第163話 追跡調査(?)

和田氏が慌てて事務所に戻るのを眺めながら、携帯を取り出して名刺にある住所へ帰るのに掛かる時間を検索した。


私が家に帰るのよりも早いのだったら適当な漫画喫茶かカラオケ店の個室を借りて隠密型クルミからの情報を確認した方が良い。

電車の中とか街中で歩いている最中に別の視野と聴覚に集中するのは難しいからね。


クルミは指定した人間の後をつけるのは得意だが、事後にその場所へ私を案内するのはあまり得意ではないのだ。

案内は出来るのだが『どこ』かの把握が微妙なので、例えウチから電車で一本の場所だったとしても興信所の事務所まで戻ってそこからルートを辿る羽目になる。

事務所の人間が斑鳩颯人へ会いに行くならそれを自分の目で見て場所を確認したい。

視野の共有はリアルタイムじゃないと詳細がぼやけるから駅の名称とかが分かるか五分五分なのだ。


外で会われた場合、クルミに斑鳩颯人を尾行させるかは迷うが。

一応隠蔽の術は改造して前世ではなく今世の魔素濃度に合わせてあるので、見つかりにくい筈なんだけどね。

ただ、古くて歴史のある旧家だったら使い魔の侵入とかに対する警戒網みたいのがあっても不思議は無い。


お。

検索結果によると意外と遠い。

住所は港区なのだが、芝浦の方のちょっと不便な場所のようだ。

・・・あそこって港区だったんだ?

取り敢えず、これなら私の方が先に家に帰れそうだ。



家に帰ってソファに座り、クルミの視野を共有しながら待っていたら和田氏が事務所に辿り着いて上司に怒られ、私の言葉の録音を聞かせ始めた。


気が付かなかったけど、ICレコーダーで録音されてたんだ。

あっぶね〜。

迂闊な事をすると、記憶は干渉できてもレコーダーの記録と一致しなくて怪しまれる所だった。


文明の力って怖い。

斑鳩颯人を捕まえて精神干渉するにしても、動画を記録されたりしない場所でやらないと真剣にマジでやばそうだ。


そんな事を考えながら興信所でのやり取りを聞いていたら、上司らしき人がため息を吐いて斑鳩颯人へ電話を掛け始めた。

『斑鳩さん、

どうも調査対象だった長谷川さんはストーカー行為を警戒していたのか、うちの社員に気が付き、ストーカーとして警察へ突き出すと言われました』


電話の向こう側の声は聞こえない。

ちっ。

スピーカーにしてくれれば良いのに。

携帯電話だとスピーカーにした方が会話が楽な気がするが、オフィス用の普通な固定電話なので肩に挟んで通話している。


『警察沙汰にされると当社の信用にも関わりますので、ストーカーなどでは無く我々はちゃんと免許を交付された興信所で、斑鳩さんによる婚約前の素行調査依頼だとお話ししたところ、斑鳩さんとは殆ど話したことは無く、交際すらしていないと言われました。

勿論、ちょっとした喧嘩で相手の事を知らないとか、ストーカー行為をされて迷惑しているとか言い張る方もそれなりにいるので判断が難しいのですが、興信所がストーカー行為に加担するのは免許更新にも差し支えます。

ですから状況確認をさせていただきたいのですが、長谷川さんと一緒に外出ている場面の写真か何か、見せていただけますか?』

おっちゃんが穏やかに電話でお願いする。


なるほど、客観的に見てストーカー行為に加担していないと判断できる程度の証拠が必要なのね。

でもこれって付き合っていた彼氏や元夫がDV野郎で、女性が別れようとしている場合だとヤバくない?


付き合っていた時期の写真とかならあるだろう。

それとも本格的なストーカーって誰かを雇うんじゃなくって自分でやりたがるのかね?


まあ、元夫だったら対象者の情報を住民票(それとも本籍?)を見たら結婚履歴とか分かるだろうから騙されないのかな?

でも態々そんな情報を興信所が入手するか、怪しい気もするが。


それはさておき。

片側だけの会話を聞いていると、どうやら斑鳩颯人は我々の交際に関する証拠の提供を拒否したようだ。

っていうか、提供出来たら怖すぎる。


『そうですか。

では、この時点で契約解除とさせて頂きます。

現時点までに調べた結果は郵送しますので』

ちっ。

郵送かぁ。

届けに行ってくれれば良かったのに。

まあ、メールで送るって言うんじゃ無かっただけでもめっけものかな?

クルミの目を通して見続けていたら、和田氏が呼び出されて、報告書ととった写真とかを印刷して持ってこいと言われていた。


うげぇ。

写真まで撮ってるんだ。

まあ、当然と言えば当然だけど。

粘着された相手に私の写真が渡されると思うとなんか嫌な感じ・・・。


報告書なんて書くのに時間がかかると思っていたのだが、決まったフォーマットがあるらしく、和田氏がかちゃかちゃとPCに入力したらあっさり15分ぐらいで終わっていた。

早いな!!


『はい、これで良いですか?』

和田氏が渡した書類を捲って上司が確認する。


『写真はもう少しピンボケして遠距離から撮ったっぽいのにしろ。

下手に綺麗に撮れているのを渡して依頼人に大事にされたりしたら不味い』

写真が却下された。


おお〜。

事務所にとっての自己防衛のためだけど、助かった。


『これでどうでしょうか?』

引っ込んだと思ったらすぐに戻ってきた和田氏が別の写真を出してきた。

かなり写りが悪いんだけど・・・。


まあ、綺麗に写っているのじゃ無い方が良いよね。

これで興味が薄れてくれると嬉しいんだけど。


見守っていたら、上司が書類を大きな封筒に入れ、住所を書いて封をした。

よっしゃ!

斑鳩颯人の居場所がわかったぞ!






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