第658話 タイミングも重要

「なんかこう、古いオンボロ屋敷に入って埃と蜘蛛の巣が全身に纏わり付いちゃってる様な感じがする〜」

退魔協会にゴミ箱の回収に関して電話した後、仕方がないので渋谷を歩き回りつつ目に付いたコーヒーショップやコンビニに近寄ってはゴミ箱にそっと魔力を流して呪詛が発生するか確認しているのだが・・・。

気持ちが悪い。

思わず意味がないと分かっていても数歩ごとに服を叩いて払ってしまう。


「後でガッツリ浄化してあげるから!

その後シャワーを浴びればさっぱり綺麗になれるから我慢だよ!」

碧が横から応援の声を掛けてくる。


碧の魔力を通すと下手したら呪詛を浄化してしまうので、ゴミ箱のチェックは全部私がやらざるを得ない。

ごく弱い呪詛だし、『ある』と認識しているので精神に影響も無いのだが・・・蜘蛛の巣が体に纏わり付くのが無害でも嫌なのと同じで、生理的嫌悪感って言うのは論理じゃなくて感情なんだよねぇ。


実害がなくてもマジで気持ち悪い。

でもまあ、少なくとも問題のゴミ箱に微量の魔力を通すと気持ちが悪い呪詛の瘴気みたいのが舞い上がる(比喩的に)ので、問題の呪詛発生装置モドキが仕込まれているのが分かる。


一々関係ないゴミ箱まで調べる羽目にならないのはありがたい。


「これってさぁ、明日にでも黒なゴミ箱を回収して中を調べるにしても、その後どうするんだろ?」

また瘴気が舞い上がったゴミ箱の場所をマップアプリで印を付けて、思わずため息を吐く。


これら呪詛発生装置を浄化するにせよ、手を加えて呪師にバレないように無効化するにせよ、かなり数がある。


こんな高度な技術を持つ呪師の仕組みを、相手に気取られずに無効化出来るかは不明だ。

そして例えバレずに無効化出来る方法が見つかったにしても、これだけの数のゴミ箱を回収して改造するのに掛かる手間を考えると、あと10日でやり遂げようと思ったらどれだけの人数が必要か、想像もつかない。

単に退魔師が力任せに浄化すれば良いだけではないのだ。


呪詛へ手を加えるなんて最新の注意を払ったデリケートさが必要であり・・・そんな技術を持った退魔師が大量に居るとは思えないんだよねぇ。

現世でそんな技術は実質必要ないし。

私だって前世はまだしも今世ではそんな作業をしていないから、最初の二、三個は失敗する可能性が高い。


呪師側は色々と技術を磨いて人知れず呪詛を掛ける必要があるかも知れないが、退魔師側は呪詛を見つけ出せればあとは返せれば良いだけなのだ。

せいぜい第三者への呪詛返し転嫁を防ぐだけの技量があれば良いので、こんな設置型の不特定多数へ呪詛を掛ける仕組みの様に複雑な技術は全く必要がない。


まあ、呪師にしたってこんな不特定多数用の技術は通常なら要らないと思うが・・・ある意味テロ行為って金になるらしいから、そう言う方向で腕を磨いた可能性はある。


「退魔協会のお偉いさんが無駄に調べるのに時間かけて、結局時間切れでこっそり改造は無理だから力技で浄化してくれって言ってくるのに一票」

ちょっとうんざりとした顔の碧がこれから先の流れを予測した。


確かに国からの依頼で、見たこともない技術が使われていたら退魔協会の方でそれを解析して解決策を編み出したがりそうだね。

とは言え。

「力技って碧?」


空港のセキュリティゲートとかを力技で展開できるなら、渋谷のゴミ箱浄化も何回かに分ければ碧なら力技で浄化・無効化出来そうだが・・・それって解決策としては100点満点の60点ぐらいじゃない??


将来的な脅威の排除が出来てないじゃん。


「多分ねぇ。

まあ、この程度の弱い呪詛関連の術なら、広範囲に弱くても浄化の術をかければ装置も呪詛も解除出来るだろうから、何とかなるとは思うけど・・・犯人解明をどうするのか、気になるところだよね。

これから先、毎回似たり寄ったりな不特定多数用呪詛発生機とその被害者の浄化に呼び出されるのは嫌なんだけど〜」

碧がため息を吐いた。


「今回のこれって一体何のためにやっているのかが問題だよねぇ。

別にこんな手間暇掛けなくても渋谷でのハロウィンって馬鹿騒ぎするらしいし、呪詛にしてもそれ程強いものじゃ無いし。

何のためにやっているのか、マジで分からない」

まあ、もしかしたら騒動を起こしてその中でどさくさ紛れに誰かを殺す計画なのかもだが。


だとしたら、滅茶苦茶手間を掛けている。

それこそどっかのプロを雇って暗殺した方が楽でしょうに。

それとも、『暗殺』と分かる方法ではなく『不幸な事故』で死ぬ必要があるとか?


そうだとしたら、未来見に引っ掛かるほど大規模な騒動を目眩し用に準備したのが失敗だね。

そこまで大きな騒動にならない想定だったのが、手に負えないレベルでハロウィンの騒ぎが膨れあがっちゃって未来見に引っ掛かったんだとしたら、ある意味笑える。


死ぬのはターゲットの被害者と適当な数合わせ的な被害者一人か二人程度で良かったんだろうが、未来見に出たって事は最悪の場合は被害がもっと大きくなるんだろうなぁ。


と言うか、渋谷全体を浄化するって言うんじゃない限り、碧がゴミ箱を浄化しても呪詛が掛かった人はそのままなのだ。つまり間際に浄化してもあまり意味がない。

当日に碧が渋谷全体を浄化しまくるならまだしも。

でも、酒や祭りの空気に酔った人は呪詛が浄化されても酔いが醒める訳じゃあないからねぇ。

攻撃的な言動は少しマシにはなるだろうが、酔っ払ってタガが外れた自制心はそう簡単には戻らないだろう。


そこら辺、退魔協会にも指摘しとかないとヤバいかなぁ・・・?





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