第278話 聞いてない!!

「今日は結局1時間弱しかこちらの素晴らしいスイーツを楽しめなかったのですが、本当に美味しかったです」

女性警官の事情聴取が終わり、帰ってもいいのかな〜と周りを見回していたらマネージャーさんが被害者への消火対応へのお礼を言いに来たので、お礼を受けた後に碧がにっこりとセリフを返した。


ちゃんと補償に関して想定していたのか、マネージャーさんもにっこり微笑んで受ける。

「幸いレストランへの被害は殆どありませんでしたから、明日には再開する予定です。

今回の補償代わりにお嫌でなければ是非代わりにもう一度来て頂けますか?

宜しかったらお友達を数人お呼びしても構いません」

人数を増やすよりも回数を増やしたいところなんだけど、『一度』とはっきり言われてしまってるねぇ。ある意味人数が少し増えるぐらいなら使うテーブルの数は変わらないけど、回数が増えると使うテーブルの数が増えるから厳しいのかな?


残念。

まあ、次回をガッツリ楽しんで、更にまたスイーツブッフェに来よう。


取り敢えず明後日の同時間に予約を入れ、帰ろうかと部屋を見回したら田端氏が入ってきたのが目に入った。

おお〜。

どこにいたのか知らないけど、頑張ったね。


見回していた私らに気付いた田端氏がこちらに来てタブレットをテーブルの上に置いた。

「いやぁ、色々と大変だったね。

レストラン前の防犯カメラの映像を貰ってきたんだが、その怪しい素振りを見せた女性というのを見つけてもらえるかな?」


おや。

防犯カメラの映像ってそんなに簡単にタブレットに移せるようなモノなの??

かなり意外だ。

ある意味、警察には便利だろうけど、防犯カメラの映像を勝手にコピーしやすくならない??


微妙に思いつつも、差し出されたタブレットに眼を向ける。


「この時点で爆発が起きた。

ここから巻き戻すからそれらしい人影が見えたら言ってくれ」

本当の爆弾ならまだしも、さっきのあの程度では店外には全く何も見えなかったらしく、普通にレストランの外を人が歩いている。

巻き戻しボタンを押すと動きが逆になり、皆がムーンウォークしているように見えてちょっと笑える。


「あ、この人ですね」

爆発時までに出てきた人影の2人目だった。

あまりはっきり顔は写っていないが、体型は明らかに彼女だし、服の形もそれっぽい。

意外と画面が荒くて色はイマイチ分からないが。

防犯カメラって思っていたほどはっきりとは見えないんだねぇ。


「ふむ。

彼女か」

頷いた田端氏が画面にタップし、何やら器用に指を動かしたと思ったら別のアプリにあの防犯カメラの顔の部分だけがペーストされた。

見ていると、徐々に映像がクリアになっていく。

目鼻の位置とかに何やら点がついて検索画面っぽいのも横に出てきた。


「おお〜。

便利ですね。

何ですか、これ?」

もしかして、マイナンバーカードの写真のデータベースとか??

日本に顔写真でIDが分かるデータベースは無いと思っていたんだけど、実はあったのか?!


「退魔協会のメンバーと登録されている弟子のデータベースだよ」

マジ?!

国民データベースじゃ無いけど、警察の持つデータベースに私の顔が登録されているのか!!!


ちょっとショックかも。

悪事を働くつもりはないけど、何かやった時に善意だとしてもやったのが私だと分からない方が嬉しい場合が多そうなのに、どこかで顔が写ってたら身バレする可能性が高いのかぁ・・・。


「ちなみに、退魔師の家族や親族は?

才能持ち人材発見の報酬の問題があるから、旧家なんかは弟子として登録するタイミングをそれなりに調整しているわよ?退魔の術を知っているけど弟子登録していない子はそれなりにいる筈」

碧が指摘する。


「そうなんだけどねぇ。

流石にそちらはプライバシーの問題があるから勝手に警察のデータベースに組み込めないからね。

こちらで見つからなかったら暫く退魔協会とかのパーティ映像を探し回る事になるかも」

苦笑しながら田端氏が答える。


「私もあまりデータベースに載りたくないですけど・・・」

ついでにちょっと突っ込んでおく。


「退魔協会に登録した際に『国の治安維持に差し支えない範囲で協力する』って合意してるから、あれでOKした事になるんだって」

碧が教えてくれた。


マジか・・・。






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