第270話 お守りいかが?

「お守り製作の下請け、ですか。

協会に縁のある方の税務申告を手伝った事はありましたが、これは始めて見ますね」

税務士の柳原氏が私たちが準備した書類に目を通しながら言った。


田端氏から宝冠関連の捜査協力は来なかったので、先にやるべき事を終わらせてしまおうと『快適生活ラボ』の税務申告の書類を整えて、その最終確認をして貰っている。

売上は青木氏の霊障チェック、退魔協会の依頼、及び碧の実家へのお守り販売のみ。

費用はマンションの家賃と光熱費の事務所代わりに使っている部屋分、我々の給料、及びお守りの原材料。

とは言え、現時点ではほぼ魔力入り和紙のみだけどね。


将来的には符を退魔協会に売りつけ始めたらそちらの収益も生じるが、現時点ではまだやっていない。

実験で作ったカードサイズの能力アップ魔道具も売ると面倒そうだから使った、魔力入り和紙は書き損じ扱いにして自分達用のみにしている。


ちなみに、給料の割合に関しては根拠になる適当な給与規定をでっち上げたが、過去日付けにして年末近くに計算して作り上げたものなので、会社の会計資料とかも全部紙でプリントアウトした形にしてある。


下手に電子形態にして、給与規定の策定日が実際に働いていた期間より後だとバレたら面倒だからね。

まあ、2人でやるちっぽけな事務所に税務調査が入るとは思わないが、それこそ退魔協会経由で来た政治家の要求を突っぱねた報復として嫌がらせをされる可能性はゼロではない。


なので将来の嫌がらせ対策も含めて、作成日を偽造しやすい紙で全部揃える事にしたのだ。


天罰と言う無敵な武器がある碧相手に嫌がらせをする勇気がある政治家がいるかは知らないが、天罰を喰らう前に引いた奴が嫌がらせをする可能性はあるだろう。

流石にいくらウザくても、合法な税務調査を引き起こしただけで白龍さまが天罰を下す訳にはいかないので、そこら辺は自己防衛策を講じておくのが正解だ。


それはさておき。

「実家が神社な人なんてあまりないでしょうからねぇ。

何でしたら、肩凝りに効く健康祈願のお守りと、よく眠れるようになる安眠祈願のお守りでも持って行きますか?

試作品という事でタダでいいですよ」

碧が薦める。

なんか、まだ税務申告のピークではないだろうに顔色が悪いもんねぇ。


流石に癒しちゃう訳にはいかないだろうが、お守りを渡す程度なら良いだろう。


と言うか柳原氏、なんかちょっと変な瘴気も付いているんだけど、大丈夫かね?

本人に悪霊が憑いている訳ではないし、呪われている訳でもない様なのだが。

ちょっと珍しい症状だな。

誰か、呪われたか悪霊に憑かれたかした人が傍に居るのだろうか?


「良いんですか?」

柳原氏がちょっと戸惑った顔をしている。

あ、お守りの効果なんて信じてないな。

信じていなくてもお守りを捨てるのは気が引けるから、困ったな〜と考えている顔だ。


「どうぞ。

気休め程度の効果ですが、3ヶ月ぐらいは少し楽になりますよ?

4月か5月ぐらいになって効き目が薄れてきて、辛くなったら今度は新しいのを買って下さいね」

肩凝り用お守りを強引に柳原氏の手に中に押し込む。


「・・・あれ?

本当に楽になった」

一瞬動きが止まった後、困惑した様に手元のお守りを見つめながら柳原氏が呟いた。


退魔協会の存在を知っている税理士として碧パパに紹介されたんだけど、もしかしたら退魔師と言う職業の人が真面目に詐欺するつもりなく働いているのは知っていても、超常の現象に関しては本当は信じてなかったのかな?

もしくは悪霊憑き物件の存在は受け入れても、手に平に乗るサイズのお守りに何らかの効果があるとは思っていなかったのか。


まあどちらにせよ、これからはお守り販売のお得意様になってくれそうだ。

直接売れると中抜き分が無いから利幅が大きいくなるんだよね〜。

まあ、金額的には微々たるもんだけど。


「ちなみに、こちらの安眠用のお守りは、枕元にでも置いておけば寝る時だけ効果があります。

寝転がって目元を暗くすれば昼でも効きますので事務所でアイマスクを使ってソファでパワーナップするならソファの傍に置いておいても良いですよ」

忙しいこの時期にお守りの使用説明書なんて読まないだろうから、一応説明をしておく。


一応、来月辺りにでも何か理由をつけてまた来てもらうかなぁ。

瘴気の原因が悪化していたら困る。

ちゃんとウチらのことを理解して誠実に相談に乗ってくれる税理士っていうのは、どこにでもいる訳じゃないんだ。







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