第112話 嘘を『つかせない』か『つかせる』か
「この際、黒田に術を掛けて嘘を付けないようにできないの?」
田端氏が帰った後に碧が提案してきた。
色々聞いた後に田端氏と確認したところ、なんと過失致死が認められた場合は殺した事に対する刑罰は罰金刑だけだと判明。
まあ、強姦未遂も認めているのでこちらは確実に5年以上の懲役になる筈らしいが、執行猶予がつく可能性もあるとのこと。
出来るだけ殺人プラス強姦の両方で懲役刑にして実質無期懲役か、せめてヨボヨボで人に害を加えられなくなる年まで収監出来るよう担当警官と検察官の尻を叩くと田端氏が言っていたが・・・大丈夫なのかね?
過失致死を受け入れそうだったと聞いた時点で、この事件の担当者に対する信頼が地に堕ちたのでかなり不安だ。
碧も同じ様に感じたのだろう。
が。
世の中、そう都合良くいかないんだよねぇ。
「嘘を『つけない』様にするのって嘘を『つかせる』様にするのと使う術は同じなんだよね。
こちらの要求する点が正反対なだけで、対象者の意思を捻じ曲げるのは同じだから。
これってつまり、術者にしかどっちの方向に術が掛けられたのか分からないの。
だから前世では裁判がある時は『言動を強制する術がかかっていない』事の確認と、『嘘をついていない』事を確認出来る術しか掛けない決まりになっていた訳。
この世界にだって黒魔術師がいるのに捜査とか裁判に退魔協会が協力していないのって同じ問題があるからだと思うよ」
碧が私の言葉に顔を顰めたが、最後の方を聞いて首を傾げた。
「嘘をつけなければそれで良くない?」
「嘘をつけなくても意味深で正確には嘘では無い答えを返せばいいんだから、幾らでも相手に誤認させる事は可能だよ。
連続殺人魔になる様な異常者って無駄に頭が良い人間が多いから、却って『嘘をつけない』って当局側が油断していると騙されて大変な事になりかねない」
それに、対象者の言動を歪められる精神系の術が使えるって退魔協会に知られるのは危険だ。
適性が黒魔術だと言うのはわかっていても、協会は私がどの程度の術を使えるかは知らない。
独学だと言い張っているのだから、せいぜい相手が嘘をついていたら分かるのと霊と意思疎通が出来る程度だと思われていると私としては期待している。
藤山家の助けで符の作成が出来る様になったとそのうち認めて収納用の符を売ろうとは思っているが、それ以外に関しては力技で霊を吹き飛ばすタイプの使えない術者だと思われておきたい。
・・・そう考えると、使い魔の作り方を知っていたのも不自然かな?
まあ、聞かれたらこちらも藤山家の秘伝って事にしてもらおう。
マジで碧と組めたのはラッキーだった。
「そっか。
下手にそう言う精神系の術を使えるって退魔協会に知られる方が危険そうだね」
碧も黒魔術の利便性と危険に気がついたようだった。
「そう。
だから使い魔の作り方も白龍さまに先祖が教わったのを私に伝授したことにしてね。
黒魔術師と使い魔作成が相性が良いとは言え、かなり高等技術だから独学でたどり着くにはとんでもない才能が必要だと思う」
躯体に霊を固定し長期的に魔力を充填出来る様に出来る術と言うのは、適当にそこら辺に漂っている気のいい霊にお願い事をしたり話を聞くのとはレベルが違うのだ。
「白龍さまって使い魔の作り方なんて知ってるの?」
碧が白龍さまに尋ねた。
『勿論じゃ。
式神を作るのを何度も見てきたし、他の世界の情報とて持っている。
儂がやるならば眷属を生み出す方が効率的じゃが、碧に教える事ぐらいなら朝飯前じゃぞ?』
白龍さまがあっさり答えた。
「・・・じゃあ、何で今まで教えてくれなかったの?!」
碧が憤慨した様に叫んだ。
おやぁ?
過去にも使い魔を作りたいと思ったことがあったの?
『教えてくれと言われんかったからの。
命に関わる場合でない限り、儂はお主らを助ける為の提案は頼まれなければせんと言っておるじゃろう』
しれっと白龍さまが答えた。
まあ、ただでさえ途轍もなく便利で強力なヘルプなのだ。
これで至れり尽くせりに頼まなくても助けてくれるようだったら、あっという間に甘やかされて自分じゃあ何も出来ない役立たずが出来上がるだろうね。
「そうだった・・・」
がっくりと碧が座り込んだ。
・・・一体どう言う場面で使い魔を欲しがったんだろう?
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