第322話 魔力でコタツ?

「節電が必要って言われると、魔力をコタツとかカイロみたいに使えないのが残念〜って感じるなぁ」

テレビで明日も節電のご協力をと言う政府の表明を見て、コタツの中に潜り込みながら碧が言った。


「う〜ん、魔力は直に継続的な利用は難しいから、暖房としてだったら魔石が必要だねぇ。

そんでもってちょっとしたカイロならまだしも、コタツや部屋全体を温めるぐらいの出力がある魔石となるとそれなりに強い魔獣からの魔石が必要だから、一般家庭全体にそう言う魔石を使った便利な魔道具が行き渡る世界となると魔獣だらけで人間の住める領域がかなり限られちゃって文明の発達が難しいかも?」

現代の地球にいる規模の人口が全員居心地良く暮らすために必要なエネルギー源として、魔石や魔力で継続的に賄い続けるのはほぼ不可能だ。


まあ、今の地球だって過去の何千万年か何億年かの蓄積で圧縮された化石燃料を数十年単位で燃やし尽くす勢いで使う事で現代社会の快適な暮らしが可能になっているだけだけど。


再生可能エネルギーだけで全世界の人口が今の快適な生活が持続出来るかは非常に怪しいところだろう。

燃料や資源が尽きた時に、代わりになる技術を人類が開発できているか否かで戦争と言う手段で強制的に人口を減らす選択肢が取られることになるかが決まりそうだ。


もっとも、資源が尽きるまでに先進国はまだしも後進国で再生可能エネルギーの利用に必要な投資を行うだけの資金がある可能性はかなり低いから、資源が枯渇した時に殺し合いによる人口の縮小は絶対に起きるだろうなぁ。

その殺し合いが先進国に飛び火するかは不明だが・・・先進国の人々が居心地良く快適に生きているのに自分達が寒い中で飢えているとなったら、絶対に八つ当たりな自爆テロっぽい攻撃で先進国に死をばら撒く連中も出てくるだろう。


そう考えると、地球の技術と人口のバランスってヤバいレベルまで崩れているなぁ。

古代でも文明が発達した際に燃料や建築資源として木々を伐採し過ぎて周囲を丸裸にしたせいで文明が徐々に滅びた例は多々あったらしいが、今の地球ってそれを究極に大きなスケールでやっているだけだよねぇ。


前世では少なくとも資源と人口は均衡が取れていた。

ただし弱者が常に寒さと飢えに曝される厳しい均衡だったし、余裕が無かったせいで文明も進みが遅々たるものだったけど。


持続性を考えないなら、地球の先進国に生まれる方が絶対に良いのは事実だ。


「魔石って鉱山とかから取れなかったの?

もしくはダンジョンみたいな資源を生み出す仕組みがあるとか」

碧がコタツの上に置いてある蜜柑に手を伸ばしながら尋ねる。


「魔獣が都合良く中でリポップする上に外に出てこない洞窟みたいな場所は、前世にも無かったねぇ。

まあ、山奥とか辺境地帯の森とかは強力な魔獣のテリトリーで、そこでは自然に増えた魔獣が弱肉強食な世界で繁殖していたけど」

人間が近づきやすく暮らしやすい平地は魔術師や兵士の力でそれなりに魔獣を押しやって人間の領域に出来たし、周辺部の魔獣が人間の居住地域に比較的近い場所に生きている地域ではそう言う魔獣を狩る職業の人間もいた。


だが、経済性や殺しやすさなどで討伐が偏ると特定の魔獣が増えすぎて人類の領域に攻め込まれる事があり、溢れ出た魔獣の群れに辺境の村や町が押しつぶされて、後から国が取り返すといった事態も定期的に起きていた。


うっかりするとそう言う時に他国に攻め込まれたりして失った領域を取り返せない事もあったし。

食物連鎖のトップの地位は人間のものか、魔獣のものか、微妙に定まっていない世界だった。


「ダンジョンが無いのかぁ。

まあ、確かに周囲に比較的安全なのに幾らでも資源が取れるなんて、人間に都合が良過ぎるよねぇ。

でも適度に間引いていれば氾濫しないダンジョンならまだしも、普通に魔獣が暮らして繁殖している大自然が直ぐそばにあるっていうのはちょっと危険すぎて微妙だな〜」

碧が溜め息を吐いた。


「もっとずっと文明が進んで、それこそ宇宙空間で十分に全世界分の太陽光発電でも出来るようにでもならない限り、先は暗いよねぇ」

しかもそれで発電はどうにかなるにしても、資源の枯渇はどうしようもないだろうし。

まあ、宇宙における発電で全世界のエネルギーを何とか出来る時代まで人類が生き延びられれば、木星辺り(?)のアステロイドベルトからでも資源をゲット出来る様になっているかな?


「炎華に熱を出してもらう訳にはいかないのかな?」

ふと、窓際で日向ぼっこしている幻獣を見て碧が尋ねる。


『こちらの世界では省エネ状態なんで無理です〜。

幻獣界にちょくちょく戻して貰って魔力を充填できるなら考えますが』

炎華が片目を開けて答えた。


「諏訪まで戻る労力を考えると大人しくコタツに入っているのが一番だね」

「だねぇ」









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