呪詛返し
第131話 呪詛返し
「凛って黒魔術師として前世で色々と専門的な教育を受けたって言ってたけど、呪詛返しに関してはどの位出来るの?」
大学から帰ってきたら、タブレットを難しい顔で睨んでいた碧が聞いてきた。
「まあ、それなりに?
私の上司やその上は恨みを買いまくっていたから、ちょっとした金で雇える裏社会からの呪い程度なのから複数の命を使った恨み満載な呪詛まで、色々とあったね」
王族の横暴に抗議したせいで王都にいた一族全員が冤罪で捕らえられ、男は鉱山奴隷、女子供は娼館送りになった一件などでは何とか逃げ延びた一族の残りが自分達全員の命を使った大掛かりな呪詛を掛けてきた。
折角捕まらずに逃げられたのだから他の国で新しい生活を始めるなり、奴隷に落とされた一族を救うなりすればいいのにとも思ったが、奴隷化された際の隷属魔術を解けるフリーな人間を見つけられなかったのかも知れない。
王宮で働く一流の黒魔導師が掛ける対象者の命と連動した隷属魔術を解除できるフリーな人間なんて大陸に数人居るか居ないかというレベルだったから、自分達の命を使った呪詛を請負う人間を見つける方が現実的ではあったのだろう。
幸いにも私が呪詛の解除を命じられたのは最初の横暴な行為をやったロクデナシとその男を庇った父親が死んだ後だったので、呪詛に費やした命も無駄では無かったと思いたい。
ちなみにこの呪詛は発動する為に命を使っていたので呪詛返しの転嫁とかは無かったが、白魔術師と黒魔術師が協力して解除しないと使い切らなかった生命と魂のエネルギーが凝って再度呪詛になると言う捨て身で殺意満載なシロモノだった。
「最近の呪詛って返された場合に第三者へ返しを負わせる嫌らしい術が多くなってきたんだけど、それってなんとか出来る?」
溜め息を吐きながら碧がタブレットを見せてくれた。
退魔協会から呪詛返しの依頼だった。
場所は都内なので近いから、普通の悪霊祓いなら問題なく受ける案件だが・・・呪詛返しは場合によっては関係ない第三者に被害が飛ぶ可能性があるので碧としては躊躇しているのだろう。
「う〜ん。
多分何とかなると思うけど、呪詛を実際に見てみないと100%確実には分からないなぁ。
ちなみに一旦受けてから『無理そうです』って途中辞退したらどうなるの?」
出来ないものは出来ないんだから辞退そのものは出来るだろうが、罰金とかその他ペナルティが付くのは困る。
協会のオリエンテーション研修では『基本的に途中辞退は推奨されない』としか言われなかったのだが。
『術者の能力に応じて案件を振り分けているので基本的に出来る筈だろうから選り好みせずに頑張れ』っぽいニュアンスを匂わせられただけで、罰則規定があるとは言っていなかったんだよね。
「まあ、無理なのを強いて状況が悪化したら困るからね。
一応辞退しても罰則規定は無いよ。
やってみて失敗しても名目上は罰則規定は無いけど、協会内部でのランク評価的にはマイナス査定になる。
辞退は最終的に成功した人から案件の難しさの評価を改めて聞いて、実は簡単だったと言われた場合は辞退した人の評価を下げてるね」
結局、辞退も失敗もマイナス査定になる可能性がそれなりに高い訳??
「それってランク査定を重視するなら、難しそうな案件は全部最初から断るのが最適解って事にならない?」
碧が肩を竦めた。
「断ってばかりじゃあランクが上がらないしお金も入らないからね〜。
それに、退魔師はどちらかと言うと自信過剰なタイプが多いから」
成る程。
断られるよりも、出来もしない依頼を受けられちゃうケースの方が多いのか。
「協会にとって私は初心者扱いなんでしょ?
これって碧用の依頼なんじゃないの?」
下手に私が手を出すと協会が嫌がりそうだが。
「『快適生活ラボ』への依頼だから。
まあ、実際のところは協会としては私に力技で呪詛を浄化して貰いたいんじゃないかな?
でも力技って込めた霊力で即座に浄化出来ない場合は呪詛返しの転嫁が起きちゃうからやりたくないんだよねぇ」
碧が顔を顰めた。
そっかぁ。
白魔術師だったら呪詛を返すのでなく浄化出来るのか。
ただし呪詛が失敗する際の呪詛返しは自動的に起きるので、その返しの転嫁を防げるかは時間との闘いになる、と。
「どうせ碧は本当の実力より低いランクでこき使われているんだし、私は初心者でランクが下がりようが無いだろうから、取り敢えず受けて実際に呪詛を見てみようよ。
返すのがやばそうだったらその場で辞退すれば良い」
罰金が掛かるなら呪詛系依頼は全部断っても良いと思うが、ランクへの影響のみなら受けて辞退で良いだろう。
幸いクルミの報告では瀬川は極端にとんでもない事はやっていないみたいだが、まだ暫くはあまり遠方には行かない方が無難だと思うので、東京の依頼だったらそこら辺も安心だし。
それに、今世の人間が掛けた呪詛を実際に見て、こちらの世界での呪詛技術のレベル評価をしておきたい。
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