第418話 敵の敵は・・・

「悪霊にはまだなっていませんが、地縛霊がいて主寝室でブツブツずっと文句を言っているので余程鈍感な人以外は夢見が悪くてそのうち出ていってしまうと思います」

一応他に霊が居ないかを確認してから、部屋を出て外で待っていた青木氏に報告する。


人を害する悪霊ではないけど安眠妨害するって意味では十分有害だよね。

しかも昇天しない霊って残っているうちに瘴気を吸収して悪霊化しやすいし。


「成る程。

除霊をオーナーに勧めておきましょう。

次も近所のマンションなので、この前歩きます」

青木氏が階段を降りながら言った。


「そう言えば、不動産屋って事故物件とかに人よりも多く出入りする羽目になると思いますが、大丈夫なんですか?」

先日の沙那さんみたいな霊ホイホイは珍しいし、事故物件に憑いているのは地縛霊的に動かないのが多いとは言え、ある程度の悪意は向けられそうだし瘴気とかも吸収しそうなものだが。


「外回りをする時は最後に黒崎さんのところの神社に寄ってささやかなお賽銭を払ってお祈りする事にしているんです。

それで変な怠さが無くなる事が多いですし、どうも不味い時は黒崎さんがお祓いする事を勧めてくれるので、酷くなる前になんとか出来ている感じですね」

青木氏が教えてくれた。


なるほど。

碧がペット専用カリスマ祈祷師をやっている神社は神気が漂っているちゃんとした神社だから、ちょっとした悪意や瘴気程度だったらお詣りするだけで落とせるのだろう。


「良いですね、それ。

普通に働いている人も週1ぐらいでちゃんとした神社で祈ればそれなりに綺麗になれるのに」

碧が頷きながら言った。


「碧さんの父君から勧められた対処法ですよ。

やり始めてから肩凝りが大分とマシになったので、今まで色々と不味いものを拾っていたんでしょうねぇ」

軽く苦笑しながら青木氏が言った。


へぇぇ。

肩凝りって霊とか瘴気とかでも酷くなるんだ?

沙那さんもかなり怠そうだったし体調が悪そうだったけど、霊とか瘴気がどんな感じに血流とか筋肉の強張りとかに作用するのか、ちょっと興味がある。

まあ、研究しても活用はしにくそうだからあまり意味は無いだろうけど。


そんな事を考えながら青木氏の後をついて行ったら、斜め後ろのマンションの2階に案内された。

「何やら夜中に異音がするとの話ですね、ここは」

そう言われて入った部屋は、マンションそのものはさっきのところより新しいのでリフォームをしっかりやっていないのか、中身の新品感は薄かった。


「いなさそう?」

碧が部屋の中を見回しながら言う。


「そんな感じがするね。

クルミ、どっかに霊が隠れてないか、しっかり念入りに調べてくれる?」


『了解にゃ〜』


窓のそばに行って外を見ながら碧が溜め息を吐いた。

「却ってこう言う居なさそうなところって時間が掛かるんだよねぇ。

ある意味、ざっと見て見当たらないところではばっと私が清めちゃったらどうかな?」


確かに。

碧が場を清めれば、確実に『見落とされて』後から悪戯をする霊も居なくなる。

しかもそれなりに効果は継続するから時間限定タイプなのも追い出されるし。


「その方が時間効率は良いけど・・・なんか負けたようで悔しくない?」

何と競争しているのか不明だが。


「まあ、うっかり隠れていた霊を昇天させちゃったら5千円で除霊とは何事かって退魔協会には怒られそうだけどね〜」

肩を竦めながら碧が言う。


「時間効率は良いんだけどね。

もっと沢山回る事になったらその方法もありかも」


ズルだろうが、『この物件に悪霊は居ません』って教えてお金を貰う契約に違反している訳ではない。


『霊は居にゃいにゃ!

でも鼠が天井に住んでるにゃ!』

碧と雑談している間に戻ってきたクルミが教えてくれた。


「げ」

「どうしたの?」


「鼠が天井に居るんだって」

「マジ?!」

碧がギョッとした様に天井を見上げる。


「あ、本当だ。何か小さな哺乳類が複数いる」

碧の生命探知に引っかかったらしい。

私も精神探知で探したら鼠っぽい小さな生き物の単純な思考が感知出来た。


「鼠って一軒家にしか居ないもんだと思ってた・・・」

碧が呆然と呟く。


「2階だから、美味しそうな食料の臭いがしててエアコンダクトとかに隙間があったら入って来るのかも?

敵がGだけじゃないとはびっくりだね」

まあ、Gに比べたら鼠なんぞどうと言うことは無いが。


健康被害がなくってGを襲ってくれるなら鼠の存在を容認しても良い様な気もしないでも無いが、服やカバンや家電ケーブルとかを齧られたら困るから、やはりダメだね。

夜中にゴソゴソ音がしたら煩いし。


きっと退魔協会に頼むよりは駆除代も安いだろうから、オーナーと青木氏にとっては朗報だね。








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