第162話 駄目かぁ・・・。

魔道具造りは成功した。

取り敢えず家を出てから午前中は自分の魔力で動かし、午後になってからは石英の魔力で動かしていたのだが・・・。

『クルミ。

左後ろの方にこちらへ注意を払っている人がいるんだけど、分かる?』


隠密型クルミの分体を後ろに飛ばし、尋ねる。

家を出てからずっと尾行されているっぽいんだよねぇ。

流石に退魔師としても働いている斑鳩颯人がウチらのマンションをずっと見張るほど暇じゃあ無いと思うから、興信所を雇ったんだと思うけど。


前払いしていて契約解除が面倒だったからそのままって可能性もあるが、私の家も大学も既に分かっているのだ。

これ以上何を調べたいって言うの??


『この人だにゃ』

クルミが念話で報告してきたので携帯が鳴ったかの様な素振りで携帯を取り出して耳に当てて立ち止まり、クルミの視野から尾行している人を確認する。

意外と若い。

20代前半ぐらいで学生に見えなくもない男性だ。


興信所って無害そうな中年女性が活躍するってどっかで読んだけど、あれは浮気調査に関してなのかな?

女子大生の行動範囲だったら新卒か留年した学生に見える若い男性の方が目立たないのかも。


とは言え。

どうすっかなぁ。


◆◆◆◆


カシャ。大学の授業が終わって帰る際にもまだいた興信所の社員(多分)の前に出てきて写真を撮り、声を掛ける。

「斑鳩颯人さんに雇われてるの?

ストーカー被害を警察に届けようと思っているんだけど、証言して貰えます?」


斑鳩颯人に精神干渉するにしても、興信所の人間とのやり取りで違和感を覚えられては困る。

まずは興信所に退場して貰わないと。

授業の合間にちょっとネットで調べたところ、興信所はストーカーの手伝いは基本的にしない建前らしい。


こっちがストーカー被害者だと言えば手を引く可能性が高いのではないかと思って声を掛けたのだが・・・どうも経験があまり無いらしき男性はフリーズしてしまった。


「・・・え???

これって婚約する前の素行調査ですよね??」


「先週、ちょっとした知り合いのパーティーで偶然隣に座り、5分程度話しただけの相手ですよ?

交際の話すら出てきていないし、付き纏うのをやめてくれと言ったら興信所を雇う様な相手と結婚する気は全くありませんが」

まあ、大学のスケジュールを知っていた様なので付き纏うのを止めろと言う前から興信所を雇っていた可能性はあるが。


興信所の探偵(だよね?)が頭を抱えた。

「マジか。

金持ちが良くやる婚約者の素行調査だって聞いたのに・・・」


「上司の人がどう理解していたのか確認しましょうか。

婚約する気は全くないので、『婚約前の素行調査』は成立しませんよ。

事務所の方に連れて行って下さい」

折角若いのが担当になったんだ。

ここは押して押して押しまくって、興信所の事務所まで連れて行かせよう。


「あ〜。

ちょっと上司に相談しますんで、待って下さい」

・・・残念ながら、押し切れなかった。

こう言う時に、直ぐに現地で連絡が取れてしまう文明のりきは不都合だ。


男性が携帯を取り出して上司らしき人に電話を掛けた。

「もしもし。

和田です。

調査対象者に、斑鳩颯人からのストーカー被害で警察に行くから証言しろって言われているんですが・・・」


何やら電話から怒鳴り声が漏れてくる。

素人の女子大生のバレるなんて何をやってる!って怒られてるんだろうなぁ。


まあ、魔道具があれば例え熟練のプロでも分かるけどさ。

普通の女子大生が熟練のプロによる尾行に気付いたらちょっと不自然なので、若いのが担当で良かったよ。

道端に立ち止まっている私たちに通行人が通りすがりに好奇の目を向けているが、特に継続して注意を向けている人間はいない。


まあ、新米(多分)探偵君も地味そうな顔つきだし、私も特に頑張って着飾っている訳じゃあないから、普通のどこにでもいるような知り合い2人組かカップルに見えるんだろうね。


「分かりました。

そう伝えます」

男性が電話を切ってこちらに向いた。


「取り敢えず、上司が依頼者に連絡して交際の事実確認が出来ない場合は契約解除するとの事です」

契約解除で話を誤魔化す気か。

警察へは流石に行きたくないようだ。

まあ、そうだろうねぇ。


「分かりました。

取り敢えず、警察に行く事になった際に証言が必要になるかも知れないので名刺を下さい」

逃げられたら見つけるのが面倒だ。

まあ、このまま興信所の様子を確認する為にクルミに尾行させるつもりだけど。


渋々と渡された名刺を手に取る。

『港ソルーションズ 和田 輝』

へぇぇ。

興信所って会社名に付いていないんだ。

コンサル会社みたいで、名刺を出しても引かれなくていいのかね?


「本人確認したいので、身分証明書も見せて頂けます?」

どっかで貰った他人の名刺を渡されたりしたのだったら困る。


嫌そうな顔をされたが、和田氏は車の免許証を出して見せてくれた。

ちゃんと名刺と同じ名前が書いてある。

さて。

興信所が契約解除されたタイミングで斑鳩颯人を見つけて精神干渉したいんだが・・・和田氏の上司が直接会いに行ってくれると助かるんだけど。


私は斑鳩颯人の住んでる場所を知らないんだよねぇ。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る