第420話 またか。


あっさり終わると思った悪霊探しだが、意外にも手間取った。

瘴気だらけで、住むだけで霊障が起きそうなのは確実だったが本体の悪霊が見当たらない。


「あれ〜?」

家の中を一通り見て周り、最後にトイレの中まで覗いても居なかったのには思わず驚きの声が溢れた。


「庭、かしらね?」

碧も首を傾げながら周りを見回す。


庭に慰霊碑があるような豪邸ならまだしも、普通の一般家庭の家で庭に悪霊がいるなんて珍しいんじゃ無いかね?

もしかして、強盗殺人か何かで家の中で襲われた住民が逃げようとして庭で殺されたとか?

そんなニュースになりそうな事件があった家だったら鼠問題に気を取られていたとしても青木氏が前もって言ってくれそうなものだけど。


「まあ、家の中に見当たらないからそうなのかな?

取り敢えず、庭に出てみよう」


考えてみたら、家の中で殺して庭に埋めた可能性もあるか。

殺された場所よりも、死体が埋められた場所に悪霊が出る事も無きにしも非ずだ。

どうせなら諦めてさっさと昇天してしまう方が良いと思うんだけど、残虐な殺され方をすると地縛霊化する事はあるからね。


殺人事件だったら田端氏に連絡って事でここを売り出せるのが遅れそうだが。

まあ、事故物件なんてどうせ売りにくいだろうしねぇ。

いや、人知れずに事故物件になっていた様な場所は賃借人には居付かれなくて直ぐに逃げられても、売り出すのは売っちゃったもの勝ちだろう。

そうなると死体が発見されて公的に事故物件になると持ち主に恨まれそうだなぁ。


まあ、ウチらの知ったこっちゃ無いけど。

少なくとも、今の持ち主は殺人に関与した人間と関わりがある可能性が高いのだ。

完全に無関係な人間が買って後から遺体が見つかって事故物件化して損をするよりかは理に適っている。


鼠の事に青木氏が気を取られたせいでこの物件の詳細を教えて貰えなかったが、考えてみたらここって持ち主はどう言う流れでここの所有権を手に入れたんだろ?


流石に持ち主が自分で誰かを殺して死体を庭に埋めたんだったら悪霊確認に合意するとは思えない。

誰かから遺産相続したんだったら故人が殺人者だったか・・・行方不明になっての相続だったら故人が庭に埋められている可能性もあるのかも?


普通に投資用物件として買ったんだったら凄く不幸だったねぇってやつだが。

まあ、事故物件っぽい感じに賃借人が逃げまくる物件を買ったのが悪いと言う事で、自己責任だよね。


「考えてみたら、人知れず誰かが殺されて庭に埋められて悪霊憑きになった物件なんて、公的には『誰かが死んだ事故物件』じゃあないからうっかり間違って買っちゃう人もいるのかぁ」

持ち主の物件入手ルートに思いを馳せ、庭に出ながら呟く。


「これだけ瘴気塗れだったら嫌な予感ぐらいはしそうなものだけどね」

碧が指摘する。


「考えてみたら、投資用物件としての不動産だったら戸建てよりもマンションを買うかな?

もしくはアパートを建てるとか。

だとしたら書類上の条件だけ見て戸建てを買うなんて状況はあまり無いか」

流石に仲介した不動産屋は中に入っただろうから投資用だろうと何かヤバいんじゃね?っと思っていただろうけど、それを馬鹿正直に伝えてはいないだろう。


「相続して貸し出していたんだとしたら・・・死んだ親戚か誰かが人殺しだったのかな?

下手にニュースになったりしたら風評被害がありそう」

顔を顰めながら碧が言う。


「確かに。

近所の人だってあまり良い思いはしないだろうしね。

でもまあ、田端氏経由で捜査する事になったらニュースにならない・・・かな?」

それに退魔協会関係はメディアにとってもタブーなのか、ほぼ報道されない。


退魔協会がそれとなくメディア業界を脅しているのかね?

退魔師と言う業界が眉唾な扱いを受けるからこそ、協会が権威を与える組織として必要とされ、管理組織としての独占状態が保たれているんだと思う。

だから眉唾以上の真っ当な扱いをしない様に、密かに協会の幹部がメディア業界へ圧力を掛けていても不思議はない。


まあ、旧家のお偉いさんとかは独占状態云々よりも、自分たちの事を下々が知る必要は無いとか思っているかもだけど。


メディア関係者も、幽霊屋敷っぽい所とかに面白半分な報道をしに行って憑かれる事は多々あるだろう。

そうなると煽りっぽいチャラい番組はまだしも、普通に悪霊や退魔師が居るって言う様な真面目な報道に関して退魔協会が嫌がるなら、下手に怒りを買って悪霊祓いを断られる様になったら困るのは目に見えている。


神社とかでそれなりには対処できる筈だけどね。


「う〜ん・・・ここか」

庭を歩き周り、大きな盥形のコンクリートの塊が置いてある場所で足が止まる。

植木鉢とか盆栽置き場の残骸?

花壇にしては上の部分が浅すぎだよね?

今は瘴気が濃すぎて庭の殆どの植物が死に絶えているから、微妙に判断がつきにくい。


「・・・何だろこれ?」

碧が首を傾げる。


私らを威嚇しようと出てきた悪霊から情報を抜き取って答える。

「井戸の蓋っぽい。

最低でも死体が2つ入っているから、うっかり落ちて死んじゃったって訳じゃあ無さそう」

花壇でも植木鉢置き場でもなかった。

まあ、昔は偽装用上に植木鉢とかを置いていた可能性は高いが。


悪霊って殺された人がなりやすいんだから仕方がないとは言え。

殺人事件に行き当たる確率が高いよ〜。


他の退魔師もこんな感じなのかね?






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