第662話 歴史の中の様々な岐路

「今回の事件って一体誰が何を目的にやったんだと思う?」

てけてけと渋谷を隈なく歩き回りゴミ箱を確認するのに飽きたのか、碧が雑談を始めた。


「う〜ん、大々的に大人数を相手にしている割に大した事がない呪詛だし、隔絶した技術と言って良い位なのに呪詛そのものは未来見に引っ掛かる程の大惨事が起きそうにない感じで、妙な事件だよねぇ」

視野に入ってきたコンビニのゴミ箱に微細な魔力を投げ込みながら応じる。


流石に渋谷といえども店内や入り口脇に容器を捨てるゴミ箱を設置してあるチェーン店のコーヒーショップやファーストフード店はメインストリート沿いが殆どなので、コンビニだけ確認すれば良くなってきたのだが・・・それでも地図アプリで確認するとうんざりする程にはコンビニ店が散在する。


それだけ人口密度が高いからこそターゲットに向いているんだろうけど、疲れる〜。


「悪戯なのか、何かもっと大きな事件を起こすための小手調べみたいな感じなのか。

こう言う不特定多数の大人数を呪える仕組みって危険そうだけど・・・呪詛の効果をもっと強く出来るのかな?」

碧がアプリに黒く丸印を付けながら呟く。


「未来見に引っ掛かったって事は、これを潰さないと大惨事に繋がる小手調べなのかも?

そんな時系列的な未来見があるのかどうか、知らないけど」


大地震とか言った天災はまだしも、テロリストの爆弾テロとかだったら主犯の人間を早い段階で止められれば被害者はガッツリ減らせるが、そんな未来見が可能なのかね?

可能なら、今回のはハロウィンで起きる騒ぎでは無く、その先に続く惨事が原因で未来見が発生しているのかもだけど。


「あ〜・・・ゲームとかで時々ある、特定のキャラと話した後じゃないといくらマップを彷徨いていても鍵になる神殿とかが出てこない、トリガーイベント的なあれ?

あるかも〜。

時々、未来見って被害者が一人だけの事故とか暗殺事件とかを視る事があるらしいんだよね。

一人しか被害者が居ないせいで中々何処で誰がって言うのが特定できなかったり、国が動かなかったりで折角未来見しても防げない事が多いらしいんだけど・・・そう言うのってそれこそ『惜しい人を亡くした』って知る人ぞ知る系の本に載るような、国をいい方向に動かせたかも知れない人だったりする事が多いって話なの」

碧が教えてくれた。


「そうなんだ?!」

ちょっと歴史の裏話的な話じゃん!

氏神さまとの絆を有し続けた由緒正しい神社だからこそ知っている秘められた情報ってやつかな。


考えてみたら未来見が集められる護國神社だって『神社』なんだから、宮司同士の付き合いとかもありそうだし。


「そう。

それこそ坂本龍馬の暗殺なんかも数人が未来見で視ていたらしいよ?

ただまあ、当時の情報としては彼は単なる風変わりな田舎侍って扱いで顔もそれ程知れ渡って居なかったから、予見した未来見持ちたちも殺されるのが誰なのか知らなかったからどうしようもなかったらしいけどね。

後で歴史の教科書とかに龍馬の写真とかが載るようになって、初めて誰だったかを知ったってとあるご老人から聞いたと曽祖父が言ってたらしいよ」


うっわぁ。

歴史が動いた瞬間ってやつかぁ。

明治維新って言ったら150年ぐらい前の話じゃん。

その曽祖父とご老人の年齢が何歳だったのか、興味があるねぇ。


でも、実は明治維新って思っているよりも昔の話じゃないんだなぁ。

江戸時代なんてある意味戦国時代と同じぐらい隔絶した過去の話って印象だけど、考えてみたら曽祖父クラスだったらうちのだって明治生まれでも不思議じゃないし、そうなると私の曽祖父とかでも若い頃に明治維新や江戸時代を経験した人間の話を聞いていても不思議はないのかぁ。


今じゃあ第二次世界大戦の情報すら『当事者が死に絶える前に語り継いでおかないと』なんてテレビで言っているのを時々見るけど、終戦が1945年で明治維新は1868年って話だから、実は終戦時に80歳以上だったら明治維新を知っている世代ってことだもんねぇ。

流石に本人が幕末の争いに関わっていた訳じゃあないだろうけど、江戸時代末期の300年の変わらぬ閉ざされた国の中で牙を抜かれた上に借金漬けで鬱屈のたまっていた武士階級とかが、戦える世の中になって日清戦争とか日露戦争ではっちゃけて、軍拡路線を突き進んだのかも?


まあ、日清戦争でも明治維新後30年近く経っていたから、武士だった本人というよりも父親や祖父から理想化された武士の時代の話を聞かされて色々と夢を見ちゃった人が多かった時代なのかもなぁ。

教科書で読むとあの時代の日本は現実を見ずに何アホな事をやっているんだと呆れたけど、父親世代の時代はまだちょんまげで刀を腰に歩き回っていたんだと思うと、色々『ウチの家系も昔は勇猛な侍だったんだ』系の話を聞かされて育って武力行使へ傾いたのもちょっと納得出来るかも。


それはさておき。

幕末や明治維新の頃なんて暗殺や殺し合いがバンバン起きていたんだろうから、未来見持ちも大変だったのかもねぇ。

と言うか、その時代じゃあ何か未来見しても場所や人の特定が難しかったんじゃないかな?

今だったら特徴的な建物の形とかを言えば色々と写真を見せてもらって場所を特定できそうだけど、昔じゃあそんな情報もなかっただろうし、人間なんて写真のある人の方が少なくて特定は更に難しかっただろう。


まあ、今の時代だって政治家や事業家の映像を見せられてそれが誰か分かるかって言われたら怪しいところだけど。


「ふむ。

そうなるとここで上手く真犯人を捕まえられれば安心だけど、そうじゃ無くても『ダメだこりゃ』って思わせられないとヤバいのかもね」

渋谷のハロウィン騒ぎがどうなるか、犯人が見に来るか頑張って探すかねぇ。

一応魔法陣に使われた血から魔力のフレーバーは分かったから、状況が良ければ探せない事はないけど。とんでもない人数が集まる渋谷の人混みの中で一人分の魔力を見つけ出すのって絶望的な気がする・・・。













  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る