第111話 逃すか!

「過失致死?!」

警察庁の退魔協会担当である田端氏の言葉に、思わず声を荒げる。


「どうしても好きだったから気持ちよくなって一緒に夜を過ごすよう睡眠剤を酒に混ぜたら、同窓会やその後に飲んだ酒と合わさって効きすぎたのか、気がついたら呼吸が止まっていたそうだ。

強姦未遂と過失致死を認める事になるが、殺人罪よりはマシだと思ったんだろうな」

溜め息を吐きながら田端氏が説明した。


「あの黒田と言う男は今まで大量に猫や鳥を殺しているんです。

連続殺人魔の典型的な初動じゃないですか、これ?

一度人も殺したとなったら、これからも殺し続けますよ。

香織さんの話では、倉庫と追加の冷凍庫をネットで探していたそうですから」

失敗したな。

死体が部屋に残っているんだから殺人罪であっさり有罪判決になるだろうと思って、日本の警察は有能だと言う話だし大丈夫だろうと安易に判断して香織さん以外に関する情報を伝えていなかった。


まさかデートレイプ・ドラッグの量を間違って殺したなんて言い訳をするとは思っていなかった。


「最初だし、もしかしたらまずは家に連れ込んで強姦した後に監禁して時間を掛けて殺すつもりだったのが、間違えて連れ込む為の薬が多過ぎて死なれてしまったのかも?

でも凛の言う通り、一度殺したからには次も続くと思うわよ?」

碧が付け加える。


そうか。

連続殺人魔にしては妙にあっさり殺したなぁと思ったが、今回の殺し方自体はうっかりミスの可能性もあるのか。


「彼は家に後付けのディスポーザーをつけて殺した猫や鳥の死骸の骨以外の部分を下水に流していたんだと思う。

本来ならちゃんと浄化槽も必要なのにそれを設置してなかったからゴキブリが異常発生して、我々が呼ばれた案件にゴキブリが侵入してきていたんでしょう。

マンションの排水管でも調べれば異常な量の血や肉が流されたのを確認出来ないかしら?

動物とは言え、『殺す行為』を異常な程に繰り返していたのは見て取れる筈。

後は本人のPCを調べて倉庫のレンタルや冷凍庫の購入を考えていたかとか、犯罪の証拠隠滅の方法を調べていたかを確認したら、更に犯罪を重ねる意図があった事が証明出来ないですか?」


死体が完全に残っていたので排水管を調べないのはしょうがないにしても、PCを調べるのは基本中の基本じゃ無いのかね?

それとも既にデートレイプ・ドラッグを使う意図があった事を認めていたから、ストーカーとして香織さんを狙っていたのはもう分かっていると調べなかったのか。

・・・日本の警察も逮捕率から言うほど有能じゃあないみたいだ。


日本の推理系ドラマでは警官が物凄く単純バカに描写されることが多くて可哀想にと思っていたのだが、もしかして本当に単純バカが多いの??


『世の中に危険をばら撒くような輩を当局がしっかり監禁しないのなら、天罰を下せば良い』

白龍さまがあっさり言った。


「天罰ってどんな感じなんですか?」

これ以上命を奪わないなら本人を殺す必要はないかもだけど。

天罰ってどの位の期間続けられるんだ?


『死ぬまで生涯にわたって重度の下痢に悩まされる様にすれば、碌に出歩けなくなるし女子おなごに乱暴をしようとも思わなくなるのでは無いか?』

白龍さまが尻尾を振りながら提案した。


おお〜。

重度の下痢ってことは、それこそオムツ無しでは出歩けなくなるって感じ?

でも、開き直ってオムツを履けば強姦は無理でも殺人は出来ちゃいそうだが。


「いや、まあ・・・取り敢えず、排水管とPCの確認をやらせますよ。

警察としても、一度死体ごと捕まえたのに相手の嘘を信じて短期の収監で済ませて、出所後に連続殺人を犯されたりしたら面目丸潰れですからね。

そこら辺を強調しながら再考を促しておきます」

田端氏が額の汗を拭いながら言った。

どうやら彼は多少は霊感があるのか、白龍さまの声が聞こえるらしい。


「是非お願いしますね。

元々犯罪ドキュメンタリーとかが学生時代から好きだったらしいですから、ここで逃したら証拠隠滅をしっかりやられて次に捕まえられるまでに何人死ぬ事になるか、分かったものではありませんよ」

警察の権限乱用を防ぐ為の法律がある日本では、相当な理由がなければどれだけ確信があっても家の中の捜査すら出来ないし、証拠が無ければ当然逮捕だって出来ない。


冤罪問題がちょくちょくニュースになる時代なのだ。

有罪なのは分かっていたとしても、証拠がないからとでっち上げたりしたら警察が吊し上げにされて犯人は解放されてしまう。


下手に軽い刑罰で見逃して後で散々殺しまくった後に不十分な証拠で捕まえようとするよりも、死体があって幾らでも調べる権利がある今、しっかり法の範囲で出来る限りに重い刑罰を科して一般社会に出られないようにする方が絶対に効率的だ。


「・・・伝えておくよ」

田端氏が苦い顔をして頷いた。


まあ、こんだけ念を押してもダメだったら・・・命を奪えないよう、制約を掛けちゃおう。

白龍さまが手伝ってくれるなら黒田が死ぬまで効果を継続できるぐらい強く出来るはず。


下痢よりも確実だって白龍さまを説得できるといいんだけど。






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