第108話 G物件の原因は?

「ではお願いしますね」

扉を開け、殺虫剤のスプレー2缶を我々に差し出して帰ろうとした青木氏の腕を碧がガシッと掴む。


「いやいやいや。

ゴキがいるなら、殺すところまではお願いしますよ!

取り敢えず、新鮮な死骸があれば術とかの関係は分かると思いますから」


全くだ。

うら若き乙女にGの対処を任せるなんて、ありえない。

と言うか、この案件は我々に頼むよりも直接退魔協会に行くべきだっただろう。


どう考えても呪いの可能性が高いんだから、女子大生2人には手に余る。

Gが関わる呪詛なんて、絶対に関与したく無い。

呪詛返しに失敗することなんて殆ど無いが、Gが関係するなら万に一つでも返ってくる可能性がある案件は正直言って断りたい。


「しょうがないですね・・・」

溜め息を吐きながら青木氏が扉の中に入って行った。


「廊下で待っていますので、生きてるゴキが居なくなったら呼んでください」

そっと玄関を閉めながら声を掛ける。

殺虫剤を掛けられて最後の足掻きをしている最中のGが複数いる部屋になんて絶対に入るつもりはない。


玄関が開いていた時も廊下から危険な霊障は感知できなかったので、1人で入ったら青木氏の命に危険があるなんて事は無い筈。

今までだって誰も物理的には害されていないらしいし。


「この案件は失敗だったね」

碧が溜め息を吐いた。

「簡易とは言え正式な調査依頼じゃなかったら、ここからガッツリ浄化の霊力を流し込んで『霊障があったとしてももう大丈夫です!』って言って部屋に入らずに済ますんだけどなぁ・・・」


「本当にね。

クルミ、ちょっと中に行って虫寄せ的な霊障か呪詛があるか、確認してきて」

前払いで少し多めに魔力を渡してクルミに頼む。

隠れていたGがどこから飛び出してくるか分からない部屋の中を、原因を探して歩き回りたくない。

数匹のGを呼び寄せる程度の呪詛(もしくは霊障)だったら大したパワーは無いので、それこそクロゼットの中とかシンクの下とかまで調べる必要がある。

危険すぎて絶対に嫌だ。


クルミが見つけられなかったら、どれほど時間が掛かろうと霊視で最終確認するつもりだ。

霊視で見つから無かったら・・・それこそ蚊取り線香でも焚きながら家の中を歩き回って、どこから空気が入ってきているのか確認しても良いかも知れない。


駆除の専門家を雇ったという話なので、その時にGの侵入経路が塞がれなかったのは不思議だが。

駆除専門家なら、駆除した際に部屋の中にある巣の方は全滅させ、外に繋がる通り道は全て塞ぐだろうと想像するのだが、違うのかね?

バルサンとかだと卵は殺せないとしても、当然巣を駆除する為に毒餌タイプも試しているだろうに。


ぐるぐると死滅しないGの謎に関して考えていたら、玄関の扉が開き青木氏が顔を覗かせた。


「5匹ほどいたので全部退治しましたよ。

ただまあ、まだ隠れている可能性もゼロでは無いので一つ持っていてはどうですか?」

袋の中から殺虫スプレーを取り出し、差し出してきた。


しょうがない。


「じゃあ、私はクルミに調査が終わっていない部分を確認しているから、碧は頑張って生命探知で虫が多数生きている巣が無いか、探してみて?」

前世でも小さな魔物を無から生み出す呪はあったが、普通の虫を生み出す魔法陣は存在しなかった。

例え誰からも嫌われるGと言えども魔物ではないので、こちらの世界だったら尚のこと虫を生み出す魔法陣は無いはず。

そう考えると。答えはどこか外のGの巣に繋がっている穴か、虫寄せの呪詛だろう。


『どう?』

部屋の中を見回し、報告しに現れたクルミに尋ねる。

リフォームをしたばかりなのか、建物の外は昭和っぽい見た目だったが中は新しい感じだ。

これでGの死骸が転がっていなければ、『素敵』と思ったかも知れない。


『呪詛も霊障も無いっぽいにゃ!

でも、ちょっと猫や鳥の霊が多いかも?』

クルミがふわふわと飛び回りながら答えた。

確かに、言われてみたら小さな動物霊が多い。

しかもなんかどれも暗くて傷ついた感じだ。


それこそ、こないだの多頭飼育崩壊の家よりもよっぽど悪霊化しかねない感じだね。

どこかで動物を虐待している住民がいるとか?

鳥を捕まえて虐待するのは難しいと思うが・・・ペットショップで文鳥でも買っている?

でも、虐待する為にお金を出して買うとも思えないが。

餌で呼び込んで捕まえられるのかな?

寒村時代では鳥も重要な蛋白源だったから狙う人間が多く、多少パン粉やくず野菜を撒いたところでそう簡単には寄ってこなかったが、今の東京だったら雀やカラスを食べる人間は居ないだろうから鳥も無防備になっているかも知れない。


『この猫や鳥の霊が何処から来てるか、探してきて』

クルミに頼む。

この部屋の中には穢れはないのでここで殺された訳では無い。

としたら、どこか近隣の部屋の住民がやっているのだろう。

そこが死骸の処理をちゃんとしていなくて大量にGを繁殖させている可能性が高いかな。

でも、建物全部でバルサンを焚いたならその際に発覚するか、少なくともGが居なくなりそうなものだが。


・・・なんか嫌な感じがする。

















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