第277話 事情聴取

「流石にこの状況でブッフェの残りの1時間分を食べ続けるのは無理だよねぇ・・・」

ウェイターが氷水の入ったジャグを持ってきたのとほぼ同じタイミングでマネージャーらしき人が来たので『火傷は冷やすのが重要だと思います』とだけ言って残りを押し付け、私達のテーブルに戻った。

下手に面倒を見続けて病院まで付き合えなんて頼まれたら面倒だからね。


「幸い直ぐに火が消えたお陰かスプリンクラーは起動しなかったけど、煙臭いしねぇ」

碧も残りのケーキを食べながら合意する。


「また来ようね。

美味しかったし」

アップルパイとロールケーキをフルーツポンチのところに放置したままだったのが非常に残念だ。

取りに行けるかなぁと見回したが、流石にちょっと無理そうな雰囲気なんだよねぇ。


「期間限定だから、今日の補償として予約をねじ込めないか交渉しよう。

あと、何が起こったのか分かる?

魔力を感じた気がしたけど」

最後の一切れを美味しげに飲み込んでから、碧が聞いてきた。


「多分、呪詛じゃなくって普通の攻撃用の符じゃないかな?

時限式に起動するようにして、何かマグネシウムかアルミニウムみたいな高熱で燃える物を包んでいたんじゃ無いかなぁ。

爆発はそれに・・・ヘアスプレーか何かが発火したんじゃ無いかと思う」

氷水を待っている間に考えていた事を伝える。


下手に触れて指紋が残って怪しまれると面倒なので燃え上がったバッグには触れていないが、しっかり魔力視で確認したけど呪符の残骸は見当たらなかった。

お守りや符に使う普通の魔力が籠った和紙の波動は感じたので、符が使われたのは間違いないと思う。


「となると、さっき凛が見た紙を押し込んでいた女性は退魔師か、退魔師に伝手があるって事かな?」

碧が携帯を取り出しながら言った。


「だろうねぇ。

もう逃げたみたいで見当たらないけど、ビルの監視カメラには写っているだろうから田端氏に入手してもらって私が確認って事になるのかな?

それとも話だけしておけば普通の警官と協力して解決してくれると思う?」

嫌がらせにしても流石にバッグに火をつけるのは危険行為だ。

ちゃんと調べて取り締まる必要があるだろう。


第一、退魔師の訓練を受けているなら見習いでも虐め程度ならなんとでも出来る筈。

こんな行動をする必要性は考えられない。


「なんかこう、疫病神にでも気に入られちゃってるんかという気がするわ〜」

碧に出会ってから、ハプニング率が滅茶苦茶高くなった気がする。

それともこれって大学生になって行動範囲が広がったからなのか。


「う〜ん、力の悪用を許さない運命神みたいのがいらして色々と関係者を誘導しているのかも?」

碧が携帯のアドレスブックを弄りながら提案した。


氏神さまと育ってきたせいか、それとも神社の娘なせいか、意外な事に碧って神様の存在を信じているんだよねぇ。

まあ、神社の娘が神の存在を完全否定していたらちょっと酷いか。

それに日本人って基本的に一神教はまだしも、八百万の神に関しては『微妙に存在を否定しないかな?』ぐらいな感覚なのかも。


800万もいる(と言うか森羅万象と言う意味だよね)んだったら、ちょっと悪戯や正義を追求する超常的な存在がちょっかいを出していても不思議は無いか。

この魔素の少ない世界で動力源が何なのか、気になるところだけど。


「あ、もしもし田端さんですか?藤山です。

実は今、ケルトンホテルで開催している特別スイーツフェアに来ているんですが、突然ひとりの女性客のバッグが爆音と共に発火したんです。

燃焼剤とかは使っていなかった様で、巻き込まれた女性のスカート以外には殆ど被害は無いようですが私と長谷川が両方魔力を感じたので、発火のデバイスに符を使っていたかも知れません。

一応お知らせしておこうと思って」


こう言う場合って田端氏が直接犯人逮捕とかの捜査に関わるのかね?

それとも科学調査チームみたいなところと符や退魔師の関与に関してだけ協力するのかな?


いつになったら帰れるんだろうな〜と思っていたら、警察が来た。

被害者は既に救急車で搬送されてしまったから、話を聞くのはまずは同席者達かな?

その後直ぐにウチらの話を聴きに来てくれるなら比較的直ぐ帰れそうだけど、客全員を順番にとなったら先は長そうだ。


そんな事を考えていたのだが、幸い警官は複数来たので比較的直ぐにウチらのテーブルに来てくれた。

「被害者の方に応急処置を施したと伺いましたが、何か気がついたことがあったか、教えて頂けますか?」

若い女性警官がメモ帳を手に、質問してきた。


多分火を消した時の事を聞いているんだろうけど、先にぽっちゃり女が何かをバッグに入れている様に見えた事を伝えた。


「何かを入れていたんですか?」

女性警官が眼を鋭く光らせて聞いてきた。


「置き引きだったらウェイターにでも声を掛けるべきかと思ったんですけど、テーブルを離れた時に手に何も持っていなかったんで、何かノートを突っ込む程度だったらそれこそ『私の彼に色目を使わないで』とかそう言う類のモノかと思って・・・」

田端氏からの連絡が行っているかは不明なので呪符か迷ったことは言わない。


「何かその不審者と被害者の間でやり取りがあったのをご覧になったのですか?」

女性警官が聞いてきた。


「いえ、ちょっと派手系な美人とぽっちゃり系な女性だったんで、虐め紛いな彼氏へのちょっかいかと思って。

単なる偏見ですね」

だが同じ女なら、そう言う派手でちょっと美人な女の残虐性は学校で見てきただろう。


女性警官も私の推測に無理があるとは思わなかったのか、その点については突っ込まなかった。


「碧・・・友人が戻ってきたので私がスイーツを取りにあちらに行き、アップルパイを取っている時にシューって音がして・・・風船でも膨らましているのかと何気なく振り返ったら突然閃光が走って、その後に爆発音がして火が燃え上がったんです。

ただ、音も爆発も続かなかったので、悲鳴をあげて床に転がっていた女性の消火をと思ってフルーツポンチを掛けました。

火が消えた様だったので火傷対応にとウェイターに氷水を頼んでナプキンを掛け、お冷で冷やしてからマネージャーの方にお任せしてこちらに戻って来ました」

さて。

この後はどうなるんだろ?


ブッフェの補償予約は絶対に譲れないぞ!








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