第321話 本番
「助手扱いで私にもお金が入るんだし、穢れ祓いの部分はやるよ。
それで以外の分は碧がやってね」
こっそり地鎮祭の朝、私と碧、及び青木氏はあの再開発物件の場所に来ていた。
昨日地鎮祭をやったのだが頼んだ神社が外れだったらしく、相変わらず土地には穢れがどっぷり染み込んでいる。
青木氏が関与しているんだから、本物の神主に頼めばばいいのに。
それとも碧が後から来るから手を出す必要はないと思ったのかね?
・・・青木氏がアタリとハズレの神社の見分けがつくのか、後で確認しておこうかな。
もしもの時に私や碧がそばに居なくて手遅れになったりしたら不便だ。
まあ、数日の遅れで死んじゃう様な致死性が高い呪いだったら普通の神社でも祓えないかもだし、青木氏だったら退魔協会に依頼を出すだろうけど、一応。
「お願いして良い?
流石にこれだけ広い敷地だとかなり霊力が必要だからね」
イマイチ地鎮祭って実際にどう魔力(もしくは霊力)を使うのか想像も付かないが、それなりに面積に比例して疲れるらしい。
防御結界とかとは違うんだよね??
まあ、これから見せてもらえるんだから待っていればいいんだけど。
取り敢えず、碧がゴソゴソと準備している間に敷地の四隅に結界の境石代わりの魔力の塊を飛ばし、しっかり範囲指定が出来たのを確認してから魔力を地面に流し込んで穢れを浄化していく。
そこそこ濃厚な穢れだが、黒魔術師は穢れとも相性がいい。
攻撃に使おうと思ったら近辺の穢れを利用出来ちゃうほど互換性というか親和性が高いのだ。ちょっと私の魔力を使って大量にある穢れの一部を変質させ、純粋な力に変えたらそれを利用して他の部分の穢れも変質させていく。怒りや絶望、そしてそれらが変質した穢れって実はそれなりにエネルギーを内包しているんだよねぇ。
制御する為に精神力はガリガリ削られるが、どんどん純粋な魔力が生じてくるので魔力そのものは余りそうなぐらいだ。
前世では穢れを魔力として利用できたから汚染された場所の浄化とかにも役に立った黒魔術師だったが、わざと穢れを生み出してパワーソースにしようと考える悪人もいたせいで黒魔術師は『浄化が効率的に出来る』存在と言うよりは、『意図的に穢れた地を生み出そうとする極悪人』というイメージの方が広まっていた気がする。
まあ、どちらの評判もあまり国としては広まって欲しくなかったせいで単なる童話レベルの戯言だと魔術学院では教えていたけど。
禁書とかには色々と書いてあったが・・・魔術師ですら真実を知っている人間は少なかった。
それはさておき。
大量の穢れから抽出した魔力を溜め込める魔石がある訳でもないので、そのまま地下深くまで魔力を流し込んで穢れを祓い、ついでに弱っていそうな地盤も補強しておく。
液状化とか地盤沈下とかしたら色々と面倒だろうからね。
再開発が終わるまでウチらが今の場所に住んでいるかは不明だが、変な事になって工事が長引いたり、折角オープンした店が閉まったりしてはウザい。
しっかり穢れを祓って綺麗にしたところで魔力のコントロールを解放し、目を開ける。
「終わったよ〜」
「ども。
じゃあ、いきますか!」
碧が何やら準備していた台の前に立ち、手を合わせて祝詞を唱え始めた。
お〜。
やっぱり単に魔力を使うだけでなく、誰かに祈っている感じだねぇ。
まあ、この場合は『誰か』と言うよりは『母なる大地』に近い感じだろうけど。
・・・大地って母なのかね?
氏神さまがいるならまだしも、見放されて大地だけが残ったこことかだったら別に性別はないかな?
とは言え。
除霊の際の祈りと似たような感じで、ほわっと気持ちのいい光が空気から産まれ出てくる感じだ。
祝詞で碧の魔力が変質して神聖な力になっているのかな?
それとも白魔術で大地を癒やして豊かにしている副作用で気持ちがいい波動が生じているのか。
イマイチ何が起きているのか分からないが、『神様って本当に居そう』と普通に思えるような荘厳で爽やかな光がゆっくりと地面に染み込んでいき、やがて碧の祝詞が終わった。
うん。
ここだったら気持ちよく過ごせそう。
残念ながら公園でも一軒家でもないから、高層なビルの上のオフィスで働く人にどの程度効果があるかは不明だが、昼休みにでも敷地の緑な部分を歩き回ってお弁当でも食べたら良いんじゃないかな?
白龍さまが碧を贔屓にするのも不思議じゃないね〜。
今度、ハズレじゃない神主さんのやる地鎮祭も見物しに行ってみようかなぁ。
こんな感じだったら気持ちよさそう。
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