第687話 情報過多?

一応呪師の少年の記憶から直近の情報を確認したところ、今までのところ修行の一環として師匠の元で簡単な呪詛を掛けた事はあったものの、正式な依頼を受けたのは今回の仕事が初めてだったようだ。


連絡をとってきたのはあの執事。

少年が師匠役の呪師の元に弟子入りした頃から主人の依頼を時折届けてきていたのだが、数年前にその主人を寝たきりにする呪詛を依頼してきた。


主人の依頼は金を積んで呪師に呪詛返しが来る契約で、少年の師匠はそれを他者に転嫁させる術を使って掛けていた。

主人への呪詛も同じだったのだが、こないだのハロウィンに師匠役が帰らなくなった数日後に執事が再び現れて、再度依頼をしてきたのだ。


師匠が居なくなったことを説明したら今度は少年に依頼したのだが、彼には呪詛返しを転嫁する術がまだ使えないので断ったところ、なんと女性が翌日に現れて自分が呪詛返しを受けると申し出てきたので呪詛を掛けたと言う流れだった。


へぇぇ、執事じゃなくて奥様が呪詛返しを受けたんだ。

辞めればいい執事と違って、奥様は離婚が難しい立場だったんかな?

呪詛をかけるぐらいだったら単に行方不明になって逃げれば良かったのに。

呪詛で夫が寝たきりになっている間に逃げれば、相手が身動きを取れる様になる前に痕跡が古くなって逃げやすかっただろうに。


「元々あの主人の方が師匠役の呪師のお得意様だったみたいだけど、どうやら家でのモラハラ具合に心を痛めた執事が奥様のために呪詛を掛けるのを仲介したみたいね」

碧に読み取った内容を伝える。


「おお〜。

マジで代々家に仕えてきた執事だったのかな?」

碧が楽しそうに言った。


「さぁ?

そこら辺はこの少年も知らないみたいね。

ちなみに、呪詛そのものはかけられるけど呪詛返しの転嫁は出来ないみたいだから、そこを突けば退魔協会から裏の呪詛仕事を斡旋されても断った方が良いよ〜って脅せそう」

退魔協会に引き渡して、呪師として働かれたらちょっと嫌だからねぇ。


「お、それは良かった。

そんじゃあ起こしてそこら辺の事を言い聞かせよう」

碧が頷く。


昏倒させた少年に触れて、起こす。

一応手足を拘束して、私たちを殴り倒したり部屋を飛び出したり出来ないようにしておく。

まあ、手に関しては後ろで親指同士を縛っただけなんだけど。

どっかの小説で読んだ縛り方なんだけど、これで本当に手が抜けなくなるんかね?


足はベルトを外して足首のところでぐるぐる巻きにして留めた。

適当だが、手で解けなければ直ぐには逃れられないだろう。

多分。


「おはよう。

私は長谷川 凛。

こっちは藤山 碧よ。

あなたの名前を教えてくれない?」

昏睡状態から覚醒させた少年に自己紹介を兼ねた声を掛ける。

相手の名前を聞くのは礼儀として正しいと思うが、それ以前に相手の名前を読み取ってなかったんだよね。

師匠の呪師にも『おい』や『お前』と呼ばれていたので、直近の読み取った記憶に名前を呼ばれているシーンが無かったのだ。


「・・・立川 透だ。

誰だ、あんたたち?」

ちょっと掠れた声で少年が答えた。

老け顔に合って声も低い。

マジで高校生には思えないね。


退魔協会から舐められなさそうで良いと見るか、子供として同情してもらえずにあちらの都合の良い様に悪用されかねないと危惧すべきか、微妙なところだなぁ。


「退魔協会の退魔師よ。

先日あなたが掛けた呪詛を辿って、捕縛に来たの。

まだ若くて悪事を重ねていない術師なら退魔師に転向できるかもと、退魔協会が単に呪詛を返すだけじゃなくて呪師を捕まえる様、依頼してきたのよ」

正直に答える。


「はぁあ?

退魔師??」

立川少年がびっくりした様に声を上げた。


「まあ、退魔師の弟子入りってかなりの大金が掛かるから、借金の契約はよ〜く確認してから合意した方が良いけどね」

碧が付け加える。


「何だって借金なんぞして退魔師にならなきゃいけないんだよ」

立川少年が言い返してきた。


「呪師として自由に働く権利は許されないと思うよ?

呪いって『まさか効くと思わなかった』って言い訳で依頼主は守られるけど、呪師は確信犯だとして傷害の罪に問われるし、呪詛は普通の犯罪と違って禁固刑なんて無いからね」

呪師の間でだって捕まったらどうなるかぐらいの情報はあるだろう。


「・・・殺すか借金で雁字搦めにするかなのか?」

立川少年の魂が絶望に濁ってきた。

自分にすら無感動で無関心だと思ったけど、それでも自由を楽しんでいたのか。


「ワンチャン退魔協会の調査員だったら退魔師に弟子入りしなくても済むかも?

ちなみに、退魔協会から政治家や協会に近い事業家の為の呪師にならないかって誘われても、断る方が良いわよ?

退魔協会に繋がった政治家のために働くなんて事になったら、絶対に呪詛返しが呪師に来る様な契約になるもの。

そんでもって有力政治家が呪詛でしか手を出せない様な相手だったら、呪詛だって気付かれたらほぼ確実に退魔協会に解呪の依頼を出すわ。

例え殺す様な呪詛じゃなくても、呪詛返しは倍返し。

2、3回返されたら死ぬでしょうね」


碧が楽しげに現実を教えた。

助言なんだけど虐めている様に聞こえるよ〜。

泣き出しちゃったじゃん。






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