第136話 『一般市民』と『専門家』
「そう言えば、呪詛の依頼を受けるとか、呪符を作るのって法的な扱いはどうなの?」
帰りの車の中では源之助の話で時間を潰し、家に帰った瞬間に碧へ尋ねた。
退魔協会が態々我々の会話を盗聴する可能性は低いとは思うが、無駄にリスクを取る必要はない。
まあ、業界に詳しい人間なら知っている一般常識的な内容だし。
「どっちも退魔師がやる分には違法だよ。
なんと言っても呪詛の対象って普通の手段では手が届かない権力者が多いからね〜。
権力者同士でお互いに殺し合うのも不毛だし、一般市民が有り金叩いて呪詛を掛けるよう依頼したりしても困るしって事で明治維新の後、かなり早い段階で規制を全会一致で決めたらしいね」
碧があっさり答えた。
なるほど。
「ちなみに、一般市民が誰かを呪うのは?」
呪詛そのものが違法なのだったら呪詛返しを受けた人を助けるのも違法だったりしないよね??
「一般市民の場合は『単なる悪戯だと思っていた』って言い訳が使えるからね〜。
『専門知識を持っていて実効性があると分かっていて当然と見做される』立場の『専門家』以外だったら最初の一回は余程悪質じゃ無い限り、注意だけで済むよ。
まあ、誰か殺したら過失致死罪にはなるけど」
なんか、一般市民と専門家の扱いの違いが凄いなぁ。
一般市民だったら殆ど何をやっても規制ないのに退魔師だとダメとしたら、態と退魔協会に登録せずに色々やるのが一番儲かりそう。
普通の詐欺師との違いが分からないからまともな客を見つけるのは難しそうだけど。
いや、呪詛なんてまともな客なんて最初から期待していないか。
「ふうん。
じゃあ、今回みたいに呪詛返し狙いの行動はどちら側も違法行為とはならない訳?」
呪詛を掛けるのを繰り返したら『分かっていて人を害する呪いを掛けた』と言う事で暴行罪なり殺人未遂なりで起訴されるとしたら、やるつもりもなく一回きり、しかも『本性がバレればいいのに』としか願わなかった依頼主の『お嬢様』は問題なく無罪だろう。
呪詛返し狙いで仕掛けた職場の女性は悪質な確信犯だと思うが、名目上は被害者扱いだし、呪詛返し狙いを暴行罪とするにしても過去に同じ事をやって捕まっていない限り『悪戯』で終わりになりそうだ。
「法律上はね。
まあ、被害者の親が社会的制裁を加えようとするだろうけど・・・プロだったら金を貰って姿を消すんじゃないかな?」
なにそれ。
「職場のイジメを主導するプロなんているの???」
「いや、それはいないと思うけど、呪詛返しを狙う被害が出ているって言ったでしょ?
あの紙人形を発動させる様にターゲットを精神的に痛めつけるのを請け負っている人がいるらしいよ」
退魔協会からの封筒から何やらプリントアウトを取り出してこちらに渡しながら碧が言った。
おお〜。
退魔協会から注意喚起のお知らせがきてたのか。
事務所に来たメールのお知らせは目を通しているけど、封筒はDMだと思って無視してた。
「退魔協会って全部メールで連絡してコピーを郵送しているんじゃなかったの??」
「注意喚起とかはプリントアウトだけだね〜。
態と若い世代が読まないで恥をかくよう、お偉いさんの誰かがやっているんじゃないかと思う。
だから私はしっかり全部端から端まで目を通す様にしてるの」
う〜ん。
なんかもう、藤山家と退魔協会って実質交戦状態に近くない?
少なくとも藤山家側は退魔協会を全然信頼してないよね。
何か過去にやられてるのかね?
「そう言えばさ、『本性がバレればいいのに』程度の呪詛を返されただけで何であの『お嬢様』はあんなに瀕死状態になっていたのかな?」
碧がふと聞いてきた。
「あの呪符は何を願おうと、人に害を為せるぐらいの生命力を使う様に最初から設定されていたから。
今まで無駄に生命力を使わせて大したことのない願いを成就させる呪いなんて見たことが無かったから気が付かなかったけど、呪詛の返しって願った内容ではなく使った生命力に依存するんだね。
あの呪符がお粗末だから最初から定量の生命力を使う形になっていたのか、呪詛返しのダメージを大きくする為に態と生命力を沢山使うように設定されていたのかは不明だけど、どちらにせよタチの悪い呪符だよ」
考えてみたら、あの呪符は態と呪いの発現に時間が掛かるように設定されていた。
呪詛が完成する前に呪詛返しを出来る様になのだろう。
そう考えると、見た目はお粗末な呪符っぽくされていたが、実はあの呪符はかなり精密に作られていたのかも知れない。
追跡に必要な情報を得るのに集中していたのでそこまではっきりとは覚えていないが、あんな悪烈な手段を思いつく様な術師だったら普通の呪詛でも嫌らしい罠とか転嫁を仕込みそうだ。
将来行き当たった時に直ぐわかる様、もっと特徴をしっかり調べておくべきだったな。
「将来同じ術師の呪詛や呪符に当たった時の為に、もう一度あの紙人形を調べさせて貰えないかなぁ?」
「中田さんの連絡先を貰っておいたから、聞いてみようか?
もう退魔協会に渡しちゃっている可能性も高いけど」
碧が携帯を取り出しながら応じた。
「退魔協会はああ言うのを今後の参考の為にメンバーに見せたりはしないの?」
「する訳ないじゃん」
ですか。
「じゃあ、ダメ元で一応聞いてみて」
・・・考えてみたら、何で呪詛関連の規制とかをオリエンテーション研修で教わらなかったんだろ?
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