第267話 安全対策

「へぇぇ。セキュリティゲートの結界ってぐるっと続いているんだ?」

今日は六本木の展示場に来ている。


結局、退魔協会がどの程度碧への指名依頼をブロックしているかは分からずじまいだったが、元々除霊の依頼はブロックする事に合意しているのだ。

警視庁や政府の仕事もブロックさせておくままの方が楽だろうと言う事で碧は何も言わない事にした。

考えてみたら、碧クラスの退魔師が必要な悪霊よりも、空港クラスの広さに時空結界を展開出来る術師への依頼の方が多そうだ。

元々時空魔術への適性持ちは少ないし。


時空結界の依頼は初めてなので、今日はやり方を参考にする為に碧がやるのを見せて貰っている。

ちょっとした魔道具に近い感じかな。

セキュリティゲートの中を潜る際に時空結界を越える事になるので収納符や自分の収納用亜空間に物を入れていると中の物が全て飛び出す様になっている。

コンサートなんかのセキュリティゲート程度だったらそれだけなのだが、特に危険性が高い場合はこのセキュリティゲートの機械を繋ぐ光ファイバーをぐるっと保安する区画全部(つまり展示場全部)を囲って全部に時空結界を展開する事でセキュリティゲート以外の場所から入ろうとしても収納機能が発覚する様になっている。


「そう。

とは言っても、収納していた物が出てきちゃうだけで警報が鳴るわけじゃないから、人目につかない部分で結界を越えられたら分かりはしないね。

収納符はダメになるけど」

碧がセキュリティゲートに触れて魔力(碧にとっては霊力だが)を込めながら言った。


「う〜ん、それじゃあ収納能力持ちが展示ケースごと盗んで裏口まで持って来た場合、運が良ければ収納から出てきちゃったケースが落ちる音で分かるかもだけど、そうじゃ無かったらダメって事?」

裏口で収納から出した展示ケースを持ち出そうとして昏倒するかもだが。


でも、展示ケースがどのくらい重いのか知らないが、台車の上にでも出されて押し出されたら昏睡結界に触れないまま出て行く事になってしまわないか?


「・・・床に固定している物って収納出来たっけ?」

碧がふと手を止めて考え込む。

あ、まず。

結界を展開するのを邪魔しちゃったか。


「ちょっと実験してみようか。

これって固定されてるよね」

碧がセキュリティゲートをグイグイと手で押す。


「いやいや、うっかり展示場全体に巡らせてるケーブルを収納しちゃったら戻すのが大変かもよ。

あそこの扉で試してみようよ」

慌てて碧を止める。

収納した物は出す時に同じ場所・形で出てくる訳では無い。

ケーブルを収納したら取り出した際に足元へドバッと出てきてしまうから、それをまたきっちり隠して巡らせる羽目になる職員さんが可哀想だ。


「おっと、そうだったね」

碧が部屋の入り口に近づき、扉に手を触れる。

「白龍さま、ちょっとご協力お願い出来ますか?」


『ネジごと欲しいのか?』

おっと。

白龍さまの質問からすると・・・選んで収納できる、つまり固定してあっても収納出来るようだ。

でも、白龍さまだから出来るのか、普通の術者でも慣れてれば出来るのか、不明だな。


「あ〜、出来そうですね。

やっぱいいです」

碧も同じ事に考えが及んだのか、諦めてセキュリティゲートの方に戻った。


「どうしたんだ?」

何やら私らが揉めていると報告が上がったのか、田端氏が戻ってきた。


「いやぁ、展示ケースごと収納されたらどうなるのかなぁって相談していたんです。

確かに時空結界を越える際に出てきますが、取り敢えず展示場で収納して持ち出して、裏口のそばで台車にでも乗せて運び出したらそのまま運び出せちゃうかも?と思って」

碧が応じる。


「展開ケースの周りにはモーションセンサーや圧力センサーやその他諸々のセンサーがあるから展示ケースそのものを収納したら警報が鳴る筈だ。

警報が鳴ったら建物全ての出口の非常シャッターが降りる事になっているから大丈夫だろう。

藤山さんに追加で結界を頼んでいるのはもしもの時の為の保険だと思ってくれていい」

肩を竦めながら低い声で田端氏が教えてくれた。


なるほど。

だけど、もしもの時の保険だったら隠蔽型の使い魔でも付けておけばいいのに。

それともそう言う使い魔の知識はこっちの世界では秘匿されているのかな?

考えてみたらある意味盗聴をやりたい放題になるから、出来る術者は公にはしないか。

特に警察に言うのはバカだよね。

捕まったら馬鹿らしいし、捕まらずに法律に引っ掛からない国家による監視手段にされたら更に面倒だし。


まあ、かなり手を掛けているんだし、盗まれても特に歴史がある訳でも無い単なる綺麗な石と金属の塊なんだ。

ここまで頑張っても盗まれたらしょうがないと言う事にしよう。


・・・何だったら、宝冠に触れたら暫くやたらと運が悪くなる呪詛でも掛けておくかなぁ?

もしかして誰かが毎日宝冠を磨くとかだったらその人が不幸になって可哀想だが。


セキュリティゲートの結界を張り終えて、昏睡結界を張る際にでも確認してみよう。






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