第269話 私がやったとは言っていない
私の質問(と言うか独り言?)に碧が考えこんだ。
「う〜ん、田端氏の態度次第じゃない?
ちゃんと情報漏洩があったってこっちから言われなくても理解出来ているなら手伝っても良いだろうけど、警備側の穴から目を逸らしたままウチらに文句を言ってくるようだったら『昏睡結界を張るのが依頼。宝冠の盗難防止は依頼になかった』って切って捨てればいいよ」
確かに。
一応警備とか捜査のプロの筈なんだ。
こっちが指摘しなくても問題が何だったかぐらい自覚出来てなくっちゃ付き合ってられないね。
と言うか、プロなんだから情報が漏れるような警備体制に甘んじるなとも突っ込みたい気もするけど。
「そうだね。
協力する場合は解除されちゃったのに場所が分かるのは変だから、宝冠に場所を察知できる弱いマーカーを付けておいたって言うか。
でもそれを言ったら直ぐにまた情報が漏れて今度こそ呪詛が見つかっちゃいそうだけどね〜」
「確かに。
それに、マーカーにせよ躓き呪詛にせよ、契約にないボランティアなんだから、その分について追加報酬を貰わないとねぇ。
ここから電話で場所を指示するだけでいいならまだしも、一緒に着いて行けって言われたら面倒だし・・・なんかもう、田端氏が碌でなしな対応をしてくれて切り捨てられると良いな〜なんて気がして来た」
溜め息を吐きながら碧が言った。
「取り敢えず、協力するなら拘束時間につき各自時給3500円と先に要求しよう」
そう決めたところで、電話が鳴り出した。
ちょうど9時。
時間を見計らっていたんかね?
「おはようございます」
碧がスピーカーにして電話に出る。
『おはよう。
テレビを見たかい?結局あの宝冠は盗まれてしまったよ』
なんかあっさりとした感じに田端氏が言った。
あれ?
そんなにあっさりで良いの??
「大丈夫ですか?
問題になっていません?」
碧が思わず尋ねる。
『まあ、私は退魔協会にセキュリティゲート用の時空結界を要請する為に関与しただけの人間だからね。
お役に立てればと昏睡結界もお願いしたけど、他のセンサーとか防犯装置も上手くいかなかったんだから、特に責められてはいない。
ちなみに、君たちの結界は起動したのかな?』
道を歩きながら携帯から電話しているのか、車の音とかが微かに聞こえる。
「してませんねぇ。
寝ている間に気がついたら解除されていたので、結界を掛けたあの内側のケースを木端微塵に破壊したんだと思います」
碧が答える。
『なるほどねぇ。
まあ、あれだけ余計な人間が混ざっていたら情報漏洩は必須だったよね。
今回の件は宝石卸による保険金詐欺の盗難なんじゃないかと見ているんで、これから警視庁とインターポールと保険会社で捜査するんだ。当面は今回の事に関しては人に言わないでくれると助かる』
びっくりするような言葉が流れてきた。
保険金詐欺!
まあ、確かに歴史的価値のない宝石と貴金属の塊だ。
後でバラして特徴的な石だけカットし直せば普通に宝石として素知らぬ顔で売れるだろう。
盗難の依頼金を払うにしても、丸々保険金が入り宝石も貴金属もほぼそのまま売れるとなれば、儲けは大きそうだ。
うわ〜。
なんかちょっと、協力したくなったかも。
でも、保険会社とかインターポールとかに変に私の事が知られるのは困るな。
・・・取り敢えず、イタズラをしたって事にするか。
「実は、ですね。
結界を掛けていて気が付いたんですが、あの宝冠の宝石には触れると一週間ほどちょっと転びやすくなる軽い呪詛が掛かっていました。
特に罪もない悪戯っぽかったし解呪に関しては何も依頼が無かったので、そのまま放置したんですが・・・。
それも解除されちゃってるかもですが、これから一週間の間に妙に躓く人がいたら怪しいかも?」
ちょっと碧が目を丸くしてこちらを見るが、肩を竦めておく。
私が呪詛をかけたとは言ってない。
偶然誰かが掛けたとは田端氏も思わないだろうが、呪詛は悪戯でも一応違法行為だからね〜。
『へぇぇ。
まあ、実行犯や直接宝冠に触れるような人間は既に日本から出ている可能性も高いと思うけど、怪しい人がいたら参考にさせて貰うよ。
ありがとう』
ちょっと笑いを含んだ声で田端氏の返事が返ってきた。
まあ頑張って下さいな。
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