第681話 本当の目的は何?

「ちなみに、呪師を見つけてもベテランだったり、若くて呪殺に関与したことなくても退魔協会に借金するのを嫌がったり、性格に難があったり、退魔師の適性が無かった場合はどうなるんですか?」

既に人を殺している様なベテラン呪師は退魔協会に始末されちゃっても因果応報って事で良いけど、まだ人を殺していない様な見習い卒業したてな若い呪師ってどう言う扱いになるの?


『将来的に人の死に関与するだろうから前もって抹殺』って言うのはちょっと可哀想な気がするし・・・日本の法律的に流石に無しじゃないんかね?


呪師なんて職業をやっていても老後まで人の命を軽視せずにやっていける程に精神力が強い人間なんてそうそう居ないと思うけど、確率論の話で命を奪うのに関与する羽目になるのはちょっと遠慮したい。

カルマ的にも不味そうだし。


『上手く育たない見習いの魔力と適性を封じる秘術はしっかり確立されていますので』

職員が自信ありげに応じた。


そっか。呪師見習いじゃ無くても、中途半端に退魔の術を教え込まれたのに一人前にどうしてもなれないドロップアウトは出てくるんだっけ。

あの魔法陣のデータベースを作り、死霊術の実験をしてうっかり自分が作り出したアンデッド犬に殺された西田に関しては上手く能力を封じきれていなかった様だけど。

まあ、あれは元々師匠役の適性が合っていなかったって言うのが諸悪の根源だったし、死霊術ネクロマシーと言うちょっと変則的な術だから出来ちゃったって可能性もワンチャンあるのかも?


「呪詛返しをして呪師を見つけたとして、拘束も出来そうならしてから退魔協会を呼び出すのが良いのかしら?」

碧が確認に尋ねる。


見つけたら成功報酬って言われても、電話して退魔協会の人間が来る前に逃げられちゃったら見つかったか否かが水掛け論になりかねない。

そう考えると、拘束までが必須だよね。

若い女性2人にベテランかも知れない呪師の拘束を依頼するのってどうなのと言う気もするけど。


まあ、以前だって呪師の家に忍び込んで昏倒させて拘束した事があるんだから、可能な筈だけど。


『そうですね、そうして頂けるのが一番確実だと思われます。

拘束が難しそうな相手だった場合は連絡を頂き、呪師の存在をこちらの人間が確認出来たら成功と見做すと言うことでどうでしょう?』

退魔協会の職員が応じてきた。


碧がこちらに目を向けたので、頷いておく。

「良いわ。

当然、この追加依頼の方は成功しなくてもペナルティは無いのよね?」

碧が確認を取る。


そうだった、依頼に失敗するとランク評価にマイナスが付くんだっけ。

一人前ランクになったのでこれ以上ランクが上がらなくても大して問題はないが、必ずしもこちらに失態が無いのにマイナス評価を付けられるのは業腹だ。


『・・・勿論です』

一瞬の沈黙があったが、職員の方もペナルティ無しの扱いに合意した。

うん、この録音はしっかりコピーして保管しておこう。

成功した場合は報酬は払われた時点で消していいけど、上手く退魔協会が呪師を確保出来なかった場合はしっかりキープしておかなきゃね。


退魔協会の評価点がどうなっているかの詳細はこちらには伝わってこないけど、ランクダウンされた場合にはしっかり抗議して撤回させないと。


普通に依頼を熟しているんだから、ちょっと一件で失敗扱いされてもランクダウンは流石に無いだろうとは思うけど・・・時々退魔協会の都合を無視しているから、白龍さまの天罰が落ちない程度のみみっちい嫌がらせを受ける可能性はゼロでは無い。


それこそ、ハロウィン騒ぎで天罰チックな呪詛返しを喰らったオークション会場にいた政治家とやらの関係者だって退魔協会の内部にいるかも知れないんだし。


「では、依頼人のところにいつどうやって行けば良いのか、向こうの都合を知らせて頂戴。

それを見て、こちらが対応できる出来るだけ早い日程を知らせるわ」

碧がそう言って電話を切った。


「若い呪師を退魔師に転向させるなんて、上手くいくんかねぇ?」

一応一人前として稼げる様になっているなら、借金まで負って見習いに戻って退魔師になりたがるか微妙な気がする。


「と言うか。

使い勝手が良さそうな呪師だったらいつの間にか姿を消してどっかのお偉いさんの紐付きになっていそうな気がする」

碧が溜め息を吐きながら言った。


ああ〜。

こないだのハロウィン騒動で大量の呪師が引退リタイアしちゃったからねぇ。

政治家とか事業家とかで呪師を使う様な連中から、退魔協会へ裏からクレームが来ている可能性もあるのか。

流石に表立っては文句を言わないだろうけど。

グレーなことをやる様な関係だったら呪師の確保の依頼が出てても不思議は無いかも?








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