第419話 悪霊よりもタチが悪いかぁ
「ネズミですか?!」
次の物件へ向かう為に車に乗ったところで先程のマンションの問題を報告したら、青木氏がエンジンを掛けようとしていた手を止めて頭を抱えこんだ。
「・・・退魔協会よりは害獣駆除の業者の方が安上がりですよね?」
なんで軽く絶望してるの?
人気が無い業種で成り手が少ないだろうが、それでも『退魔』に比べれば基本的に誰でも出来る作業なのだ。
限られた才能の持ち主が大金を払って何年も修行しなければならない退魔師よりは安く呼べるだろうに。
「悪霊祓いは高いですけど、持ち主を説得できれば退魔協会へ電話一本でほぼ全部終わるんです。
マンションの鼠駆除だと排水管や共用部のパイプスペースを伝ってどこに鼠が逃げ込んでるか分からないので、マンション全部を駆除しなければほぼ確実に戻ってきてしまうから、こちらの手間が段違いなんですよ・・・」
力無く項垂れた青木氏が教えてくれた。
成る程ねぇ。
しかもGと違って毒で殺したとしてもしっかり死骸も回収しないと腐ったら強烈な悪臭がしそうだし、Gやその他の害虫を呼び寄せそうだし。
言われてみたら、ちょっと絶望したくなる気持ちが分かるね。
前世だったら金があるなら黒魔術師に建物内の生物を全部追い出して貰って殺すとか、小型だけど獰猛な魔獣を持つ
ついでに魔獣に糞でもさせればそれなりに長期的な害獣避けにもなったし。
まあ、下手をすると住民の
「まあ・・・管理会社との交渉、頑張って下さい」
こう考えると一軒家の方が管理って楽なのかな?
一軒家の貸し家だと外壁の修繕とかを全部持ち主側がやらなきゃならないけど。
マンションなら管理組合に丸投げ出来るからねぇ。
とは言え。丸投げした結果、修繕積立金を管理会社の関係会社への割高な契約に全部使われたりしたら困るだろうから、結局目を光らせておく必要はあるかも?
もっと露骨に理事長による使い込みとかの心配もあるかもだし、財産ってあったらあったでそれなりに心労を伴うんだろうなぁ。
「まあ、それはともかく。
次はこちらです。
私は車の中で作業をしていますので、宜しくお願いします」
気を取り直して車を動かし、ちょっと左奥の方に進んだ場所にあった一軒家の駐車スペースに車を停めて、仕事用と思われるタブレットを取り出しながら青木氏が家の鍵を渡してきた。
「ここら辺って戸建ても残っていたんだね」
車から降りて周りを見回す。
私達が住んでいるマンション近辺はマンションだらけで戸建てがあっても庭も駐車場も無い様なキツキツの一軒家ばかりなのだが、どうやら大通りから外れると普通に庭と駐車スペースのある戸建てが集まる地域が残っていたようだ。
「ちょっと駅から距離があるから、頑張って土地を買い占めてマンションを建てても売りにくいんじゃ無い?」
周りを見回しながら碧が言った。
成る程。
住む場所を探している人も、駅から距離があるならせめて五月蝿くしても隣や下の家へ音が響く心配をしなくて良い戸建てと言うメリットが無いと大金を出さないか。
どれだけ効率的に部屋を積み上げられるかを規定する建蔽率とかも、大通り沿いとこう言う低層住宅地域じゃあ違うだろうし。
寒村時代は掘立小屋に毛が生えた程度の一軒家だったが、あの時は隙間風や虫の侵入対策が本当に大変だった。
と言うか、隙間風は必死に塞いだがしょっちゅう新しい場所が崩れて穴が開き、虫に関しては最初から完全排除は無理って感じだったからなぁ。
日本の現代家屋は全然違うとは分かっているけど、一軒家のメインテナンスとの戦いは今世ではしたく無い。
もっとも、キャンピングカーを買って住宅併設のガレージに入れて源之助の第二の家にするつもりなら戸建ては避けられないが。
メインテナンスを全部丸投げ出来るサービスってあるのかな?
まあ、そこまでお金がある状態になるまでまだまだ時間が掛かるから、悩む必要が出て来るはずっと先の話だけど。
そんな事を考えながら家に入る。
それなりにリフォームで綺麗にしてある筈なのだが、ここもどこか鬱々としていて薄暗く肌寒い感じがする。
「なんかさぁ、この薄暗い感じって他の人は感じられないのかね?
ほぼ間違いなくいるよね、これ?」
ウチらに悪霊有無の鑑定を頼む必要があるのかね?
「一般人だと『先入観があるせいかも』と思うぐらいにあやふやな感覚らしいからねぇ。
青木さんなんかは案外とそこら辺の感覚は鋭いみたいだけど」
肩を竦めながら碧が答える。
まあ、お金を貰っているのだ。
どこにいるのかを確認してさっさと出よう。
居ると分かっている案件の方が早く終わるから気軽で良いよね〜。
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