第271話 違法行為?
「凛〜!
田端氏から電話〜!」
夕食を作ろうかと台所に向かい、冷蔵庫の中を確認していたら碧から声が掛かった。
セールスではなく田端氏から電話だったか。
固定電話があると意外な程の高頻度でセールスの電話が掛かるのだが今回は違った様だ。
「はい、長谷川です」
碧がテレビをミュートにして好奇心一杯にこちらを見ていたので、スピーカーボタンを押して電話に出る。
『ああ、長谷川さん、お久しぶり。
ちょっとお願いしたい事があるんだ。
実は宝冠を取り返したんだけど、先日言っていた『ささやかな悪戯みたいな呪詛』がまだ残っているみたいなんで解呪するのをお願いして良いかな?』
おや。
もう見つかったのか。
「良いですよ。
とは言っても本当に軽い奴でしたから、適当な神社に持って行ってお祓いしたら何とかなる程度でしたよ、あれ?」
寝ている間に返されても起きてから何とかできる程度に抑えてあるのだ。
何と言っても返される可能性が高い呪詛なのだ。注意していたら呪詛が掛かっていても転ばない程度しか強制力が無いし、2倍になって返ってきても大丈夫なぐらいにささやかだ。
態々お金を払って解呪する程の事もないと思うけどね。
それとも犯人逮捕への協力金代わりのつもりなのかな?
『いや、流石にあれだけ換金価値の高い証拠品を近所の神社に持ち出す訳にはいかないからね。
警視庁の方に来て貰えると非常に助かるんだが』
田端氏が応じた。
そっか。
警察の管理下にある間に猫ババされたら面目丸潰れなので、持ち主に返されるまではかなり厳重に管理されていて簡単にお祓いに持ち出せないか。
・・・解決した事件の証拠品っていつ返すんだろ?
もしかして、訴訟が終わるまでずっと警視庁で差し押さえるんかね?
保険金詐欺だとしたら捕まった犯人が宝冠の所有者だから、急がなくてもいいのかな?
でも、盗まれた際の保険カバーを日本の警視庁が払うとなったら物凄い税金の無駄遣いだよねぇ。
「分かりました。
明日でも行けますが、退魔協会の調査ってこう言う場合でも必要なんですかね?」
警察が相手だったら支払い関連でごねたりしないかなぁ?
でも、ある意味権力を盾になんか圧力を掛けてくる可能性もありそうだし、やはり無難に退魔協会経由で契約したい。
『あ〜、ちょっと相談してみる。
取り敢えず、指名依頼を受けてくれるとあっちに言っていいんだね?』
「ええ」
◆◆◆◆
「いやぁ、防犯カメラとかで空港や道の人通りを見ていると、躓く人って意外と目を引くんだよねぇ。
しかも本人は特に呪詛に掛かっているって自覚しないし。
これからは囮調査の盗ませる物に同じような術を掛けてもらおうかって話もあったぐらいなんだ」
結局、田端氏は上手く退魔協会を言い包めたのか、電話があった翌日には退魔協会から指名依頼の連絡が来ていた。
田端氏に案内されながら警視庁の別館の廊下を進む。
流石に何億円もするような証拠品は共同捜査に使っていた会議室に置いておけないらしい。
「ちなみに、呪詛って躓く程度の軽いのだったら違法じゃないんですか?
私はあまりそこら辺のところに詳しくないんですが」
お上の依頼だったら違法行為もOKと言うのはちょっと怖い。
違法行為も特別許されると言うような免責契約を王族と交わして、後から『そんな契約は無い』とか『契約を交わした部下にそんな権限は無い』とか言われて捜査対象だった組織と一緒に逮捕された人間を前世ではちょくちょく見ている。
王族ならかなり自由に法を無視できた前世に比べると日本でならそう言う超法規的措置もやるならちゃんと守られる可能性が高いとは思うが、変な隙は作らないに越したことはない。
今回の様に『呪詛が掛かっているのを見ましたけど解呪しなかったですよ』と言って、事件が終わった後に解呪で報酬を貰うと言う形ならまだ何とかなるだろうが、これは何度も使える抜け道ではないだろう。
「あ〜。
確かにねぇ。
これって法の定義で呪詛に当て嵌まるのかな?
ちょっと道端に小石を置く程度の効果だよね?」
首を少し傾げながら田端氏が尋ねた。
『違法ではないか』で諦めないとは、余程気に入ったらしい。
そんなに役に立ったのかね?
先日電話で言った際には半は冗談の様に受け止めていた感じだったけど。
「さぁ?
そこは警視庁の田端さんとか退魔協会の方が専門家ですよね?
ある意味、そちらで検討して合法だと確認できたら合法である証拠文書と一緒にいつでもご依頼下さい。
まあ、解呪が出来る人なら誰でも掛けられる程度のごく緩い呪詛ですし、私に拘る必要はありませんけど」
それに、この手法が知れ渡ったら犯人側も最初から解呪する手段を用意しておくだろうが。
そう考えると、あまり依頼は来ないかな?
日本の警察が呪詛を使うなんて頭の柔らかい考え方するともあまり思えないし。
つうか、囮調査って日本でもやるんだっけ?
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