第319話 本人が求めないと報復も難しい

蓋を開けてみたら、毒を盛られていた加藤さんは青木氏の知り合いだった。

と言うか、碧のペット専門祈祷サービスを教えたのが青木氏だったので、不動産屋を紹介しようと連れて行った先があそこだったのはちょっと笑いを齎した。


「加藤さんの母親が毒を盛っていたのって遺産狙いとかじゃあ無いんですね?」

加藤さんが即日入居可能な物件をさっさと決め、引越しの為の準備に忙しいので半日ほど預かることになったマメちゃんを撫でながら碧が青木氏に尋ねる。


犬なので猫がいるウチらのマンションや青木氏のオフィスは微妙だと言う話になり、青木氏のオフィスのそばにあるペット可なカフェでお茶を飲んでいる。

ここで出来るだけ粘り、出る羽目になったら暫く歩き回って時間を潰すことになる予定だ。


「ええ。

ご両親が離婚した際の資産分割でも母親だけにお金が入って子供に関してはほぼ無視されてしまったので、もしも遺産狙いの殺人があるとしたら母親の方が狙われるケースですね。

母親ががっちり資金を握って娘をコントロールしているように見えていましたし」

青木氏が教えてくれた。


「加藤さんって姉妹がいたりするんですか?」

霊が間違えるとは思えないが、もしかして姉妹が親を殺そうとしてうっかりトバッチリを食らったなんて事はないんかね?


「一人っ子ですよ。

元々裕福だった家の一人娘だった母親が一族の会社の経営を任せる為に婿養子を取ったんですが、ちょっとどちらにも性格に難があったようで離婚になりましてね。

その際に嫌がらせも兼ねて元夫側が顧客と技術者を大量に引き抜いて行ったせいで会社が立ち行かなくなったんです。

会社そのものは大企業に身売りしたから母親の方は老後まで比較的苦労せずに暮らせるだけの財産は残ったようですが、昔のような『経営者一族』としての贅沢な暮らしは出来くなったと言う話で。なによりも社会的地位が下がったのが痛かったみたいですね。

その時すでに祖父母世代は亡くなっていたので孫に残された遺産もありませんでしたし。

元々キツイ人だったのが更に付き合いにくい人になって、娘さんを拘束しまくって可哀想な程でした」

うわぁ・・・。

もしかして、娘が家を出ないように体調を悪くさせようと毒を盛っているの??


「犬まで殺すのはなんででしょうね?

単に犬が嫌いなだけだったら飼うのを拒否すれば良さそうに感じるけど」

碧が少し首を傾げる。


「可愛い子犬を自分の知り合いに自慢するのは好きなんだと思いますよ、

幾つか投資用に不動産をお持ちでその管理をウチで任されているんですが、前回も今回も子犬が来た頃は可愛い写真を自慢げに見せられましたからね」

青木氏がため息を吐きながら言った。


「マメちゃんは今でも十分可愛いと思いますけど?」

却って元気一杯な子犬よりもあの位の年齢の方が落ち着いてきていて飼いやすいと思うんだけどね〜。


「子犬の単純な誰にでもアピールする可愛さが良いんでしょう。

後は、娘が犬を溺愛するのも面白くないと感じている気もしますね」

苦い顔をしながら青木氏が応じる。


かなり問題ありまくりな人格のようだね。


「毒を盛ったのに何も罰せられないなんてなんか納得が行かない〜!」

ふうっと大きく息を吐きながら碧が憤懣と文句を言う。


「他人の犬ならまだしも、自分の家で飼っていた犬ですからねぇ。

実際に犬を購入したのが娘だとしても、母親の家で飼っているとなったら実質『自分の犬』扱いでしょう。

動物虐待と言う事で一応罰則もありますが、現実的には証明も難しそうですし」

青木氏がため息を吐きながら言う。


実際のところ、毒が何かすら分かっていないのだ。

母親がそれを意図的に犬と自分の娘に食べさせていたと証明するのも難しいだろう。


「幸い、加藤さんは不調を堪えて働き続けていたので一人で暮らせるだけの収入がありますからね。

ある意味、娘にも見捨てられて一人寂しくこれから老後までを過ごす事になるのが母親の罰だと思いましょう」

青木氏が碧を宥めるように言う。


う〜ん。

殺された犬の恨みを晴らしたい気もするが、チャルちゃん自身は別にそんな事に拘りは無いから、無理に彼女を差し向けて母親を害そうとしたらチャルちゃんの霊が穢れちゃって本末転倒だしねぇ。


クルミを差し向けて暫くポルターガイストっぽい現象でも起こして脅すのもありだが、下手に怯えさせると加藤さんに泣きつきそうだからなぁ。

加藤さんはお人好しっぽい感じだから、泣きつかれたら下手をしたら許して助けそうだし、そうじゃなくても泣きついてくる母親を無視するのはストレスになりそうだ。


「酷い人の方が面の皮が厚くてダメージが通りにくいのって、なんか不公平ですよねぇ」

かと言って流石に殺しちゃう訳にはいかないからなぁ。


なんともスッキリしない。

近所の人にでも犬に毒を盛って殺そうとしたから娘に見捨てられたってこっそり夢の中で囁いて回ろうかな。

時間帯を選べば、誰かから聞いたと誤認して噂が広まるかも?


中々報復って難しい。









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