第659話 盛り沢山
「うっわぁ〜。
・・・これ、血で描いてるっぽい」
田端氏から連絡があったので朝一に指示通り渋谷警察署の裏へ来たら、コンビニとコーヒーショップのゴミ箱が1つずつ置いてあった。
昨晩の間に確保してくれたらしい。
田端氏本人がやったのか、下っ端(多分?)の科学捜査員が命じられて動いたのかは知らないけど。
で。
中のゴミを取り出しゴミ箱をひっくり返したところ、天板の裏に薄い白いアクリルの板が貼ってあったのでそれを剥がしたら・・・赤黒い魔法陣っぽい紋様が現れたのだ。
「え、マジ??」
覗き込んでいた碧が一歩下がる。
前世で見た血描きの魔法陣と色合いがそっくりだし、魔力の残滓を感じるし、多分そうだと思う。
まあ、前世と今世では人間のDNAが違ったり、大気の成分が違ったりする可能性はあるから血を使って描いた紋様が同じ色に見えるかどうかには多少の疑問が残るが、どちらにせよ魔石が無いこちらの世界だったら呪詛を発生させる仕組みの動力源は血しかほぼ無いだろうと思っていたしね。
それこそ白龍さまの聖域にあった純度の高い貴石とか魔力を蓄積した木の枝とかを使えればそれでも何とかなっただろうが、日本に残った境界門って基本的に神族や幻獣が自分用に確保して魔素を定期に補充してメンテしている場所なのだ。
ほぼ全て聖域扱いだから、呪師が入って都合のいい素材をゲットできる可能性は限りなく低い筈。
まあ、幻獣や神族が人間に友好的であるとは必ずしも限らないんだけどさ。
だが呪詛って幻獣たちにとっては臭いらしいんで、基本的に呪師は嫌われるだろうと白龍さまは言っていた。
「多分?
以前指を切った時にダラダラ〜って血が垂れたのが後になって気付いたらこんな色になってたし、魔力が仄かに感じられるからね」
流石に人間の血で描いた魔法陣に見覚えがあるなんて田端氏の前では言えないので、適当なことを言う。
犯罪者のデータベースに載っていればこの血のDNAで呪師が直ぐに分かりそうだが、日本のデータベースってあまり完備されて無さそう。
どうなんだろ?
「サンプルを取るために綿棒で何処かを擦っても大丈夫だろうか?」
田端氏が覗き込みながら聞いてきた。
う〜ん。
線が切れたら・・・呪詛を発生させる為の機能は損なわれるけど、呪詛返しとは違うから呪師にはバレないかな?
この魔法陣のやっている事が高度すぎて、仕組みの機能が発動したり損なわれたりした際に呪師へフィードバックするよう設定してあるのか、読み取れない。
完璧を期するのは無理だが、出来ればもう少し調べたいなぁ。
そう思いながら魔法陣を睨んでいたら、ふと天板の端に赤黒い点があるのに気づいた。
おや。
インク(血だけど)垂れかな?
「ここだったら擦っていいと思いますよ」
そっちの点を示しながら教える。
さて。
この魔法陣が何をしているのか、読み解けるかな?
呪詛の紋様は見た事があるのの亜種っぽいけど、魔法陣自体はゴミ箱に放り込まれた体液を元に個人を特定して呪詛を生み出すって言う普通の呪詛とは違う仕組みだからなぁ。
白いオーバーオールを着たお姉さんがサンプルを回収したので、ちょっとティッシュを舐めて軽く唾液を染み込ませ、ゴミ箱の入り口に放り込んでみる。
さぁっと魔法陣に魔力が流れて、薄っすらと呪詛が浮かび上がって私にぺとっと貼り付いた。
「こっちの部分まで魔力が流れなかった感じだね」
碧がスクショを撮った魔法陣の外縁左側を指で示しながら言ってきた。
「最初にゴミが入った瞬間にこっちの右側に魔力が流れて・・・これで個人の
で、真ん中の方で呪詛を生み出しているっぽいね」
直ぐ側で掛けられたので、薄くて弱いとは言え、自分に掛かった呪詛なら読み解ける。
うん、やはり酒に酔い易くなり、自制心が薄まる呪詛だ。
ちょっと攻撃的になるフレーバー付き。
呪詛と言っても微量な呪師の血を対価にしているだけなせいか、非常に弱い。
渋谷で日常生活を送っている人間がコーヒーショップやファーストフード店で呪詛に掛かっても、性格や行動が変わったと本人も周囲の人も感じない程度だろう。
ただ、実際にお酒を飲んで顔がわかりにくい仮装をして仲間とお祭りのパレードに参加してハイになっていたら、ちょっとタガが外れ易くなる効果があるかも?
でも渋谷でコーヒー店とかファーストフード店を使った人間がハロウィンのパレードに参加するか、怪しい気もするが・・・当日に仲間と集まる前に店に入る可能性はあるかな?
肝心の外縁の左側だが・・・そっとそこに魔力を流し込んでみたら、ちょっとだけ魔力が飛んでいく様な感覚があった。
実際に出て行く前に魔力を吸収して止めたけど。
「多分、この魔法陣を壊したり解呪したら術師の方に何か伝わる気がしますね〜。
呪詛発生の仕組みが起動しても被害者への呪詛以外は出てこなかったから、ゴミ箱を回収して単に安全なのと取り替える分にはバレない・・・かも?」
日に一回、夜中に呪詛の発生数を報告すると言った様な時限式機能があるならお手上げだが。
流石にそこまでは高機能じゃないよね??
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