第491話 才能の無駄遣い

「ちなみに、霊に呼びかけて答えを貰う能力ってそれ程珍しいものじゃないよね?」

警察関係者を追い出し、クルミに家の周りを見張らせて誰も隠れて盗み聞きしていない事を確認してから碧に尋ねた。


まあ、盗聴器を設置されてたらどうしようも無いけど。そこまで行ったら最終的には白龍さまの天罰デフェンスで問題が起きたら対応してもらおう。


つうか、確か故人から聞き出した隠し遺産を追求しまくったら問題になったって話を聞いたことがあるし、大丈夫な筈。


「ええ。

一応遺族しか召喚依頼を出せないって事になっているけど、現場に残っているから浄化のプロセスの一環として話を聞いたって事にすれば良いでしょ」

碧が頷く。


「じゃあ、ちょっと声を聞こえるようにしようか。

うっかり触って昇天させないよう、碧はちょっと下がっていてね」

昇天してもそれこそ転生していない限り呼び戻せる筈だが、今度は正真正銘の召喚になっちゃうから『現場にいたので除霊ついでに』と言い辛くなる。


「うっしゃ。

そんじゃあ西田俊介さん。

こんにちは」

少しずつ魔力を与えながら犯人兼被害者に呼びかける。

名前を知らない場合は最初に名前を尋ねれば良いのだが、それは田端氏が教えてくれたので最初のステップはスキップ出来た。


『・・・あれ?

僕はどうしたんだ?』

ぼうっと足元の魔法陣を見つめていた西田幽霊が我に返った様に周りを見回し、こちらに目を向ける。


「貴方は死んじゃった様だけど、原因解明の為にここ10日ほど何をしていたのか教えてくれない?」

言葉に魔力を込めて言えば、生者相手でもかなりの強制力が発生し、死者ならほぼ確実にこちらの命令を聞いてくれる。


とは言え、死んだと自覚していない相手にあまりキツイ言い方をすると反感を感じ、なのに抵抗できない事実に霊が混乱して消耗するので最初は穏やかに頼み込む方が良い。


『えっと・・・ダークウェブで日本で大規模呪詛テロが行われるって話が流れて、どうにかして止めようと退魔協会や警察のネットワークに侵入して場所を確認しようとしたんだ』

西田幽霊が話し始める。


いや、退魔協会や警察のネットワークに情報が入っている段階で既に誰かが対処しているって事でしょ?

どっかに侵入するなら某専横大国の裏部隊にでも侵入して何か情報がないか調べるとか、あっちのお偉いさんの行動を調べるとか、ダークウェブ上でそう言うテロ攻撃に関する売買や取引に関して調べるとかしなよ。


サイバー攻撃もどきな侵入が出来るなら、社会の裏側から役に立てば良いのに。

警察や退魔協会に侵入して何の役に立つのよ??

技能があってもどう使えば役に立つのか分かっていないなんて、なんたる才能の無駄遣い。


思わず内心で突っ込みを入れるが、口には出さないでおく。

死んだ相手の行動を批判しても得るものは無いからね。

生きている人間だったら問題点を指摘して反省してもらい、今後の行動に活かさせるのも可能だが、死んでしまったら『今後』は来世だ。

記憶が無くなるんだから現時点で反省させても意味はない。


「それでその後どうしたの?」


『結局情報を見れた段階で既に事件は解決していたんだ。

ただ、死霊術ネクロマシーが使われていたってあったから・・・日本では馴染みがない死霊術ネクロマシーがこれから悪用されるんだったら、研究して対応方法を見出しておけば次回はもっと役に立てると思って。

退魔協会のネットワークにセーブされていた魔法陣をコピーした』


死霊術ネクロマシーの解決は白魔術師に浄化させる力技が一番確実なんだけどな〜。

黒魔術師の適性持ちらしき西田幽霊に何かやってもらう必要はあまり無い。

どちらにせよ、正規の退魔師になれずに脱落したモドキにはどこからも声は掛からないだろうに。


まあ、ダークウェブを精査して日本へのテロ攻撃っぽいのを見つけ出して退魔協会や警察に通報したら、それの対処に関与出来たかもだけど。

つくづく努力の方向性が間違ってる。


「コピーしてどうしたの?」


『コンピューターで分析して、魔法陣の大体の意味を読み取れたから、殺すとか破壊するとか言った危険そうな文言を消して、一度実験してみる事にしたんだ。

やっぱり何かを解決するにはそれを理解しなくては駄目だろ?』

コンピューターで読み解けたけど、最初から欠落していた制御部分を足す知識も用心深さも無かったと。


「ちなみにその分析プログラムってそこのコンピューターの中に残っているの?」

魔法陣の知識はそれなりに退魔協会の方にある筈だが・・・読み取るだけだったら害はないかな?

創り上げられるとなると悪用出来る範囲が大きくなって危険そうだが。


『ああ。

修行している間に魔法陣を分かりやすくするために作ったプログラムなんだ。

師匠にコピーを渡したんだけど、結局弟子の年次の謝礼金代わりにはして貰えなかった』


「おやま。

既に、魔法陣の解読プログラムがどっかの退魔師の手にあるの??」

碧が呆れたように呟く。


情報共有が全然出来てないね〜。

秘伝の技術ならまだしも、弟子から実質騙し取った技術は共有して日本の安全の為に活用すべきだったんじゃないかね?


取り敢えず、警察にも共有されるように誘導した方が良いかな。

読めるからって警察だけで対処しようとしたらヤバいが・・・少なくとも浄化できる人間を待つ間に、何が起きるか魔法陣を解読できたら必要に応じて避難とかも手配できそうだよね?


「そのPCのパスワードと、弄る際の注意点とか、魔法陣解読プログラムの使い方を教えて?」


あと、ゾンビ犬がどうなったか知っているかも後で聞かないと。

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