第137話 また悪評?!

「危険物なんでダメだってさ」

何やら電話で話していた碧が戻ってきて言った。


どうやら既に紙人形は退魔協会に渡されていたようだ。

「こう言う時は動きが早いね。

ちなみにオリエンテーション研修で呪詛関係について習った覚えがないけど、呪詛関連は特別研修でも別にあるの?」


碧が肩を竦めながらリビングのローテーブルに置いてあったおかきの箱に手を伸ばした。

「基本的に、退魔協会は協会側の権利とか手数料に関する話以外は聞かなきゃ教えてくれないね。聞けば教えてくれるけど。

常識的に考えて人を傷つける術が許される訳は無いだろうって言うのが呪詛に関する協会のスタンスだけど、実際のところは昔から続く旧家やそこに弟子入りした術師以外が恥をかいたりやらかして協会に借りを作る羽目になったら良いな〜って下心を持っているんだろうって言うのがウチの母親の意見」


「うわ、ありそう!」

まあ、呪詛なんぞ教わらなければそう簡単に独学で出来る様にはならないから、基本的に誰かに教わった人間しか使えない筈だが。


「でも、それを考えると呪詛返しだって教わらなければ転嫁とかの罠が仕組まれているのは上手く対処できないんじゃない?」

そう考えると、呪詛返しの依頼を出せる相手が減るから研修とかして退魔師の腕を上げる方が良いだろうに。


「以前は普通に返せば良いだけだったから、呪詛返しで苦しむのは自業自得って事で返すだけの力がある人に適当に仕事を割り振っていたんだよねぇ。

最近になって変に転嫁する呪詛が増えてちょっと困ってはいるみたい?

呪詛返しの転嫁に対処するのって習えば誰でも出来るようになる訳でも無いし」

碧がおかきの袋を開けて口に放り込む。

碧の実家から送られて来たやつなんだけど、これって食べ始めると止まらなくなるんだよねぇ。


「前世では単なる呪詛返しじゃなくて転嫁の罠を外して元の術者に返すのは黒魔導師じゃないと無理だったけど、今世でも実質同じなのかな?」

日本人って職人肌な人間が多いし、陰陽師なんかはイメージ的に呪詛とか呪詛返しとかって沢山やってそうなイメージがあったが、やはり研究でなんとかなる問題では無いのかな?


もしかしたら、呪詛返しの転嫁が出来るのも黒魔導師クラスだけなのかも。

・・・だとすると、今世でも少数の悪人が黒魔術の悪評を積み立てそうで嫌なんだけど!!


「そうかも?

現時点では、退魔協会は一流のプロに金を払って呪詛を掛けらる敵が居そうな政治家や富裕層の時はそう言う転嫁にも対処できる人間を送り込んで、そうじゃ無い時に転嫁があったら不幸な事故だったで済ませているみたい」

碧が溜め息を吐いた。


「呪詛返しを受けて退魔協会に浄化の依頼をしてくる事ってそれなりにあるの?」

呪詛も呪詛返しも、それこそ複数の命でも掛けてない限りそう直ぐに死んだりはしないので、具合が悪くなってすぐに退魔協会に依頼を出せば助かる事が多い筈。


とは言え、呪詛をかけて返された場合って気まずく無いかね?

返したのって多分退魔協会の人間だろうし。

まあ、神社でのお祓いで返される事もあるんだろうが。


「呪詛返しは2度目の場合は通報義務が退魔協会にもあるからねぇ。

だから呪詛を掛けて返された人は他に頼もうと色々足掻くことが多いみたいだけど、最近は心当たりがない呪詛返しを受けて呪詛だと思って退魔協会に返しの依頼をして、呪詛返し狙いの罠だったり、知らない間に呪詛に加担させられて転嫁されていたといったりのケースが増えているみたい」

碧が教えてくれた。


通報義務ですかぁ。

アメリカでは銃傷の治療をした場合は病院側に通報義務があるらしいが、言うならば呪詛返しも銃傷と同じ扱いなのか。


「呪詛なんて無くなれば良いのにね」

前世では、呪詛は理不尽な権力者への最後の抗議手段だった。だからあれだけ強固な階級社会では必要悪だった面もあったと思う。

でも日本だったら命を掛けてまで抗議する必要は無いだろうに。


まあ、悪事が権力や金の力によって握り潰される事はそれなりにあるだろうが、ネットとかで情報を拡散する手段が増えて一般市民の反撃手段も増えた。


代わりにネットの匿名性を利用した嫌がらせとか粘着アタックの問題はある様だが。

考えてみたら、ああ言う匿名書き込みでの嫌がらせをやる相手を呪う手段ってあるのかね?


呪えるんだったら、相手を特定して匿名性を奪い取る様な対処も可能じゃないかね?

そう言うサービスにも需要がありそう。

現時点では私には出来ないけど。

マジで魔術って現世の危険に対応できて無いよなぁ。









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