたら夏も冬も結露が凄いことになるのかも?
換気がちゃんと出来ていればカビにまではならないのではと言う気もするけど。
「くっさ!?」
案内された部屋もリビングはまだしも、寝室のうちの一つと浴室はカビ臭かった。
どんだけ断熱材をケチったんだろ、ここ。
と言うか、そこら辺の規制ってないの??
耐震性と違って直接人の命には関わらないから、温暖化問題で省エネの重要性が叫ばれる様になった最近までは無かったのかも。
「クルミ、何か音とか穴とか虫とか、何でもいいから普通と違うところが無いか、探ってきて〜」
クルミに微細な部分の調査を頼み、私と碧は霊がどこかに留まっていないかを確認。
別に悪霊じゃ無くても普通の地縛霊が居るだけでも、敏感な人だったら寒気がするとか視線を感じるとかって事もあるからね。
悪霊の穢れは感じられないけど、死んだまま成仏し損ねちゃったうっかり者の霊が居ないかは要確認だろう。
各部屋を別々に見て周り、リビングで合流。
「何も居ないよね?」
あれだけ青木氏が熱心だったから、気のせいで済まないレベルで賃借人が出ていっちゃう部屋なんだと思うが、霊は居なかったし死の気配も無かったから誰も死んでいないっぽい?
「居ないね。
まあ、こんだけカビ臭かったら住みたがらない気持ちも分かるけど」
碧が応じる。
確かにねぇ。
でも、こう言うかび臭い匂いも気になる人と気にならない人がいるっぽいからなぁ。
電車でやたらとかび臭いシャツを朝から着ている人なんかはそう言う匂いが気にならないか、感じられないかなんじゃ無いかと思うんだけど。
しかも匂いって慣れれば平気になるって言うし。
安い家賃に釣られてここに住むことを選んだ人はカビ臭さが気にならないから賃借契約したんだろうに、不動産屋が困るほど直ぐに出ていくかね?
「クルミ、何か見つかった?」
夜中に異音がするとか、夜になるとどっかから霊が来るとかでもあるんかな?
『特にはないにゃ。
でも、ここの建物は人が住むと暫くすると咳とくしゃみをする様になるって隣の部屋で昔住んでいて死んだ猫が言っているにゃ』
クルミが教えてくれた。
へぇぇ。
新しそうなのに猫が死んでるんだ。
咳とくしゃみねぇ。
『あと、壁が臭いにゃ!』
クルミが付け加えた。
壁が臭い??
壁紙が貼ってあるだけで、新しそうなのに。
まあ、部屋自体が臭いんだからどこかに黴があるんだろうけど。
「・・・特に匂いは感じないけど」
リビングや寝室の壁に寄ってクンクンしてみるが、特に何の匂いもしない。
まあ、かび臭い部屋の方はカビの匂いに紛れてよく分からないけど。
「壁が臭いってクルミが言っているんだけど、何か臭う?」
碧に尋ねる。
『壁がカビに侵されておるから、それの臭いじゃろ。
壁紙で見えぬ様にしてあっても、ある程度は染み込んで出てくるからの』
クンクンと嗅いでみて肩をすくめた碧の横で白龍さまが教えてくれた。
おや。
壁がカビで犯されてるって・・・コンクリにもカビって生えるんだ??
でもまあ、内側には壁紙の下に石膏ボードがあるだろうし、それを留めるための木材とコンクリの外壁の間に断熱材とか電気の配線とかがあるんだろうから、カビが生える余地はあるか。
「黒カビって健康に良く無いって話だし、違う種類の有害なカビだって生えていてもおかしく無いから、取り敢えずそっちを青木氏に確認させたらどうかな?」
碧が提案した。
だね〜。
少なくとも霊とか穢れとか変な異音はないらしいから、うちらに出来る事は他には無いよね。
ちぇ。
最初の案件は成果なしか〜。
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