第320話 こっそり地鎮祭

「非公式な地鎮祭、ですか?」

青木氏の持ってきた話に碧が首を傾げながら聞き返す。


ちなみに、加藤さんの毒親制裁は結局諦めた。

青木氏に不動産の管理を任せていると言う話だから近所に住んでいるのかと思ったら、母親はそこそこ遠い高級住宅地に住んでいた。

流石にあの辺まで明け方近くに行って夢で悪評を流すのは面倒過ぎる。

被害者本人が報復を求めていないんだし。


と言う事で、母親の元を離れて加藤さんが平和に暮らせる事を取り敢えず祈るだけにしたのだが・・・毒親の住所をこっそり教えてくれた青木氏がついでに別の依頼を碧に持ってきた。


「ええ。

去年の暮れ前後に色々とやってもらったあの再開発の案件なんですが、敷地全部を更地化出来たので近いうちに地鎮祭をやって工事を始めるんですよ。

ただあれだけ問題があった場所ですからねぇ。

しっかり清めて実効力のある地鎮祭をやる方が良いと思いまして」

青木氏が説明する。


「あ〜。

でも公式な地鎮祭には色々な会社とか利害関係者のお偉いさんとかが来るから、私みたいな若いのじゃあ不味いって事ですか」

碧が青木氏の言わなかった部分を補完する。


成る程。

お偉いさん達が来る地鎮祭は、動画や写真で見る様なオッさん神主に頼んでやってもらい、こっそり見物人がいない時に本番の地鎮祭を碧にやって貰うのね。


でも。

「不動産開発の関係者だったら退魔師が実在する事を知っているんですよね?

だったら白龍さまの愛し子である碧にやって貰う方が有り難がられません?」

態々こっそりやる理由が分からん。


「私が白龍さまの愛し子であるのは一応秘密にしてあるから、不特定多数相手にその事実を明かす仕事はやってないんだ。

退魔協会の除霊依頼だったら依頼人もあまり事件の話を広めたりしないけど、不動産開発の地鎮祭なんて誰が来るか分からない上に勝手に動画をネットで公開するアホも出てくる可能性が高いからね〜。

こっそり非公式に出来るならこちらもその方がありがたいの」

碧が説明してくれた。

なるほど。


不動産業界の常識とかを分かっていない会社の若いのとかも来たりするのかな?

まあ、どちらにせよ碧は若い美人な女性なのだ。下手に顔と名前が広がるような活動はしないに越した事はないね。


「公式の地鎮祭をやった翌朝早くにでもやるのが良いですかね。

いつになります?」

碧がタブレットを取り出してスケジューラーのアプリを立ち上げながら尋ねる。

最近はペット専門祈祷師の仕事もあるから色々と忙しいんだよね。


退魔協会を通さないようだけど、地鎮祭の仕事は実家の神社への依頼って事なのかな?

まあ、意外と地鎮祭の報酬って安いみたいだから元々報酬で揉めたりしないんだろうね。


「では来週の水曜日でどうでしょう?」

青木氏が提案する。


「良いですよ。

清めと祈りだけで良いんですよね?」

碧が確認する。

考えてみたら、地鎮祭って何をするんだろ?

背の高い帽子みたいのを被ったおっさんが木の枝っぽい棒を振っているイメージしか無いが、本質的にはあれって祈りなんだよね?

碧だったら形は整えなくても大丈夫だろうけど・・・考えてみたら、普通の土地にそこを守る氏神さまっているんかね?

いないとしたら誰に対して祈るんだろ?

諏訪ならまだしも、白龍さまが日本中どこでも守ってくれるとは思えないが。


気になったので、青木氏が帰った後に碧に聞いてみた。

「地鎮祭って誰に祈るの?

ローカルな氏神さまを探しておくの?」


「実際にどれかの氏神さまがテリトリーとして認識している場所だったらその氏神さまに祈るけど、あの不動産再開発の場所は見捨てられた場所だからね〜。

敷地の穢れをしっかり落として、後は土地自体に安らかに人の営みを見守って下さいって祈るだけ」

土地に祈ってなんとかなるんだ?

まあ、清めの術が土地によりしっかり根付くのかもね。


「そう言えば、こう言う神社経由の報酬ってどう言う扱いになるの?」

カリスマ祈祷師の件も碧がお金を受け取っているけど、神社の活動って事にしている筈。


「取り敢えずうちの神社の神職として活動してお金を預かっている形にしてある。

ちょっと使い込んでも後で精算すればいいから記録だけしっかり付けておけばなんとでもなるってさ」

なるんかい。

まあ、碧ママあたりがそこら辺は強そうだったからなぁ。


任せておこう。









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