第315話 始めます
「こんにちは〜」
猫部屋に遊びに来た顔で碧が青木氏に挨拶をする。
取り敢えず、青木氏にペット専門カリスマ祈祷師(笑)としての活動も始める事を知らせておこうと言うことになったのだ。
今の日本では、霊力を使った退魔や回復が本当に存在すると信じている人間は少ない。
そして退魔師の互助組織である筈の退魔協会は医療業界からの利益供与に誘惑されて回復師の行動規制に合意しているので、当然のことながら碧が脱法的にペットの治療をすると言ったところで依頼を回すどころか、横槍を入れるか自分達に利益供与しろと迫ってくるだけだろう。
なのでもう一方の退魔師の存在を知っている不動産業界にそっと話を広める事にしたのだ。
まあ、下手に話が広まり過ぎて碧が忙殺されても困るので、個人的な知り合いベースで進めるつもりだけどね。
何と言っても、一件1万円なのだ。
30分ごとに1日8時間次から次へと患者が来たとしても1日16万円にしかならない。
これだったら普通に退魔協会の依頼を請けている方が収入的には美味しい。
かと言って碧としては猫や犬の苦しみを糧にガッツリ大金を搾り取るのも微妙なので、これは半ばボランティアとしてやる活動と言って良いだろう。
そう考えると、回復師の力と金儲けってイマイチ相性が良くないね。
金を儲けたければいくらでも儲けられるけど、真摯に苦しんでいる人を助けたいと思うと金儲けがしにくいのだ。
贅沢な食生活のせいでなる生活習慣病はまだしも、普通の病気ならば現代日本だったらちゃんとした企業に働いている人間だったら普通に健康診断を受けて治療を受けるので、それ程悪化しない可能性がそこそこ高い。
だが生活に余裕のない人間だと碌な健康診断も受けられないし、受けた結果が悪くても治療を受けに行く余裕が時間的にも資金的にも無いせいで重病化するまで放置と言うケースも多い。
そう考えると、重病化する人間は若い間は貧乏人の方が多く、そう言う人間は回復師に払える資金もあまりない。
歳をとってくれば年寄りもどんどん体にボロが出てきて色々と治療が必要になるし、そいつらは金をいくらでも出すのだろうが・・・ある意味、碧が癒したい患者はそう言うタイプではない。
そう考えると、人間は健康保険と現代医療技術に任せ、ペットだけ癒せるカリスマ祈祷師(笑)は碧にとって悪くないだろう。
「お久しぶり〜。
どうしました、何か部屋に問題でも起きましたか?」
青木氏が出てきて挨拶をしながら尋ねる。
「いえ、そうじゃないんですが・・・ちょっと新しい活動を始めることにしたんで知らせておこうと思って」
碧がリボンを取り出して子猫たちを誘惑しながら言う。
一応、人が来ている間はインターネットのライブストリームに顔が写り込まないように上部のキャットウォークやキャットタワーの箱を映すようにカメラが変更される。そうやって写り込まなくされた場所に椅子も置いてあるので、そこに座った碧が青木氏にも側に来るように手招きした。
「新しい活動ってなんですか?
とうとう医療機関に真っ向から喧嘩を売ることにしたとか??」
青木氏が冗談混じりに尋ねる。
「いやいや。
人間を癒すために、政治家とズブズブな医療機関の経営陣へ喧嘩を売るつもりはありませんよ〜。
ただ、もしかしたら獣医師会には喧嘩を売ることになるかも?
今度ペット専門で祈祷サービスを始めようと思って。
ペットの健康祈願の祈祷を1万円のお布施で請け負います」
にっこり笑いながら碧が言う。
「健康祈願の祈祷・・・?
もしかして、効き目100%の奇跡を期待できる祈祷?!」
青木氏が目を丸くして叫びかけて、自分で口を抑えた。
「まあ、そうですね。
でも、『祈祷』です。
神は信じる者を救うんです。
でも、私の神様は無垢な対象なら助けますが人間には試練を課すタイプなので、人間への祈祷は普通の神社でやるのと同じ結果になるので、神に縋りたい『人』は諏訪の実家の方で厄祓いを受けて貰うだけですが」
碧が付け足した。
「はぁ。
まあ、人間は対象にしたら医療業界との泥沼な争いになりそうですかららねぇ。
でも、この子たちが病気になった時に遠慮せずに頼れるのはありがたいです」
青木氏が言った。
「理解がある方なら他にも話を広げて結構ですが、人間の治療も頼みそうなタイプは避けて下さいね」
碧がにっかり笑いながら釘を刺す。
「ちなみに、これって獣医師会と喧嘩になりますかね?」
ちょっと気になったので青木氏に尋ねる。
「う〜ん、次から次へと毎日ペットを治癒しまくるって言うんじゃない限り、大丈夫なのでは?
1回一万円だったら普通の飼い主ならワクチンの予防接種は続けるだろうし、最近の獣医はペットのヘアカットとか爪切りとか預かりサービスとかでかなり儲けているようですからねぇ。
重症化しちゃったペットは助からない可能性の方が高いから、それをサクッと癒して貰ってこれからもメインテナンス費用が続く状態が維持できるなら、獣医師にとってはそれ程損じゃあ無い・・・かも?」
ちょっと首を捻りながら青木氏が答えた。
なるほど。
そう言う見方もあるか。
「まあ、やってみなければ分からないけど、取り敢えず近所の3丁目の神社のスペースを借りる話は一応ついているんで、必要がある場合はそこで祈祷出来ますよって事で適当に知り合いでペットを飼っている人に話を広めて下さい。
因みに要予約です」
考えてみたら、祈祷の衣装ってどうするんだろ?
折角歩いて数分の場所にある神社だが、一々巫女衣装っぽいのに着替えるのは面倒そうな気もする。
まあ、どうなるか様子見だね〜。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます