第130話 才能の方向性
「そう言えばさ、魔眼って封じられたり、持ち主が死んだりしたら影響を受けていた人はどうなるの?」
夕食のパスタを取り分けながら碧が聞いてきた。
「基本的に徐々に薄れていく感じ?
黒魔術師とかに頼めば直ぐに洗脳を解けるけど、子供の頃から刷り込まれたなんて言う様なケースじゃ無い限り、他者の介入が無くても数週間から数ヶ月程度で精神が忘却して打ち消すみたいね」
瀬川は口に出して命じていたが、元々魔眼と言うのは意思を直接相手の精神に押し込む能力なので口に出す必要はない。
だから瀬川の口に出さない希望も周りの人間は叶えてきていた。
ただまあ、ちゃんと訓練をしていない場合は魔眼の持ち主本人も言葉にすることで自分が何を求めているのかをよりはっきり自覚して魔眼の効果を強く出来るので、野良魔眼持ちの場合は口に出すケースが多い。
どちらにせよ、命じられた側はこのように口に出さない意思も言われた言葉と同じように時間の経過と共に忘れていく。
ある意味、魔力で無理やり被害者の精神へ彫り込こまれた魔眼持ちの意思が、時間の経過と共に癒されて消えていくと言った感じか。
だから精神に干渉できる黒魔術師がこの彫られた意思を解消しない事には魔眼持ちが死んでも即座に洗脳状態が解ける訳ではないのだ。
なので魔眼持ちが軍や国の上層部を洗脳して始めた戦争なんかは、本人が死んでも終戦にはならなかったんだよねぇ。
本当に、迷惑。
「じゃあ、凛に声を掛けてきた魔眼を使われたクラスメートも洗脳されたまま?」
フォークにスパゲティを巻き取りながら碧が確認する。
「・・・そうだねぇ。
そんでもって急に洗脳が解けちゃったら不自然だから、そのまま放置かな」
瀬川には、私を部室に連れ込もうとした途中で知り合いに会った私が緊急の用事で呼び出されて別れ、ムカつきながら部室に荷物を取りに行こうとして転けて頭を打ったと言う記憶を埋め込んである。
頭を打ったせいで魔眼が使えなくなったのでは?と言う考えもついでに潜在意識に入れておいたので、魔眼があると信じきって痛々しい失敗はしないと期待したい。
瀬川がどれだけの人間に魔眼を使ったか分からないので全員解除して回ると言うのは無理だ。
周囲の人間の洗脳が解けていないのに、近藤さんだけ解けていたら私が疑われる可能性もゼロではない。
能力を封じられた事に関して『殺してやる!』と逆恨みされても困るので、私の関与は出来る限り知られない様にしたい。
まあ、軽い気持ちで引っ掛けただけの私が自分の能力を封じたり、洗脳状態を解除したりする能力があるなんて夢にも思わない可能性の方が高いとは思うけどね。
「魔眼の洗脳状態が時間の経緯と共に薄れるってその瀬川とやらは知っているのかな?」
「どうだろうね?
自分の能力について研究していたら知っているかもだけど、色々試したのだとしたらかなり昔なのか、アクセスした記憶の中にその情報は見当たらなかったから知らない可能性もあるね」
そう考えると、子供の頃に親戚の誰かに魔眼の使い方を教わっていたのに、私が見た部分の記憶にそれが無かっただけの可能性もあるか。
う〜ん。
これからもずっと3年おきぐらいに子供に遺伝していないかチェックするべきかなあ・・・。
なんかもう、面倒すぎる。
「碧って遺伝子操作って出来ないの〜?
こう言う才能を遺伝できないように操作出来たら良いのに」
考えてみたら、水城さんだって娘さんはまともだったから子供が出来ないようにはしなかったが、子孫にあの魅了の才能が現れる可能性はそれなりにある。
本人に罪がないのに子供が出来ない様にするのは可哀想だけど、魅了の才能も危険なんだよなぁ。
何と言っても水城家は先祖代々いかに魅了の才能が悪用出来るかを証明し続けてきた家系だし。
正に、遺伝子操作して完封すべき才能だ。
「理論的には可能な筈なんだけどねぇ。
遺伝子異常を治すんだったらまだしも、単なる才能を消すのは難しいかなぁ」
溜め息を吐きながら碧が言った。
「遺伝子異常を治せるの??
だったら他の人には無い才能なんだから、遺伝子異常と同じ様に目立たない?」
「いやいやいや。
遺伝子異常だって、何万とある遺伝子を読み取って他の人の遺伝子と比較して直す訳じゃあないからね?!
なんかこう、生存に差し支える異常って集中すると赤く光って見えるんだ。
魅了どころか、退魔師の才能ですら光らないから探すのはほぼ不可能!」
ぶんぶんと首を横に振りながら碧が言った。
うわ〜。
白魔術ってマジで治療の為の才能なんだね。
遺伝子レベルで、生存に差し支える変異が目立って見えるなんて。
白魔術師だってその気になれば人を殺せるから、才能には生かすも殺すも方向性はなく、単に本人の意思と性向だけだと思っていたのだが・・・マジで治す方向へ才能が向いているのかぁ。
黒魔術師は悪事に向いていると良く言われたが、悪事用に向いた方向に才能が使いやすいって事は無いんだけどなぁ。
悪事に向いた才能なんて要らないけど、なんか不公平に感じると言うか・・・複雑な心境だ。
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