第161話 魔道具を作ってみよう
「何を作ってるの?」
リビングの横の工房スペースで工作をしている私に碧が声を掛けてきた。
「ちょっとした魔道具・・・になったら良いなって期待してる物。
魔石代わりに聖域で拾った石英を使う形に出来ないか試しているんだ。上手く機能するか不明だけど」
前世の魔道具は基本的に魔石を使うか、使用者の魔力を直接動力源としていた。
今世では魔石が無い。
しかも自身の魔力も前世ほど使い放題では無いので、私の魔力を直接動力源にすると下手をしたら魔力が枯渇して外で昏倒する羽目になりかね無い。
なのでちょっと変則的に聖域で拾った石英を魔石代わりに魔力源にして、それを充填して使えないか、試す事にしたのだ。
「おお〜。
成功したら、凄いじゃん!
名門の家宝クラスだよ。
何の魔道具を作るの?」
碧が身を乗り出して聞いてきた。
「指定した時間以上に誰かがこっちに注意を払っていると分かる魔道具。
昨日、大学の帰りに斑鳩の長男に待ち伏せされたじゃない?
私が彼を『斑鳩ではなくて個人として見ている』んじゃなくって、単に『彼にも彼の家にも興味が無いから素気なかった』だけだって説明したんだけど、上手くいかなかった時の場合に備えておこうと思って」
要は、ストーカー発見機である。
前世では無理やり気に入った相手を手に入れる事も付き纏う相手を消す事も、権力さえあれば可能だった。なので、好意の不均衡がストーカー事件にまで悪化することはほぼ無かった。
日本の警察と違って、物理的な被害がないからとか証拠がないからと言って何も出来ないなんて甘い世界では無かったのだ。
権力が関係しない一般市民の場合はもっと直接的に家族や友人が『説得』したし。
代わりに、貴族や貴族の側で活動する人間は理不尽な権力行使の被害に遭わないよう、厄介な相手に気に入られたらさっさと逃げるなり、相手が動く前により権力のある存在を隠れ蓑にする必要があった。
そこで活躍したのが、この魔道具である。
誰かにある程度以上注目されると教えてくれる。
元々は暗殺防止用に悪意や殺意を探知する魔道具だったらしいのだが、貴族が関係する場合は歪んだ好意も殺意以上に危険な場合がある。なので、注意を向けられたら分かる様に改造されたという話だ。
これを上手く作れたら、斑鳩颯人なり彼が雇った人間なりが私を観察していたら分かるので、対応策を講じる事が出来る。
と期待したい。
まずは魔石無しでもちゃんと機能する魔道具を作れるかが第一関門なんだけどね。
「へぇぇ、なんか成功したら便利そうな魔道具だね」
碧が手元を覗き込む。
符を作る際の魔力を込めた墨汁を板に染み込ませているところだ。
「まあねぇ。
とは言え、成功しても魔力を込められないと現実的には使えないから、あまり一般的に使い勝手は良くないけどね」
ストーカーが居る事を感知できる道具を大量生産出来たら世の中の女性の為にはかなり役に立つと思うのだが、現実では退魔師に毎日魔力(か霊力)を充填して貰えるだけの資金力を持った人間か、退魔師本人しか使えない。
流石に毎日退魔師を雇う金があったら普通にボディガードを雇っているだろう。
退魔師だって普通の人間に粘着されたらそれなりに対処法はあるしね。
同業者に粘着された退魔師にしか使い道が無いと考えると、あまり需要も無さそう。
「斑鳩氏はやっぱりストーカー化しそうなの?
白龍さまに追っ払って貰おうか?」
暫し手元の素材を見ていた碧が聞いてきた。
「う〜ん。
微妙?
上から目線で人に対応する癖に『斑鳩として扱われるのが嫌』だなんてアホじゃんって言ったから目が覚めた可能性もあるけど、拗らせるとか可愛さ余って憎さ百倍とかになる可能性もあるかもと思ってね。
本人とか興信所の人間に付き纏わられる様だったらどっかで薬でも嗅がせて精神干渉しちゃおうと思ってるんだけど、人口密度が高すぎる都心だと見張られているか感知するのは難しすぎるからね〜。
取り敢えず奥の手を使う必要があるかを知る為にこの魔道具を作れないか、試しているところなの。
・・・これで上手くいかなかったら白龍さまのヘルプを頼むかも」
御坊ちゃまだから付き纏われてもウザイだけで危険は無い可能性もゼロではないからねぇ。
白龍さまを差し向けるのはちょっと気が引ける。
まあ、いざとなったらガッツリやって貰うつもりだけど!
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