第164話 こっそり襲撃:準備

「私も行くよ。

女性一人で男性を動かすのって大変でしょ?

バットで後ろから殴って後で回復してもいいんだけど、血が服についたら面倒だから私が力を使って昏睡状態にするよ。

ふらっと倒れたら車のトランクにでも押し込んで、どっかに連れて行こう」

どうやって斑鳩颯人を捕まえて精神干渉するか考えていたら、碧が声を掛けてきた。


バットで殴るとか過激だなぁ。

確かにバットなら間違って即死って言うことはないし、碧が居ればくも膜下出血とかにならないように脳の血管とかへのダメージもさっさと治せるからリスクはあまり無いが・・・まあ、碧が力を使って昏睡状態に出来るなら一番無難だね。


才能持ちでも油断している相手なら昏睡状態に出来ることはこないだの呪師で証明していたたし。


「・・・お願いして良い?

興信所を雇ったことを抗議するって形で呼び出して薬を盛ろうかとも思ったんだけど、接触は出来るだけ少ない方がベターだからねぇ」

下手に斑鳩颯人の周辺の人間に怪しまれて私の能力を調べられるような事態になって欲しくない。


古くから代々能力持ちが生まれてきた旧家なのだ。

多少は遺伝的な偏りはあるものの、魔術の適性はかなりランダムなので長い歴史があればほぼ確実に黒魔術の適性持ちも生まれた筈だ。


となったら黒魔術の適性持ちの便利な使い方も知っている可能性は十分にある。

まあ、前世と違って魔術師(と言うか陰陽師かな)の知識の蓄積が少ないっぽいし、使える魔力も控えめだったから比較的単純なレベルで収まっていた可能性は高いが、それでも精神干渉とかは訓練なしでもゴリ押しでそれなりに出来てしまう。


便利な能力持ちが跡取り息子の執着相手だと知られたら、勝手に婚姻届を出されると言った強引な手段を取られかねない。


こちらで覚醒した後に、隷属魔術以外だったらどう言う手段で人を拘束出来るのか調べたのだが・・・なんと日本って勝手に婚姻届を出せちゃうのね!!

18歳になっていれば親の同意も必要ない。

実印登録しておけば大丈夫かと思ったのだが、調べてみたところそこら辺の百円ショップで売っている認印で良いと判明。

怖すぎる。

遺産相続の権利はまだしも、精神病院を抱き込んで私を精神障害者だと認証させれば、配偶者へ私に対する入院を含めた精神治療の監督権限が生じる。


つまりは精神病院と言う名称の場所さえあれば、『配偶者』は何処かに私を無期限に監禁出来る可能性があるのだ。

勿論そんな本人の合意なしに届け出された婚姻届なんて裁判所に訴え出れば無効にして貰えるが、旧家が相手だったらそう言う法的手続きもガッツリ時間が掛かって手遅れになりそうで怖い。

まあ、碧や両親がいるのだからそう簡単に話は進まないとは思うが、私が便利な能力持ちだと認識されないのが一番無難だろう。


その為には、斑鳩颯人がこれ以上暴走する前に軌道修正しなければ。


「じゃあ、取り敢えずレンタカーしてこの住所の近辺の駐車場で待機する?」

碧が立ち上がって言った。


「いやいや。

もうちょっとリサーチしようよ。

あの人の通るルートで、気絶した人間をトランクなり後部座席なりに押し込んでも注意を引かない程度に人通りが少ない場所を見つけて、その後に施術している間だけでも邪魔されない場所も見つけておかないと」

レンタカーでは後部座席のガラスが黒塗りになっているのなんて無いだろうから、迂闊に路駐して歩行者に私が近所の御坊ちゃまを連れ込んで何やらやっているのを目撃されては困る。


「ふむ。

取り敢えずは最寄駅からに帰宅ルートの確認と、周辺地域のリサーチだね」

碧が頷いた。


「う〜ん。

それこそ、私も興信所を雇って彼奴の日常の行動を確認して貰おうかなぁ・・・」

クルミを派遣して調べさせても良いが、ちょっと面倒そうだ。


「雇った興信所にとって斑鳩家がお得意様だったら不味くない?

旧家って取引相手とか交際相手とかを調べるのにそれなりに興信所を使っているよ?」

碧が嫌そうな顔をして教えてくれた。


マジか。

「もしかして、碧も『素行調査』されたの?」


「私の場合はお見合いモドキなパーティーとかディナーの前に調べられる事が多いね〜。

父親がなんか業界の人に知り合いが多いらしくて、ちょくちょく『依頼が入ったぞ〜』って連絡がくるんだ」

碧パパ、宮司に落ち着く前は一体どう言う人生を歩んで来たんだ?

随分と波瀾万丈っぽくない??


取り敢えず、知り合いだと情報がダダ漏れなのは分かった。


「しょうがない。

取り敢えず数日だけでもクルミを貼り付けて行動を観察させよう」

隠密型なら見つからないと期待しよう。







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