第126話 『教えてあげる』って・・・。
「取り敢えず、ここじゃあ煩いからどこか人が居ない部屋に行こうか」
私が目を合わせた事で言う事を聞く様になったと思ったのか、断られるなんて絶対にないと自信満々な表情で瀬川とやらが学食の入り口と反対方向へ足を進め始めた。
ここで無視して当初の予定通り学食に行ったらどう言う顔をするかちょっと見たい気もするが、取り敢えずこいつが何を企んでいるのかはっきりさせた方が良いだろうし、その為には周りに人がいるのは都合が悪い。
今のところは大人しく着いていこう。
一応、クルミの分体を取り出しておく。
『離れて後をついて来て、私がどうにかされちゃったら碧に助けを求めて頂戴』
『了解にゃ!』
私の念話でのお願いにクルミが張り切って答える。
15歳で覚醒して以来、色々と自衛のために準備したり計画したりして来たが、本当にそれを役立てる日が来るとは思わなかった。
「どこに行こうか、瀬川クン?」
近藤さんが瀬川の腕に手を掛けながら明るく尋ねる。
「そうだね〜。
西館の方にでも行こうか」
呑気な声を出しながら歩いていく。
私には魔眼が効いていると思っているのか、私の意見を聞きもしないし振り返りもしない。
一体なんで私をどこかに連れ込もうとしているんだろう?
あと、近藤さんをどこかで振り払わないと魔力を使っての戦いになったら面倒なんだが。
記憶の消去も出来るが、前もって準備していないと消去のスタート時点がいい加減になるせいで記憶を消し過ぎかねないんだよねぇ。
魔術での戦いになったら流れ弾(流れ術?)に当たる可能性もあるし。
黒魔術師同士の戦いだと、死にさえしなければ治る火傷や切り傷の代わりに記憶障害とか極端な疲労とか、下手をしたら寿命の損失とか言った治せない被害を受ける可能性があるから関係ない人は巻き込みたくないんだが。
私に声を掛けて来たのは近藤さんだが、彼女も私との伝として使う為に巻き込まれた可能性が高い。
どうすっかなぁ〜。
そんな事を悩みながら廊下を歩いていたら、建物の出口に着いた。
「ちょっと今日は帰ってくれる?」
あっさり瀬川が近藤さんにお願いして追い払った。
お。
ラッキー。
これで心配する対象が減った。
何故か瀬川は語学とかが行われる小さめな教室が入っている西館ではなく、サークルの部室が集まる北館の方へ進み始めた。
「折角だからやっぱりサークルの部室にしよう。
今日は誰も来ない様に頼んであるんだ」
おいおい。
単に気に入った女を部室に連れ込んでムニャムニャをやるつもりなだけなの?
でも、それだったら普通に私に声をかけて魔眼で釣ればよさそうな物だが。
本当に、何を考えているんだろう。
魔眼が効くと思っているなら近藤さんをわざわざ使った理由が分からないし、効かないと思っているなら今の態度は理に叶わない。
イマイチ状況が分からないので、大人しく何も言わずに魔眼でちょっと洗脳状態にあるかの様に瀬川の後に着いていく。
やがて北館につき、我々のサークル部室より2回りぐらい小さな部屋に入り、瀬川がパン!と手を叩いた。
「ここは・・・?」
多めに瞬きをしながら部屋を見回して見せる。
「俺のサークルの部室。
超能力や魔術を試す為に作ったサークルなんだけど、あまり分かりやすい名前じゃあダメだろうと思ってサークルは『歴史伝説研究会』って名称にしている。
近藤さんに頼んで長谷川さんに声を掛けたのは、君にも才能があるからなんだ。
俺には君の力が視える。折角の才能なんだから、協力してその力を使う方法を教えてあげようと思ってね」
ドヤ顔で瀬川が説明した。
はぁ?
教えてあげようって・・・魔眼は基本的に独学でかなり使いこなせる筈だけど?
素人が教えられるぐらい才能があるなら自力で使えるようになるだろうし、才能が潜在的でまだ覚醒していない状態だったら素人がちょっと手を貸した程度で開花するとも思えないが。
「他のサークルの人も・・・超能力があるの?」
って言うか、超能力があるなんて言い出して疑われない方が変じゃない??
サークルのメンバーに気を取られて質問をした瞬間、失敗したと思った。
が。
どうやら瀬川は自分の言葉を疑われない事に疑問を感じないらしい。
う〜ん。
もしかして、普段から魔眼を無意識に低出力で使っていて周りの人間に発言を否定されたり疑われたりしていないの、こいつ??
「いや、そう言うのに興味がある奴らに声を掛けて適当に遊んでいるだけ。
才能を感じられたのは長谷川さんが2人目かな」
ある意味、私の魔力に気がついたとしたら眼は確かに良い。
本当に助けようと言う善意だけで声を掛けたとも思えないけど。
と言うか、私に力があると思っているなら、なんで魔眼を私に対して使ったんだ??
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