第110話 霊に事情聴取
「よいしょっと」
カウンタートップによじ登る。
家具が全く無いのでよじ登るのも中々大変だ。
スカートやタイトなジーンズを履いてなかったのは幸運だったな。
流石にタイトスカートは履かないが、動きやすいスカートなら簡易鑑定程度だったら問題ないと思って前回はスカートだったのだ。
いくら見る男性が居ないとは言え、ガバッと足を開いてカウンタートップにスカートでよじ登るのは女を捨て過ぎている。
まあ、必要があったらやるけどさ。
カウンタートップの上でゆっくり立ち上がり、霊視する為に集中して天井付近(と言うかその上)を見回す。
「どう?」
碧が聞いてきた。
「居た。
こんにちは〜」
殺され方があまり酷くなかったのか、20代半ばぐらいの女性の霊はぼんやりと座り込んでいるだけだった。
もう大分と薄れてきている感じだから、これだったら悪霊化せずにあっさり成仏するかな?
白魔術師としての適性が強い碧は、悪霊ならまだしも普通の小さな動物霊や褪せかけている人間の霊はかなり集中しなければ視えないし、下手に関与しようとするとうっかり浄化してしまう事があると言う話だった。
なので事情聴取は私の役目だ。
この女性には悪いが、退魔協会経由で警察に連絡する予定なので出来れば成仏も待ってもらいたい。
流石に無理やり現世に縛り付けるつもりは無いので自然に昇天しちゃったらそれまでだが。
『・・・あら。
こんにちは?』
暫くしてから、こちらの呼びかけに気がついた女性の霊が応じた。
「お名前を伺っても良い?」
行方不明者として警察が調査をしていて、情報提供を求めていたら話は早い。
霊によっては自分の名を忘れているケースもあるが、流石にこの女性の霊はまだかなりフレッシュなので大丈夫だろう。
まあ、いざとなれば生前の記憶を呼び出す術もあるが。
でも退魔協会に変な関与を疑われないよう、出来れば普通に聞き出せる方が望ましい。
『水島 香織よ。
横浜の本屋で働いていたの・・・』
ぼんやりと香織嬢が答えた。
横浜の本屋ねぇ。
何で都内のこんな所で殺されたんだ?
都内で働く人が横浜に住むことはよくあると思うが、横浜で働いているのに都内に住む人はあまりいないだろう。
なんと言っても家賃がそれなりに違う。
「香織さんって呼んでも良い?」
『どうぞ〜』
「香織さんの最後の記憶って何?」
病死以外の場合は霊が自分の死を覚えていない事もある。
術で無理やり記憶を引き出すのは霊にとってストレスになるので出来れば避けたい。
まあ、生きていても暴力を振るわれたり事故で怪我をしたショックを思い出すのはストレスなのだから記憶を封じていても不思議では無いけど。
生者と違って死者はストレスを加えると変質したり劣化しかねないのだが・・・出来れば殺害現場が何処かとか、死体が残っているか等の情報は得ておきたい。
『・・・そうねぇ。
同窓会があるから実家に帰ったのよね。
妹の猫と遊んで、美容室で久しぶりに髪の毛を整えて貰い、同窓会に行ったわ。
そこで昔の同級生と会って話が盛り上がったから、帰りに新しく出来たお洒落な飲み屋とやらに誘われたので一緒に行ったら飲み過ぎちゃって歩けなくなっちゃって、酔いが醒めるまでって事で彼の家にお邪魔したの。
どうもそこで殺されちゃったみたい?
次に気がついたら自分の体の上に浮いてたわね』
のんびりと香織嬢が言った。
なるほど。
殺された記憶が無いから比較的落ち着いているのか。
「え〜っと・・・香織さんの体は今何処にあるの?
出来れば警察に連絡して同じような事が起きないようにした方が良いでしょ?
その同級生の情報も教えてくれるとありがたいな」
多分上の住人は殺した猫や鳥の死骸は適当に切り刻んでディスポーザーでも使って台所の排水溝から流しているっぽいが、流石に人間の体でそれは難しいだろう。
海外犯罪ドラマなんかによると家庭用に買える洗剤でもコンビネーションを選べば死体を跡形も無く溶かせるらしいが・・・その場合でも何か血痕とかが家の何処かに残っていると期待したい。
「ここの冷凍庫に入っているわね〜。
冷蔵庫がついていない冷凍庫単体のって初めて見たわ。
あと、私を殺したんじゃ無いかと思う同級生の名前は黒田 透。
学生の頃はちょっと内向的でやたらと犯罪ドキュメンタリーとか殺人犯の伝記とかが好きな変わった人だったの。
同窓会では見違えるほど常識的で明るく自信に満ちた感じになっていて、大人になったんだな〜って思ったんだけど・・・どうも彼ったら変な方向に開き直っちゃったみたいね。
倉庫を借りられないかネットで調べていたから、近いうちに私を冷凍庫ごと動かすかも?』
ノンビリと香織嬢が教えてくれた。
犯罪ドキュメンタリーとかが好きなのか。
色々と死体の処理方法とか調べていそうだな。
まさかGの大量発生で足がつくとは思わなかっただろう。
このマンションの排水管に何やら問題があって幸運だった。
「そうなんだ。
出来るだけ急いで警察に対処するよう頑張るから、よかったら待っていて」
いつ殺されたのか不明だが、この調子だったら49日までに成仏しちゃいそう。
前世では霊の成仏に必要な日数は特には決まっていなかったが、日本人の場合は49日以内に成仏すべきと信じているせいか、心残りがある霊以外は49日以内に次のステージに移行する事が多い。
香織嬢に無理に残ってもらうつもりは無いが。出来る事なら犯人が捕まるのを見てからの方がより心残り無く成仏できるだろう。
『分かった〜。
あ、終わってからで良いんだけど、私の妹に約束通り犬の世話を宜しくねって伝えてくれるかな?』
「ひと段落ついたら、妹さんの夢で話し掛けられるようにするわ」
『ありがとう』
夢は比較的簡単にアクセス出来る。
時間帯を選ばないと起床時に忘れているなんて結果になりかねないけど。
明け方にアクセスして、夢が終わったら直ぐに覚醒させれば大丈夫だろう。
多分。
一応話し合いの記憶をキープしておいて、忘れているようだったら日中に白昼夢っぽく再度見せても良いかも。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます