第109話 ヤバい兆候

「排水管の横に小さな割れ目があった〜」

クルミを動物霊の出所探索に送り出し、碧の進展を確認しに行ったら台所で力なくしゃがみ込んでいた。


「下水からGが上がって来てたの?

下水道ってやっぱりアイツらが大量に居るんだね」

映画なんかでたまに下水道に主人公などが逃げ込んだり追跡する羽目になったりすると、臭いと言う話はよく出るもののGが大量に発生していると言う描写は無かったが・・・映画の大筋には関係ないし、撮影現場にGを持ち込むのも大変だろうし、観客にも不評だろうしと言う事で無視しているんだろうなぁ。


とは言え、現実的な話として水に流されそうな気もするが。

通常は水量が少なくてGが繁殖出来るだけの場所が確保出来ちゃうのかな?


「なんか、下水道とかそこに繋がるこのマンションからの排水管にやたらと沢山小さな生命が繁殖してて・・・あれが全部Gだとしたら、ホラー映画になりそうなぐらい居そう」

げっそりとしながら碧が言った。


うわぁ。

怖すぎる。

「絶対に確認作業には関与しないでおこう」


「だね!!」


幸い、ちょっとヤバめな動物霊がいるがどれもまだ悪霊にはなって居ないので、我々の仕事では無い。

ゴキブリの出現も超常的な原因では無く、普通の物理的・生理学的な因果関係がある事が分かったし。


とは言え。

排水管の横に割れ目が入ることがそこまで珍しいとは思えないから、プロの不動産屋に霊障や呪詛を疑わせるぐらいのレベルでゴキブリが発生しているとなると・・・やっぱり誰かが動物を殺して下水に流しているんだろうなぁ。


アメリカのドラマなんかでは、猫や小鳥を虐待して殺す人ってそのうち人間に手を出す様になるから、大量の動物の死体は連続殺人鬼の兆候だなんて警官役の人が時折語るが・・・どうなんだろう?


言い合いとかで勢い余って殺してしまうケースや、金もしくは恨みが原因な計画殺人は黒魔術で精神に制御を掛ける事で大抵は抑制できる。

だが、快楽殺人の場合は『殺人』は『生きる意義』として生存本能の一部になってしまっている事が多く、一度殺し始めてしまったら魔術でもかなり直接的な行動制限を課さない限り止められないんだよなぁ。


流石に『いつか人を殺す可能性が高いから』というだけの理由で『出勤や生活必需品の買い物以外の為に家を出るな』なんて制限を課すわけにはいかないし、定期的に掛け直さなければそのうち術が破れてしまう。


「ねえ、警察ってちゃんとした理由が無ければ人の家に入って調べられないんでしょ?

人が殺された様な悲鳴が聞こえたって言う様な垂れ込みってどのくらい真面目に取りあって貰えるのかな?」

動物だけしか殺してなければどうしようも無いが、人間を殺していて死体の一部でも残っているなら垂れ込みでもしたら役に立つのだろうか。


でも、現実の話として悪戯や嫌がらせの電話で一々人様の家を捜査する訳にもいかないだろうし、実際の所はどうなんだろう?


「殺された霊が残って居たら退魔協会経由で警察に話を流せるよ?」

碧があっさり答えた。


なるほど!

確かに、物理的証拠が無いからと殺人鬼を放置したらどんどん被害者の霊が悪霊化する可能性が高いんだから、霊の告発はちゃんと対処してもらうのは退魔協会にとってもメリットがあるよね。


依頼の数が足りなくて悪霊化させて依頼を増やしたいって言うのならまだしも、今は退魔師の数に対して案件が多すぎて困っているのだ。


霊の告発にさっさと対処する動機が退魔協会側にもありそう。

それに告発を意図的に握り潰した場合の祟られるリスクも分かっているだろうし。

「なんか、このマンションってやたらと猫や小鳥の霊が多いんだよね。

生ゴミを食べるGが大量発生する様な餌が下水に流されているとしたら、そのうち人間にも手を出すと思う。

原因の住民をクルミが探しに行っているんだけど、場所が見つかったら傍まで行って人間の被害者の霊も居ないか、確認しよう」


がっくりと碧が頭を抱えた。

「うわぁ・・・死体で繁殖したG??

なんかもう、虫の生命を探して見つけちゃった時点で背中ゾクゾクしていたんだけど、悪夢を出て来そう。

一応この割れ目は見つけた時点でガッツリ殺虫剤を吹き付けたから直ぐにはここから出てこないとは思うけど、早くクルミが帰って来るといいね・・・」


『帰って来たにゃ!』

まるで碧の言葉を待って居たかの様に、クルミが現れた。

おい。

マジで待っていたんじゃないでしょうね??


「ありがとう。

何処だった?あと、人間の霊も見掛けなかった?」

取り敢えず、穏やかにお礼を言っておく。


『この上に部屋にゃ!

人間は・・・居たけどまだ悪霊化はしてなかったにゃ?』

あっさりクルミが答えた。


「居たんだ・・・」

うわぁ。

もう一線を超えた後だったか。

取り敢えず、この真上ならちょっとカウンタートップにでも登ればなんとか念話で話して情報収集出来るかな?



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