第132話 黒塗りガラス
依頼を受けた私たちは、対象者が今にも死にそうだから出来る限り急いで欲しいと言う依頼主の要請により、翌日の朝に迎えに来た車で相手の所へと向かっていた。
「なんかこれ、被害者を見て『無理です』って辞退できない気がしてきた・・・」
黒い車のガラスを見ながら碧に低い声で囁く。
映画なんかで見かける、偉い政治家とかセレブリティーとかが乗っているリムジンに外からだとガラスが黒光りして中が見えないプライバシーガラスを使っていると言うのは珍しくはないと思うが、乗っている人が外を見えないような黒塗りガラスの車ってあまり聞かないよね??
まるで目隠ししてヤバい所に連れていかれるようで、怖いんだけど。
「呪われるのって基本的に誰かに恨まれるような事をやったからでしょ?
だから自分の素性を知られたくないって依頼主は多いんだ。
これはそう言う依頼主の為に退魔協会が用意した車だから、そこまで心配しなくても大丈夫だよ?」
あっけらかんと碧が普通の声で教えてくれた。
成る程。
家の所在地さえが特定出来なければ、後は執事なり使用人なり、それらが居ないなら退魔協会の職員なりに退魔師の対応をさせれば正体不明なまま呪詛返しも出来る。
契約魔術による制約が無い(か、あまりメジャーじゃ無い)現世だったら単なる紙切れでしか無い守秘義務契約よりも、こう言う手段の方が確実なんだろうね。
流石に被害者本人とは会う事になるが、呪われているとやつれて人相が変わるから本人だと分かりにくいだろう。
第一、人の恨みを買うような政治家とか事業家などはそれなりに自己防衛をしているので、意外と呪われるのって周囲の家族が多いんだよね。
ふと、携帯を取り出して確認してみたら、データ通信がオフになっていた。
試しに普段はオフにしているGPSをオンにしてみたが、暫く待っても『現在地が不明です』と出てくる。
「流石に慣れてるだけあって、GPSも通じない様になってるね。
まあ、正体を知られたからには口を封じる!なんて言われるよりは良いけど」
「ウチの父親の話だと、呪詛系は意外とリピート客が多いらしいからね〜。
うっかり術者を害して退魔協会のブラックリストに載せられたりしたら命に関わりかねないから大丈夫だよ」
碧が笑った。
どうやら碧パパも呪詛返しにそれなりに呼ばれたようだ。
まあ、普通に返すだけなら白魔術師は黒魔術師と同じぐらい向いているからね。
呪詛返しを第三者に転嫁するような嫌らしいのだと、術をしっかり読み解いて解除できる黒魔術師の方が無難だけど。
・・・考えてみたら、碧パパって白魔術師なのかな?魔術適性に関して聞いてない気がする。
それはさておき。
白魔術師は力技の浄化だから、解除側と呪った側の相対的な魔力差が足りないと浄化し切れる前に返しの転嫁が起きちゃうんだよねぇ。
ちなみに元素系の魔術師だと呪詛返しは出来るけど転嫁を止めるのは無理。
少なくとも前世ではそうだった。
こちらの陰陽道とかだったら違う技術があって出来るのかもだけど。
碧や碧パパが見た呪詛についてもっと話を聞きたい所だったが、盗聴されていたりしたら守秘義務違反になりそうな気もしないでも無かったのでその後は源之助の話をしながら時間を過ごした。
「なんかさぁ、源之助って何でああも元気なんだろう??
可愛いんだけど最近普通のおもちゃを振るだけじゃあ物足りないらしくって、要求が多すぎて大変になってきた」
碧がため息をつく。
「まだウチらなんてシロちゃんがいるだけマシでしょう。
走り回って起きている間はずっと構えと要求してくる子猫の相手を一人でやる羽目になったら大変でだろうね。
ある意味、母親が育児ノイローゼのなるのも納得したよ、私は」
まあ、子供が走り回るようになる頃には言葉も通じるようになっているのかも知れないが・・・子供って1歳ぐらいでハイハイするし、4歳では普通に走る。
だけど1歳じゃあ当然会話能力なんて無いし、4歳になっても必ずしも言い聞かせたら納得する訳でも、我慢してくれる訳でも、前日に言われた事を覚えている訳でも無いのだ。(多分)
大変すぎるだろう。
寒村時代は生きるのに必死だったし、村の子供は全員集めて足腰の弱った年寄りとかもう少し年上の子供達に面倒を頼んでいたから、あまり一人で育児に苦労した記憶は無かった。
飢え死にする事が殆ど無くなった現代社会だと、生存へのサポートがそれ程必要無くなったせいで母親への社会的サポートも減って、代わりに精神的ストレスがグッと増えている気がする。
少なくとも猫だったらどっかの部屋に暫く閉じ込めておいても虐待だ!とは非難されない。
それに、子供はある意味いつまで経っても生意気で手が掛かるが、猫は1歳半ぐらいで落ち着くらしいし。
まあ、それはさておき。
源之助は相変わらず可愛い。
源之助の悪戯やおバカな行動について笑っている間に目的地に着いたのか、車が止まって運転手が降りた音がし、碧の側の扉が外から開かれた。
「ようこそ。
お忙しいところ、早急なご対応をして頂き、ありがとうございます」
中年ぐらいの女性が車の外に立って待っていた。
おや。
これは執事ではなく、家政婦ってやつ??
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