第268話 みんなが知っていたら駄目でしょ

「ぶっ!!

マジ???!!!

凛、見てこれ!!」

朝食を作っていたら突然碧がリビングで噴き出し、大声を上げたのが聞こえた。


「うん?

どうしたの?」

スクランブルエッグを調理していたフライパンの火を止め、リビングへ行く。

ちょっと火の通りが微妙になるかもだけど、スクランブルエッグなら誤魔化しが効くから良いとしよう。

目玉焼きだったら半熟の焼き加減を妥協したく無いので『ちょっと待って』と返すところだったが。


「これ!」

碧が指差しているテレビを見ると・・・『宝冠の盗難?!』と大きな見出しが出てニュースアナウンサーがコメンテーターの人と警備体制やらダークウェブやらの話をしていた。


「え?!

マジ???」

慌てて自分が施した術を確認してみるが・・・結界は解除されていた。


「結界が解除されてる。

解除の前に誰かが掛かったか、分かる?」

私と碧の両方が術を掛けたのだ。

前知識なしにはそう簡単に複数の属性の結界を解除なんてできない筈。

って言うか、術師が泥棒なんてやってるの??


「あ〜、確かに解除されてるね。

どうやってやったんだろ??」

碧が首を傾げた。


「ガッツリ魔力を流し込んで上書きしたか、術を掛けた媒体を粉々に破壊したか・・・かな?

お?

本体に掛けた呪詛の方は解除されずに残ってる」

元々我々が術を掛けた内側のケースは湿度や温度をキープすると共に空気の動きを最低限に抑えて埃も防ぐ仕組みだったので、ついでにこっそり宝冠の方に一週間ほど躓きやすくなるささやかな呪詛を掛けておいたのだが、こちらは解除されていない。

触れた人全員に掛かるようにそれなりに魔力を宝石にバラけさせて籠めておいたので、何度か発動したがまだ本体の呪詛も残っている。


「盗み出す方法が偶然結界に触れないで済む方法で、安全なところに出てから結界に触れたって言うんじゃなくって、解除されたってなると・・・田端氏がウチらに結界を依頼したって情報が漏れてるよねぇ?」

しかも田端氏に言わずにこっそり掛けた呪詛がそのまま残っているし。


呪詛と結界では視え方が違うし、本当にみみっちい呪詛なのであると思って本気で探さなきゃ宝石に自然に籠る陰だと思って見逃される可能性は高い。

それでも、何も知らない術師が細心の注意を払って展示ケースを調べてウチらの結界を解除して盗んで行ったんだったら呪詛にも気付いた筈。


呪詛に気付かなかったって事は、『昏睡結界がある』と前もって知っていてそれを解除したって事だろうなぁ。

そうなりと、術師を使ってでは無く媒体破壊の方法だった可能性が高そうだ。

術に直接干渉されるとそれなりにこちらにフィードバックがあるから、多分気がついたと思うんだよね。

夜中ぐっすり眠っている最中で目覚めなかった可能性も否定はしないけど。


「まあ、あれだけ関係者の多い現場だったら情報共有がそれなりに必要だっただろうからねぇ」

溜め息を吐きながら碧が言った。


そう。


警視庁。

展示場のある六本木の商業施設の運営会社。

商業施設の警備を請け負っている会社。

展示会の運営会社。

展示品の保険カバーを提供していた保険会社。

保険会社の雇った警備コンサルタント。

宝冠を貸し出した国の大使館。

宝冠の貸し出し元である世界有数の宝石卸。

等々、やたらとあの現場には『関係者』が多く、誰も彼もが『自分には説明を受ける権利がある』と主張して碧と私が展示ケースに近づく理由を聞いて来たのだ。


はっきり言って、関係者プラスその他諸々がみんな知ってる『いざという時の保険』なんて意味があるのかね??と密かに思っていたのだが、田端氏もどうやらお偉いさんの命令には逆らえなかったらしい。


つうか、先に碧に時空結界だけ張らして、後でこっそり人がいない時にでも私と碧を『協力者へのお礼なんだ』とでも言って見せているって風にすれば良かったのに。

結界を張る為に媒体になる物のそばに行く必要はあったが、それなりに近づければ触れなくても施術出来るのだから、他の警備に関与している人に昏睡結界の事を知らせなければ良かったのに。


まあ、知らせていなくてうっかり触れた人が昏倒したら問題だったかもだけど。


さて。

「これって呪詛を追って宝冠を取り返すのに協力すべきかなぁ?」





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