第160話 特別扱い
「やあ、久しぶり」
数日後、大学の授業から帰る私の前に現れたのは・・・今度は斑鳩氏本人だった。
いい加減にしてくれ。
最近はチャットアプリも『依頼が入っている時以外は見ないので』と断って彼からのメッセージは未読のままに放置しているのに。
大学に現れるなんて、これってもうストーカー予備軍って言ってもよくね??
「何の用ですか」
思わずため息を吐きながら足を止める。
率直に話し合って粘着をやめて貰えるならそれがベストだ。
「何で連絡を返してくれないんだ??」
軽く咎めるような声音で言われた。
「はっきり言って、斑鳩さんは出席がほぼ強制であるディナーに参加した際に偶然隣に座っていただけの人で、殆ど話していませんし、趣味が合うとも感じなかった相手です。
仕事で使うかもと言われたから連絡先を教えただけなんです。
仕事に入っていない時はアプリを見ないのは当然でしょう?」
かなり失礼かも知れないが、はっきりノーという意思を伝えないと終わらない。
第一、単なる赤の他人と意味のない雑談チャットを毎日する暇があったら源之助とでも遊んでるよ。
「殆ど話していないのだから、趣味が合わないかどうかなんて分からないじゃないか。
私にも倉橋と同じように親しくなるチャンスをくれ」
こちらの手を掴もうとしたのか右手を伸ばしてきたので、さりげなく一歩下がって避ける。
接触する事で効果を発揮するスキル持ちもいるからね。
斑鳩氏がそっち系のスキルを持っているとは思わないが、用心しておくに越したことは無いし、どちらにせよストーカーっぽい男に触れられるなんて御免だ。
「少し話して、合わないと思ったからそれ以上会話を続けようとしなかったんです。
逆に、どうして隣に座っただけの私にこうも時間を掛けるんです??」
「君は他の連中と違う」
ちょっとキザっぽく前髪をかきあげながら斑鳩氏が答える。
「違う?」
人間なんて千差万別だろうに。
こう言う事を言う人に限って勝手に周囲の人間を大雑把に分類化して、『個人』として見ていないんだけどね〜。
「誰も彼も、私の事を『斑鳩家の跡取り』として見る。
『斑鳩』ではなく、『颯人』として特別扱いせずに私を見てくれたのは君だけなんだ!」
ドラマチックに手を広げながら斑鳩氏が言い放った。
なんかこう、出来の悪いラノベのざまあ短編の一幕を演じているような感じだね。
「人が貴方のことを『斑鳩』として接するのは、貴方が『斑鳩家の人間』として上から目線な言動を取るからでしょう?
『斑鳩』として初対面の人間にも『自分を優先して当然』とした態度を取るから、『斑鳩として対応しないと報復される』と思って他の方々も相応な態度をとっているのだと思いますよ?」
いるんだよね〜。
『家のことは無視して普通の新人として扱って欲しい』とか言っている癖に、他の新人と同じように雑務をやらせると文句を言う奴。
まあ、雑務をやらされるのにびっくりするだけの人間と、親に『自分の実力を発揮させて貰えない』と文句を言う人間とで違いはあるけど。
雑務をしっかりやらないと引き継ぎとか記録とか整理整頓がちゃんと出来ないのに、何故かそれをやるのは自分以外であるべきだと思っている御坊ちゃまは本当に多かった。
「上から目線だなんて・・・」
心外そうに斑鳩氏が呟く。
「常識的な人だったら、自分と対等な人が会話をしているところに割り込んだりしませんよね?
私が倉橋さんや綾川さんと話している時に割り込んできたのって、要は我々の会話は自分の興味よりも重要性が低いと判断したからでしょう?
それで『斑鳩として扱われない』と嘆かれても、他の人は困りますよ」
と言うか、あの時にそっけなく対応したから粘着されてるの??
「だが・・・」
少しは思い当たる節があったのか、斑鳩氏の勢いが減ったのでここでダメ押しをする。
「私に興味を感じたのは単にそっけない対応が珍しかっただけでしょう。
背景が違いすぎて気が合う訳もないですから、もう放っておいて下さい」
魔力を仄かに込めてお願いする。
黒魔術の適性が無ければ弱めの精神干渉だったら気付かない事も多い。
願わくはこれが『気付かないけど効果が多少がある』というちょうどいい塩梅だと期待したいね。
これでダメだったらどっかに呼び出して、薬を盛って眠らせた隙に精神に干渉して私への執着を消す事も考えよう。
流石に記憶を消したら周囲との言動で違和感を覚えるだろうが、まだ知り合ってからの時間が短いので私との記憶を確認して執着する原因になった記憶を消し、感情的な反応部分も修正すれば執着を忘れてくれると思うんだが。
突然行動が変わると怪しまれるかも知れないから最後の手段なんだけどねぇ。
周囲が魔術の存在を知っている環境の人だから、下手に手を出すと人の精神に干渉出来る事がバレる。
マジでほんと、これでもう止めてくれないかなぁ・・・。
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