第682話 ちょっと自業自得っぽい気が
「やっぱ呪われるのって金持ちなんだね〜」
最寄り駅まで迎えに来た車が止まった門の前から屋敷を見て、思わずどうでも良いが本音な感想が漏れる。
それなりに都心部に近い駅から直ぐ(歩いても問題ない距離なんだけど車の迎えが問答無用で来た)なのに、このサイズの屋敷って。
日本って貧富の差が小さいと言う話だし、最近の新興企業のトップなんかは都心の億ションに住んでいてイマイチ金持ち度の実感が無いんだけど、こう言う物理的に大きな屋敷が便利な場所にドンっとあるのを見ると、やはり富む者は別次元な富を持っているのを実感する。
「そりゃあ、一般人だったらどっかの破落戸を雇って襲わせれば肉体的にも精神的にも十分痛め付けられるからね。
十分に身の守りに金を掛けているお金持ちだからこそ、呪詛しかダメージソースが無いんじゃない?」
碧が指摘する。
なるほど。
まあ、呪詛じゃ無くてもどっかの漫画に出てくる様なスナイパーライフルを使った殺し屋でも良いんじゃないかとも思うけど、現代日本ではスナイパーライフル持ちの殺し屋よりは呪師の方が簡単に雇えそう。
子供の頃から田舎だったら普通に一般人がライフルを使って狩りをしている様なアメリカと違い、日本では基本的にライフルなんぞに馴染みがあるのは自衛隊に入った人間だけだろうし、そう言うところはそれなりに精神鑑定とかで倫理観とかを確認したり、除隊後も情報をそれなりに捜査当局と共有してライフルを使った殺人事件なんかがあった時に捜査対象にされそうだ。
そう考えると民間で育つ呪師の方が裏社会で活動しやすそう。
しかも政治家や財閥とかにとっては露骨な暗殺よりも、単なる体調不良っぽく目障りな誰かを引っ込められる呪詛の方が都合がいいだろうし。
体調不良の度合い調整は難しそうだが。
今回のなんかは新しい呪師に変えたらちょっと不良度合いが浅かったせいで呪詛だって推測されてバレたんだし。
まあ、ハロウィン騒ぎで一度呪詛が消えたのも怪しまれる理由にはなっただろうけどね。
呪詛だとバレさえしなければ、殺さなくても呪いで寝たきりにすればそれで十分な場合も多いのだろう。
ハロウィン騒動の時に呪詛返しを喰らった呪師達も、白龍さまから後から聞いたところ問答無用で命がなくなる様な呪殺をしていたのはごく少数だったらしい。
とは言え、寝たきりで死にたくなる程辛い思い(こっちはオプションっぽいのか半数ぐらいだったとの話)をさせるタイプの呪詛が多かったそうだ。
ただ、それが倍返しな上に複数だったので体が耐えられなくて死んだ呪師も多かった様だが。
「こちらです」
執事らしき中年男性に案内された先は大きな窓があるリビングっぽい場所に上半身の部分を上げるタイプの高級ベッドが置いてある部屋で、そこに初老のおっさんが横たわっていた。
呪詛で体調不良なだけなんだから、別にベッドで休む必要はなく無い?
体を起こしているのが辛いならソファに寝転がれば良いけど、外部の人間を呼び込むんだから普通の格好をして座っていれば良いのに。
いい年した大人なんだから、そのくらいの努力と誠意を見せたら?
病気だと思っていた時は無理をせずに体を労らねば悪化するかもって考え方もあるが、呪詛なのだ。
ベッドで体を休めても、きちんと着替えて椅子に座っていても、大した違いはない。
「さっさと祓ってくれ!
待っていたんだぞ!」
こちらの顔を見た途端、挨拶もせずに要求を怒鳴りつけたおっさんに不快感を感じる。
「あなた、折角来て頂いたのだからまずはお茶でも出さないと」
そばに控えていた女性が宥める様に言った。
そうだよね、お茶ぐらい出しても良いよ?
まあ、今まで依頼に行った先でお茶を出されたのは・・・最初の温泉宿ぐらいのもんだったけど。
何処もかしこも切実感の方が強くて『早くやってくれ!』って感じだったな、考えてみたら。
そう考えるとこのおっさんの失礼さも文句を言うレベルじゃあ無いんだけど、なんかこう、表情から見て取れる傲慢さが鼻につく。
前世の
呪詛を掛けられたら被害者なんだけど・・・なんかこう、恨まれて呪われても当然なんじゃないの?と思わせる何かがあるね、このおっさん。
依頼だから解呪するけど。
この魂の濁り具合から見ると、自分も呪師を雇っているか、破落戸を雇って邪魔な人間を死にそうな目に遭わせて排除するぐらいの事は日常茶飯事的にやってきていそうだ。
呪詛で寝たきり状態のままの方が良かったんじゃないかと思う被害者なんて初めてだが・・・ここで呪詛返しを失敗した振りをしても別の術師が来るだけだからなぁ。
ちょっと残念だ。
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