霊障鑑定:案件G

第107話 猫達への聞き取りとG物件

『水が臭いんにゃって』

青木氏が仕事に戻った後、猫部屋に行った私を迎えたクルミが報告してきた。


「水が臭い?」

普通に水道水を使っているだろうに、何か水道管に異常でもあるのかね?


薬を飲ませるんだったらスープかチュールかミルクに薬を混ぜる方が良いと思うが。

水なんぞに溶かしてもガッツリ薄れてしまって殆ど意味がないんじゃない?

それとも粉ミルクでも水に溶かしているのかな?

でも、ミルクだったら『不味い』ならまだしも『臭い』とならない気がする。


『水道から出てきたばかりの水は臭いにゃ。

2日程度おいた方が飲みやすいにゃ。

人間は本当に無知で困るにゃ』

クルミが勿体ぶって教えてくれた。


無知で悪かったね。

水道から出てきたばかりなのが問題なんだったら、カルキ臭ってやつかな?


それだったらだったら循環型の水やり器を使えばフィルターでそう言うのが抜けると思うのだが。

猫好きな青木氏がそう言うのを使っていないとは意外だ。


「水やり器を使ってはどうかと提案しておくよ。

他は?

四六時中見られたり、人が遊びに来るのはどうなの?」


『邪魔されたくない時は上の方のベッドを使うから大丈夫だそうにゃ』

へぇぇ。

意外と社交的な猫逹なんだね。

気にならないならこの猫部屋でのアイドル猫生活は悪くないだろう。

変な飼い主に貰われるよりもここで家族仲良く遊んでいる方が良いぐらいかも?


まあ、子猫は可愛いからねぇ。

貰われちゃう可能性は高いだろうな。

それこそウチだって源之助が居なければ絶対碧が引き取ると言っただろう。

と言うか、源之助が居なかったら見つけた段階で4匹とも引き取るって言い出したかも。


◆◆◆◆


「実は今日の依頼はちょっと変わった案件でして。

霊が見えるとか、変な音がするとか、体調が悪くなるとかは無いんですよ」


子猫達と暫し遊んだ私達は青木氏の車で依頼先のマンションへ向かっていた。

普段は我々が聞かない限り特に何も説明しないのに、何故か青木氏が車を運転しながら次の依頼先について話し始めた。


「じゃあ何故霊障が疑われているんです?」

碧が尋ねた。


「・・・何度バルサンを焚いても、害虫が出るんですよ。

生ごみをきっちり捨てて、バルサンを定期的に焚いて、家中をプロに頼んで清掃して貰っても出るんです。

しかも、人が住んでいない空き家状態になっても出るって・・・異常でしょう?

賃貸人が内覧にいったら虫だらけで断られる事もあるし、前もってバルサンを焚いておいて虫除けしてなんとか無事に契約しても後から虫が出過ぎるって言って出て行かれてしまうんです」

溜め息を吐きながら青木氏が言った。


虫。

嫌な予感がする。

「蠅ですか?

それともダニ?」

ちょっと希望的観測を含めて尋ねる。

それこそ動物の死骸がどっかに隠れていたり、隣人が不潔だったら蝿が湧くことはある。


「ゴキブリです」

残念ながら、答えは恐れていたものだった。


「・・・今から行くところ、ゴキブリがいる可能性が高いんですか?!」

碧が身震いしながら悲鳴をあげた。


「虫も霊障の一部かと思って、今日はバルサンを焚いていないのでその可能性は高いかと。

でも、殺虫剤は新しいのを持ってきているので!」

マジか。


ゴキブリがいる事がほぼ確定している現場になんて行きたくない。

先に教えておいてくれたらこの仕事は断ったのに。


「でも、霊障じゃなくってマンションの他の家に問題があってそこから来ているのでは?」

一軒家ならまだしも、マンションなのだ。

天井裏とか水道管や換気口から出入りしそうだ。


いや、マンションだったら天井裏が繋がっているなんて事はないのかな?

以前新聞でアパートで天井裏が繋がっていたのが違法工事だと問題になっていた気がするから、マンションだったら有り得ないと思いたい。


だが。

あれらが換気扇やエアコンの換気口から入ってこれるかもと考えたらなんか寒気がしてきた。

大丈夫かな?

今度一度確認しておこう。


ゴキブリ退治の程度なら、きっと殺しても大してカルマに悪影響はないに違いない!

鼠ぐらいになると炎華や白龍さまの威を少し漏らせば寄ってこなくなるんだけど、虫はそこら辺が分かる程の知能が無いから頓着しないので、バルサンか・・・魔術で対応する必要があるのだ。


源之助が家にいるのでバルサンは迂闊に焚けないのはちょっと困った問題だ。

Gが出てきたら、源之助を半日程度青木氏の猫部屋で預かってみらってバルサンを焚くのもありかな?


それはさておき。

私が私達にウチでのG出現可能性に関して考察している間も青木氏の説明は続いていた。

「勿論、そう言う対処も駆除専門業者を呼んでやりましたし、管理会社経由でウチの負担で全戸にてバルサンを焚いてみましたが、翌日には戻っていました。

まあ、バルサンの効果か入ってきたゴキブリはほぼ全部床で死んでましたが」


『全部』って複数いたってことか。

家に入ったらゴキブリの死骸が幾つも転がっているって言うのも、めっちゃ嫌だ。

生きてるのが飛んでくるよりはマシだけど。


「それって問題が起きる前か起き始めた頃の賃借人かオーナーが呪われたのでは?」

碧が口を挟む。


そうだよねぇ。

まあ、変な感じにゴキブリ関係で拗らせた霊の引き起こしている霊障の可能性もゼロでは無いが、虫寄せ系の呪いの可能性の方が高そう。


でも、そこまで執拗な呪いだったら部屋じゃなくって対象を追っていきそうなものだけど。

オーナーを呪うなら投資物件じゃなくってオーナーの家にゴキブリを送り込めば良いし。

なんか妙な感じに中途半端だね。


出来ればこれは私らに依頼せず、直接退魔協会に話を持って行って欲しかったなぁ・・・。












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