第634話 ロックオンされるか否かの安全なテスト方法は?

「キャソック姿って事はそのヤバい人ってエクソシストだよね?

あの人らも教会の神父とかと同じで生涯独身・禁欲なんじゃ無かったっけ?」

メニューを見ている私に碧が尋ねてくる。


「多分?

妄想だろうが本物だろうが、誰か心に決めた人がいるなら宗教上の理由って事で外国版のお節介なお見合いオバハンや金蔓目当ての女性を最初から排除出来るのは都合がいいんじゃない?

目当ての人が見つかったら『還俗します』って言うつもりなんでしょ」

オムライスもちょっと心が動いたが、流石にカラオケ店でのオムライスは期待できないだろうと無難そうなパスタを選んでオーダーを入力する。


「まあ、考えてみたら妄想系のストーカーだとしても、ロックオンされなければ無害だよね」

碧が指摘した。


「まあねぇ。

間違ってロックオンされたら怖い事になりそうだけど。

碧も念話の魔道具カードは使う際は私と念話だって強く意識して、何だったら最初に『凛』とでも呼び掛けを付け加えた方が良いかも。

魔道具を使った念話ってちょっとコントロールが甘い場合があるんだよね」


黒魔術師にとっては適性に付随する生来の能力なお陰か、本能的に念話したい相手をしっかり選んで繋がれるのだが・・・魔道具と言う代替手段で念話するとそこら辺のターゲット機能がちょっと緩いんだよね。

普通の人は念話なんて出来ないから、うっかり魔道具で関係ない人に念話で話しかけても素通りするだけで何も起きない。が、あのおっさんは一応念話が出来ていたから、同じ部屋内ぐらいだったら運が悪いと念話を受信されかねない。


そうなったら変な誤解が生じる可能性があり・・・前世の運命の恋人的な相手だと思い込まれたら、ヤバい事になりそうだ。


「え、念話ってうっかり誤爆しかねないの?!

教えといてよ〜!」

碧がギョッとした顔をこちらに向けた。


「普通の人は念話なんて出来ないから、誤爆しても単に念話が届かないだけで問題は起きないんだけど、あのリチャード・ハウスマンは一応念話が出来るみたいだからね。

うっかり念話で話しかけて運命の人だと誤認されたら危険そう」


「生まれ変わっても一緒になると約束した相手なら、勘違いなんてしなくない?」

碧がちょっと渋い顔をして指摘する。


「本当に存在する相手ならね〜。

でも、もう40歳半ばぐらいのおっさんに見えたから、どう言う仕組みなのか知らないけど都合よく運命の相手の近くでほぼ同時期に生まれ変われる様なモノじゃあ無かったっぽいって本人も思っているんじゃない?

ジジイになってやっと生まれたばかりの相手を見つけるなんて羽目になるとか、死ぬまで見つから無いなんて事になるとかって焦っていたら、多少の違和感があっても適齢期で美人な碧なんて十分許容範囲内・・・どころか理想的ってとこじゃない?

若くて経験のない女性術師をまだ体力があってベテランな術師が導くなんて、無意識にでも女性よりも優位に立ちたい男には丁度いい設定でしょ」


男性が女性を『守る』とか『金銭的に世話をみる』と言うのは前世では当然な社会的模範だったが、ある意味これって男性優位で女は男の言う事を聞いていろって言う無意識な傲慢さの発露でもあったと思う。


前世の母国は魔術王国とも言えるぐらい魔術が発達した国だったし、魔術に男女差は殆どなかったから一応女性でも爵位を継いだり財産を私有したり出来たが、男女が同等な魔力を持っていて争う場合、肉体的暴力で勝る男性の方が有利である事も多かったから『女性は守る必要のある存在』という考えはあった。


まあ、これって『言う事を聞かななきゃ暴力を振るって聞かせる』って考えが大元にあるんじゃんと私は思っていたけど。


「いやでもさぁ、相手側が違うって言ってるんだから、ダメでしょ。

念話だったら本気で相手の事を覚えていないし魅力的にも感じていないって分かるでしょ?」

碧が辟易とした様子で言ったら、ちょうど扉のところからノックがした。

どうやら料理が来たらしい。


碧はホットサンドのセット、私はカルボナーラ。

ホットサンドも美味しそうだな。

次回はあれを試してみよう。


「生まれ変わり系だとしたら、相手は悲劇的にも転生で記憶を受け継げなかったって考えて思い出すよう助けるのが自分の役目だとか言い出すかもよ?」

絶対に『あんたなんか知らないわよ』と断られたところであっさり諦める感じじゃあなかった。


「確かに。

ちょっと父親の知り合いにでも、そのおっさんの事を聞いてみるか・・・」

碧が辟易とした顔で頷いた。


私は認識された上で素通りされたから、ロックオンされないと思う。

碧も一度会ってロックオンされなければ危険はないんだろうけど、下手にロックオンされたら目も当てられないからなぁ。


普通の素人だったら私が相手の有する碧の記憶を消してしまい、その後に顔を合わせないようにすれば何とかなるとは思う。

だが、属性が違うとは言え経験豊かなエクソシストの記憶を問答無用で消せる自信は無い。


避けるべきかも微妙に不明だし。面倒な事になったなぁ。

安全にロックオンされるかどうかを試す手段が欲しいよ、切実に。











  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る