第660話 対処法≠解決法

「これってさ、血を使う事でエネルギーを補給しているなら、洗い流しちゃったら変に返して呪師を警戒させる事なくこれ以上呪詛がばら撒かれない様に出来ない?

全部のゴミ箱を調査するのに時間が掛かるんだったら、そのまま回収するだけでも取り敢えずは良いだろうけど」

碧が提案した。


そっか、呪詛だったら単に洗い流すなんて言うのは何の解決にもならないので選択肢に無いが、これは呪詛をばら撒く仕組みだ。

直接的な呪詛では無いから、洗い流しても呪詛返しにはならない筈。

多分。


「取り敢えず、呪詛をばら撒く事は確実なので、こちらの地図にある店のドリンク容器用のゴミ箱は全て回収して、出来れば犯人へ繋がる証拠を見つけて逮捕して下さい。

まだ渋谷全部のゴミ箱を確認できた訳ではないので、昨日チェックし終わらなかった範囲のゴミ箱を今日と明日ぐらいで確認して、連絡出来ればと思っています」

タブレットで確認した場所をマークした地図のスクショで撮って田端氏に送る。


「調べ終わった後は、どうしましょう?」

田端氏が聞いてきた。


「洗って元の店に返すなり、証拠品として犯人が見つかるまで確保しておくなり、退魔協会のお偉いさんに魔法陣を確認してもらって対処法について助言してもらうなり、好きにして下さい」

碧があっさり返す。


そうなんだよねぇ。

イマイチこの案件に関するうちらの権限ってハッキリしないから、何をどうするかに関して助言は出来ても確定的に命じるのは難しいんだよね。


指紋なりDNAなり、ゴミ箱周辺の監視カメラの情報なりから警察が犯人の呪師を見つけてくれるのが一番良いんだけど・・・上手く行くかどうかは不明。

日本の警察って統計的には有能だって話だけど、テレビのドラマとかでは無能タイプがよく出てくるからイマイチ安心できないんだが、どうなんだろ?


取り敢えず、この薄っすらとした呪詛や魔法陣から呪師を見つけるのは無理だ。

まあ、呪師本人が私の前に現れれば魔法陣の血に籠った魔力から相手が分かる可能性は高いけど、流石に自分から退魔協会に依頼された退魔師に近づく程バカじゃあないでしょう。


・・・そこまでバカじゃあないよね??

こんな凄い魔法陣を組み上げられる人間が、そんなアホだったらかなりガッカリだよ?!


「まあ、そっちは田端さんと退魔協会に任せるとして、肝心のハロウィンはどうする?

ネットの書き込みをよく見たら、ハロウィン騒ぎって31日だけでなく、多分その前の27日の金曜日の夜辺りから始まる可能性が高そうだよ。

それまでに呪師を見つけて、呪詛を解除させられる可能性って・・・あまり無さげじゃない?」

碧が言った。


うげ。

そっか、31日が本来のハロウィンの日とは言え、社会人だったらその直前の週末に騒ぐよね。

もう一週間も無いじゃん!!


「こう・・・ハチ公前からスクランブル交差点に面する歩道を全部カバーするぐらいのサイズで浄化結界を27日の午後から11月1日の朝ぐらいまで展開するのって可能?

あそこら辺が一番人が集まるみたいだし、駅から出てきた人が通る場所でもあるだろうから、酔っ払ってハイになる前に呪詛を解除しちゃえば極端に消耗しないかも、と思ったんだけど」

最初の依頼内容からは大幅に逸脱する対処案だから、退魔協会にその分費用請求して向こうが払うと合意したらだけどね。


「なるほど。

お祭り騒ぎに取り込まれる前に一旦リセットしておくのね。

地上2メートルぐらいに範囲指定するんだったら可能かな?

やってみないとどの程度疲れるか、ちょっと分からないけど」

碧が応じた。


元々、結界というのは何かを閉じ込めたりする様な強固なモノ以外の範囲指定的なタイプだったら数日程度は保つ。

碧にとって浄化結界は単に結界を展開した後に祝詞を唱えて結界内を清浄な気で満たすだけなので、それ程大変では無い筈。


「なんだったら結界だけ私が展開して、その中を碧が清められるか、実験してみる?」

結界と浄化に役割分担出来れば負荷も減らせるだろう。


「だね。

取り敢えず結界を実験してみて、上手くいきそうだったら退魔協会の大西さんと交渉してみようか。

田端さん、警察の捜査の方で進展があったら教えて下さいね」


にっこりと笑いながら碧が田端氏にプレッシャーを掛けた。


そうだよねぇ。さっさと犯人を捕まえてね。

私らのは対処法であって、解決策じゃあ無いんだから。

ちゃんと犯人を捕まえてしっかり解決しないと、また同じ事が起きるよ?



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