第644話 味覚のミステリー

「うわ、まっず!!!」

近所のスーパーで買ってきた1日分の野菜とか謳っているジュースをコップに注ぎ、一口飲んで思わず顔を顰めた。


不味い。

冷やしていてこれだったら、生温かったら更に飲めたもんじゃないんじゃない???


「・・・なんかこう、トマトの酸っぱさと昔ながらの人参の苦さとなんか他の野菜のエグ味っぽい美味しくない成分がガッツリ纏まって濃縮されている感じだね。

まだせめてこの酸っぱさが無ければ飲めるかもだけど・・・トマトって意外と手強い!」

碧も顔を顰めながらより詳しく感想を述べた。


確かに、トマトが手強い感じだ。

「あの粒よりとか言う同じメーカーのジュースは似たり寄ったりな内容を謳っていて、一応普通に飲める味なのに。

流石2.8倍の値段の違いだね」


先日碧がキャンペーンで買ったのは15本入りで2000円弱だったが、ネットで見ると正規の販売は30本で7800円近くだ。

定期購入すれば多分もっと安いのだろうが、元々被災時用の備蓄なので定期購入はするとしても半年に一回買い替えと言ったところだ。


そうなると1本260円近くのまあまあ飲めるのを買うか、90円ちょっとの飲めた物じゃ無いのを備蓄して災害時に無理矢理飲み下すか。


ある意味、究極の選択な気がする。


「毎日コーヒー屋でラテを買って飲んでいると思えば安いもんなんだけどねぇ」

碧がため息を吐きながら呟く。


「そう考えると、大学の授業に出ていた頃に皆で毎日ラテを飲んでたのって実はかなり贅沢だったね」

お酒を飲むよりは健康に良いし安いし、喫茶店に入ってお茶とケーキを頼むよりもお手軽かつ安いしと言う事で全然贅沢をしているつもりは無かったが、改めて数字を見直してみると意外と毎日300円強って高い。


1ヶ月で1万円前後払っていたんじゃん!!

まあ、バタバタしている日なんかはコーヒーを買う暇がなくて自動販売機でペットボトルのお茶を買っていたけど。


「こう、ジュースだと思うから飲みづらいんじゃ無いかな。

冷えた野菜スープだと思って、少しミルクとか塩胡椒を足したらどうかな?」

碧が提案してきた。


「粉ミルクを足す?

普通の牛乳は停電時は厳しいでしょ。

でも、塩を足すと塩分摂りすぎになりそうな気もするし、カレー粉か胡椒でも掛けてみる?」

カレーを作る時はルーを使うのだが、ちょっと料理の味付けに使う様にカレー粉のミックスも買ってある。


あれでカレーもどきな味にしたら飲めないかな?

カレー粉って加熱しなくても大丈夫だよね?

ダメだった場合、被災時で断水中に下痢とかになったら悲惨を極める事になるが。


「まずはお手軽に少量を振り掛けられる胡椒で試してみよう」

碧が一口しか飲んでいないコップに入ったジュースに胡椒を振り掛け、暫しオレンジ色の液体を睨んでから思い切って口をつけた。


「・・・どう?」

何やら動きが止まった碧に声を掛ける。


「凛も飲んでみて」

私のコップにも胡椒を振り掛け、ぐいっと押し出してきた。


碧だけに犠牲になれとは言わないけど、口をつける前にまずは感想を聞きたかったんだけど〜。

ほら飲め!と言いたげな碧の視線に負けて、コップに口をつける。


あれ?

あれれ??

「・・・普通に飲める」


「だよね!?

なんで胡椒で酸っぱさとか苦さが消えてまろやかにちょっと甘いぐらいな感じになるの?!」

碧が分からない!!と言いたげな表情で私のコメントに応じた。


マジでなぜか、あれ程不味かった野菜ジュースが普通に飲める。

美味しいとまでは言わないかも知れないが、普通に買った果汁100%のジュースだってあまり美味しくないのも多いから、期待できないと思いつつ買った飲み物としては上出来な部類に突如変化した感じだ。


「人間の舌ってマジで不思議だね。

スイカに塩をかけると甘みが増すって言うのは知っていたけど、酸っぱ苦い野菜ジュースに胡椒をかけるとまろやかに飲める味になるなんて、めっちゃ不思議。

どうせだったらメーカーも胡椒を入れて売り出せば良いのに」

普通だったら、あのクソ不味い味は一回飲んだら二度と飲むまいと心に決めると思うんだが。


「最初から混ぜていたら下の方に胡椒が溜まって悲惨な事になるのかも?

胡椒そのものも安くはないだろうし。

とは言え、提案する飲み方の一つとしてパッケージに書いておくぐらいすれば良いのにね」

碧が頷きながら言った。


不思議〜。

まあ、とにかく。

これで備蓄は安い方のを一箱買っておけば問題ないね。










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