第684話 秘されたロマンス?
インターフォンっぽい機器へおっさんががなり立てて家中の使用人を全員呼び出したところ、奥様と執事が居ない事が判明。
執事の個人所有している車も消えていたそうで、いつ姿を消したのかも不明。
監視カメラに映っているんじゃ無いの?と思ったが、誰もそれを言い出さなかったので使用人たちとしてもあのお上品そうで優しげな奥様をこの感じの悪いおっさんより味方したい様だ。
『モラハラ夫に痛め付けられる奥様に同情した執事が、自殺を考えるまで思い詰めていた奥様に呪詛でモラハラ夫を寝たきりにさせれば良いのではと提案したとか?』
真面目な顔をした碧が念話で提案してきた。
はっきり言ってうちらが残っている意味はないんだけど、それなりに興味はあったし呪詛返しの感触からして使用人の誰かか、つい先ほど出て行った奥様か執事が呪詛の依頼人なんじゃ無いかと思ったのでおっさん出ていけと言わないのを良い事に黙って立って話を聞いているのだ。
『奥様が由緒ある旧家の跡取り娘で、それを成金男が札束で叩いて無理やり乗っ取り目的の婿入りをしたとか?
そんでもって執事はその旧家に代々仕えてきた執事の家系!』
ちょっと設定に色を足してみる。
『良いね〜!
若きお嬢様をそっと見守る執事見習い。
身分違いと言う時代遅れな考えに囚われた2人はお互いの事を大切に思いつつもその想いを行動に移すどころか口に出すこともしない・・・』
碧が更に背景を膨らませる。
・・・考えてみたら、由緒ある旧家ってどんなのなんだろ?
戦後に成功した程度じゃ『成金』だろうし、明治維新以降だって京都とかの平安時代から続いている旧家とかから見たら成り上がり扱いな気がする。
とは言え、公家とかは平安時代後はそれこそ一握りの上澄み以外だったら経済力が殆どなくて、本人たちの自負では『旧家』でも、周りから見たら『名前だけ古い大して意味のない過去の遺物』扱いだろう。
成金が金を積んで乗っ取ろうとするぐらいな旧家だったら、それなりに人脈が役に立つレベルで存在していなきゃ意味がないだろうから大名家所縁の家とかかな?
どっかの大名家の子孫が九州の方で知事をした後に国政に乗り込んできて戦後の政治秩序(?)を一時的に崩したらしいし、流石に大名レベルだったら明治維新後もそれなりに経済力と人脈を保てたんじゃないのかね?
まあ、よう知らんけど。
今度、母親に祖母の方の旧家ってどんな感じだったのか、聞いてみようかな?
いや、碧の実家の方が良く知っているか。
何と言っても確実に戦国時代からは残っているマジもんの旧家なんだし。
経済力的には大したことは無くても、古さだけで言ったらそんじょそこらの大名家にも負けないだろう。
経済力は平均値でもお祓い力はダントツだっただろうからそれなりにご縁を結びたがる相手も多かっただろうし、碧パパを見る限りちゃんと代々人をしっかり見て伝手を培ってきていそうだ。
まあ、権力者とは距離を置いてそうだけど。
色々と無責任に奥様と執事の秘されたロマンスに碧と二人で妄想を膨らませている間に奥様の部屋をメイドが探しに行ったところ、離婚届と何やら難しげな書類が机の上に置いてあったとの知らせが。
おお〜。
離婚届かぁ。
離婚って裁判所に行きたくなかったら協議でも決められるって話だから、それ関連の書類なのかね?
モラハラ男が大人しく離婚を認めるか知らないが。
ある意味、夫なんだから幾らでも髪の毛とかを採取できていただろうから、あまり執拗に追跡して嫌がらせとかしたら今度はマジで命に関わる呪詛を依頼するんじゃないかな〜なんて思わなくも無いが、そこら辺はどう考えているんだろうね?
まあ、下手をしたらこのモラハラ男だったら自分を捨てるなんて図々しいことをした妻に呪詛を依頼するぐらいの事を考えても不思議はないけど。
呪詛どころかスナイパーライフル持ちの暗殺者も大金を払って雇いそうだけど、所在地が不明な対象を殺すのは相手を特定できる身体の一部が手に入るなら呪詛の方が向いている。
今日まで暮らしていた家なのだ。
奥様の髪の毛とかの採取も可能だろう。
しっかし、そう考えると離婚って泥沼な呪い合いになりかねないんだねぇ。
お互い、諦めてあっさり別れるのが一番だと思うけど。
『取り敢えず、もう面白そうな展開は無さげだからお暇して呪師の方へ向かおうか?』
おっさんの口から出てくるのが同じ様な罵り言葉の繰り返しになってきたので、碧に退去を提案する。
『だね〜』
執事と奥様、どちらが依頼人だったんだろ?
幸い(?)前の呪詛は呪師に返ったし、今回のは呪師の腕がイマイチだったせいか比較的緩かったから呪詛返しを喰らっても死にはしない筈。
とは言え、呪詛なんぞ使うと魂が穢れるから、これで終わりにする事をお勧めするよ〜。
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