第138話 回ってきたかぁ
「そうなんですか。
それは・・・可能かも知れませんが、絶対ではありませんよ?
はい。
分かりました」
『お嬢様』の呪詛返しを浄化した翌週の月曜日に、朝食を食べようとしていたら電話が掛かってきた。
まだ9時前である。
ある意味、ビジネスの電話としては非常識な時間帯じゃないの??
事務所を借りていたら、それこそ出社していても掃除やお茶の準備に集中して電話が鳴っても留守電に答えさせる時間帯だ。
家に掛かってくるのでそうもいかないが。
留守電に直接掛かるようにはなっているのだが、退魔協会の職員の人も碧の家だと分かっているので『藤山さん、出て下さい。退魔協会の鈴木です。
藤山さん、急ぐんです!!』と粘るのだ。
退魔って場合によっては生死にかかわる緊急な場合もあるから電話の音をミュートに出来ないんだよねぇ。
それに碧だと空港のセキュリティチェックの場所での術の掛け直し依頼が緊急で来ることがあるし。
あれはマジで国の依頼なんで、家にいるのに電話に答えないとドアの所までそこそこ偉い役人さんが来てしまうらしい。
携帯電話ってGPSを切っていても国家権力があると携帯会社経由で家に居るかどうかぐらいは電源が入っていると分かるんだって。
何でも前のマンションに引っ越して直ぐの頃に、留守電の設定を間違えていて鳴っているのに気付かず、携帯も前の晩にバイブにして鞄の中に入れたまま放置していたら、朝早くからインターフォンが鳴って黒服っぽい背広を着た男性が2人いて焦ったと言っていた。
「なんかゴリ押しっぽい雰囲気だったね?」
電話を切った碧に声を掛ける。
「こないだの呪詛返しの罠。
退魔協会が送った人は上手く追えなかったんだって。
『出来るかも知れないって言っていたこないだの二人組に頼みたい』って母親が圧力かけて来たらしい」
おや?
ターゲットは父親じゃなくて母親だったの?
それとも単に母親が押しが強いだけなのかな。
とは言え。
「退魔協会の人が失敗したのに私がやっちゃったら悪目立ちしない?」
今世では出来るだけ目立たず、平凡に平和な生涯を楽しみたいんだが。
「私と組んでる時点で多少は悪目立ちしてるよ。
追跡そのものは白龍さまが手を貸してくれた事にすれば良いんじゃない?
退魔協会の方は元々そのつもりだろうし」
碧が肩を竦めながら答えた。
「そんな無茶な。
碧にちょっかいを出したって言うならまだしも、赤の他人に対して使ったあんな微かな魔力を氏神さまが追えるとは思えないけど」
幻獣は言うならば戦闘機とか大陸間ミサイルの様な存在なのだ。
微風で飛ばされちゃう様な紙を一枚だけ破く様な細かい作業には向かない。
2000年近くあちこちの氏神さまとそれなりに付き合いがあっただろうに、退魔協会はそんな事も知らないの??
「基本的に神様は気紛れだからね。
何かを『やってくれない』のか『出来ない』のか、退魔協会は分かってないんだと思う。
まあ、愛し子側にしても、氏神さま達が何を嫌がるかイマイチわかってないし」
タブレットをチラリと見てから、朝食を先に済ますことにしたらしき碧がパンをトースターに突っ込みながら碧が言った。
なるほど。
魔力が薄いこの世界だと、氏神として残っている幻獣の数も少なくて情報の蓄積もあまりないのかな?
「まあ、出来なくても罰金とかが無いならやっても良いけど。
ちなみに、術師を拘束するのもウチら・・・と言うか『白龍さま』がやるの?」
相手を見つけて電話するだけでは逃げられる可能性が高い。
術師を相手に普通の人間が拘束に動いても被害者が増えるだけだ。
かと言って、日本では幾ら富裕層が依頼主でも場所を知らせたら遠距離狙撃で相手を殺すなんて事は無いだろう。
「白龍さまに電撃でも食らわせてもらって拘束したところで電話かな?
退魔協会の荒事担当の人に同行されても困るでしょ?」
「困るね。
じゃあ、レンタカーして経費でそれを請求できるかな?
基本的に方向と大まかな距離が何となく分かる程度だから、電車での移動だと厳しいと思う」
前世で呪詛を掛けた人間を返さずに追う場合には馬で何日も移動することがあった。
転移陣は都市間の移動にしか使えないから、中途半端に遠い場合はかなり移動に時間がかかったんだよねぇ。
「うげぇ。
都内で車を運転するのってあまり好きじゃないんだけどねぇ。
退魔協会の運転手付き車じゃあ不味いから、しょうがないか」
溜め息を吐きながら碧が言った。
つうか、考えてみたら今日は大学の授業があるんだけど。
碧も必須科目の授業があったよね??
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