第635話 リサイクル(輪廻)vs 使い捨て

「取り敢えず、白龍さまにそのリチャード・ハウスマンだっけ?を視てもらおうか」

昼食を食べ終わり、会場に戻った碧が提案した。


確かに、完全に妄想な世界の人間だったら最初から避けておくのが正解だろう。


という事で、念話に耳(じゃないけど)を澄ます為に集中する。

クルミは視界を共有しても照明を落とした会議室としか分からなかったので念話で探そうとしているのだが・・・。

『Elisa my love! I am here!!』

相変わらず叫んでいるのが薄らと感じられる。

あれってずっと意識がある間中外では呼び掛けているんかなぁ。


本当に前世の記憶があるにしても、あそこまで必死にやっているのってやっぱちょっと狂気を感じる。

会えるかも分からない(と言うか再会は実質ほぼ不可能そうな)前世の恋人ではなく、今世の出会いを大切にした方が前向きで良いんじゃ無い?と言いたい。


まあ、人それぞれなんだろうけど。

誰か愛している人を救う為に生涯をかける人もいれば、愛している人を殺された復讐に命を投げ捨てる人も居るんだから、愛している人と出会う為に出来る限りの事をするのもっちゃあなんだろうし、極端に周囲に迷惑を掛けている訳でもない。


とは言え。

あの執念は凄すぎる。

ここまでいくと絶対に妄想も混じりそうな気がするけど・・・大丈夫なのかな?

関係ない人がロックオンされたりしたら、監禁とか無理心中とか平気でしそうで怖い。


いや、心中はしないか。

相手が言う事を聞くまで監禁して、場合によってはこちらの言う事を聞くようになる様な薬を盛る程度かな?


そんな事を考えつつ、ハウスマンの念話が漏れてくる方向に進み、そっと会議室の扉を開けてみた。


『宗教観と死後の魂』

正面のスクリーンに大きく文字が映し出されている。


そう言えば、輪廻転生の宗教観ってアジアがメインらしいんだよねぇ。

主にインドで発祥した仏教とヒンズー教だっけ。


キリスト教とかイスラム教とかは死んだら善行を積んでいれば天国に行くと言う話だが(何故か中世の頃は金で免罪符を買えばそれでオッケーと言う滅茶苦茶現金主義な教えだったようだが)、あれって昔過ぎる霊を召喚できない事をどう説明してるんだろ?


私としては昔過ぎる霊は転生するから喚び出せないと考えると理にかなっていると思うのだが、天国で死後を楽しんでるなり寝ているだけなりだとしたら、それこそキリストが生きていた時代の霊だって呼び出せて良い筈。


流石に2000年近く経った血縁関係での召喚は無理でも、あちこちにある聖人の遺骨とかのどれかは本物だろうに、それを使った古い聖人の召喚が成功したなんて話は聞かない。


まあ、そんな事をする行為自体が不遜だってやらないのかもだが。

でも当事者以外にとってはどうでも良い宗教論で延々と争うぐらいだったら、過去に権威があった聖人や法王とかを呼び出して真偽のほどを確認しようと思う人間が絶対出てきただろう。

そしてそう言う人間だったらお目当ての霊を喚び出せたら、自分の説との整合性がでっちあげてでも嬉々として結果の発表をしそうだ。


それに、魂が1回きりしか生きず全部死んだら天国に溜まっていくとなったら、いくら魂に質量がないって言っても溜まりすぎるだろう。


第一、戦争をした敵国同士の魂が天国で仲良く一緒に過ごしているって考えるのも無理がないかね?

かと言って同じキリスト教の国が戦争したのに、1カ国の死者が全部地獄に行ってもう1カ国の死者だけが天国に行くとも考えづらい。


そして魂が1回きりの使い捨てだとすると、死後数十年は霊を召喚出来る事の説明が付かない。

使い捨てなら死んだ後にふわぁっと消えてしまうだろう。

だとしたら何十年間も召喚出来るのはおかしい。


そう考えると、輪廻転生と言う魂のリサイクルって合理的だと思うんだよねぇ。

白龍さまも魂は生まれ変わるって言っているし。

何度も何度も生きなきゃいけないって言うのは今世があまり上手くいかなかった人にはうんざりなお知らせかもだが。


考えてみたら、仏教って解脱すると輪廻から外れるんだっけ?

あれって解脱したらどうなるんだろ?

消えるのか、解脱した魂用の特別な天国があるのか。

解脱そのものも魂が擦り切れて消滅すると言う悪い意味以外ではほぼ無いんじゃ無いかと思うが。


果てしなく魂がリサイクルされるって考えるとちょっと疲れを感じるから微妙だが、毎回記憶を綺麗に消してリフレッシュさせてから生まれ直すならそれもありなのかも?


だからある意味、綺麗に記憶を消さない私が将来的にどうなるのかはちょっと心配なんだよねぇ。

まあ、多分ある程度以上記憶が溜まったら流石に古い記憶は忘れると思う。

現実として、今世の記憶だって幼稚園どころか小学校の頃の記憶すら殆ど覚えていないんだし。


仕事関係で必要だった前世の魔術師として学んだり調べたりした事はそれなりに覚えているけど、そう言うのも知識が蓄積されていくと段々いつどの人生で得た知識か、あやふやになるんだろうなぁ。


そんな事を考えながら会議室の中を見回していたら、ハウスマンを確認し終えたらしき白龍さまが、扉の方を尻尾で指して動き始めた。


確かに術者が多いここで念話で話し合うのは良くないか。

さて。

どんな結果なのかな?



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